「冨岡先生も毎年チョコいっぱい貰ってますよね?」
美月が取り分けたサラダの皿を冨岡に手渡すとそれを無言で受け取った。
確かに顔立ちは西端で品があるが故に黙っていればイケメンだって言われているものの、喋るとちょっとズレているこの冨岡は、その顔だけでも票を集めてしまうであろう。
「俺には本命なんて一つもこない。そろそろ俺にも本命チョコっていうのをくれる女が現れてもよくはないだろうか?美月。」
「…欲しいんですか?」
「当たり前だ。俺は今年のバレンタインは恋人と過ごす!!」
胸を張ってそう言い切る冨岡に対してビール3杯目の不死川が「テメェに本命あげる女なんていねぇだろォ、」なんて横槍。
そんな不死川に対してハルは、不死川先生こそ、そんな事言ってる余裕はない気が…なんて思いながらも口に出せないでいた。
もちろん大事なのはゆき乃の気持ちなんであろうけれど、不死川のゆき乃を想う気持ちはゆき乃本人には伝わっていなくとも、傍で見ているハルにはわりと伝わっていて…それがちゃんとゆき乃に届けばいいのに…と、思わずにはいられなかった。
リヴァイがここに来てからは特にゆき乃はリヴァイと楽しそうだし。
「冨岡先生は、誰から本命チョコを貰いたいんですか?」
ハルがまた枝豆をパク付きながらそう聞くと切れ長の瞳を大きく見開く冨岡。その顔はなんていうかそう、「誰からでも構わん!」…あぁダメだ、この人恋ってもんが分かっていない…。
そう誰もが思ったに違いない。
冨岡の横に座っている美月も、その答えに心底呆れた顔で小さく溜息をつく。
せめてそこで「美月」などと答えていたら、美月だって本命チョコをあげよう!って気に少しくらいはなったと思うのに。
「オイ義勇、その程度の気持ちじゃ本命チョコなんて貰えるわけがねぇぞ。」
クッと余裕に笑みを浮かべたリヴァイがゆき乃の横から冨岡にそんな言葉を飛ばす。
ここにいた全員がそれを分かっていたけれど、誰一人口にする物はいなく、見兼ねたリヴァイがそう言った。けれど、冨岡はキョトンとした顔で「そうなのか?なぜだ?」なんて問いかけ。
ウイスキーをズズッと飲んだリヴァイは眉間に皺を寄せて言い放った。
「そんな事も分からねぇようじゃ、好きな女にすら気づかねぇだろうな。近くにいる女がどれだけいい女かちゃんとその目で見てみろ。お前らも取られたくねぇ女がいるなら少しぐらい正直になるんだな、俺のように。」
そう言ったリヴァイは、ポスッとゆき乃の髪を優しく撫でた。愛おしいものを見るその優しい眼差しに、ゆき乃だけではなく、ここにいた誰もがリヴァイ・アッカーマンに魅了されたに違いない。
「はっ!とんだ紳士じゃねぇかァ。アッカーマンさんよォ、みんながみんなテメェみてえになれるもんじゃねぇ。だがな、そこまで言われて黙ってられねェ。ゆき乃、ここに座れ。俺の横だ。今すぐだ!」
風のようにビュンとゆき乃を攫いに来たものの、それをすかさず止めるリヴァイ。指一本触れさせないリヴァイはまた、見るにかっこいいとしかいいようが無さそうだった。
「オイ誰が俺の女に触っていいと言った?本気で怒るぞ。」
「…実弥先生、」
「頼むよ、そんな顔させてぇ訳じゃねェんだ。」
近寄る不死川に、それでも身体を入れてゆき乃を自分の後ろに隠すリヴァイも目をギラつかせて不死川を睨んでいる。
どっちも引こうとしない二人に、「不死川、止めておけ!」ハルの隣、煉獄がそっと仲裁に入った。