それぞれの恋愛事情D

「顔が熱い…」


女子トイレの中、用を足して鏡の前で手を洗っているゆき乃に続いて出てきた奈々がニンマリと笑う。先に出ていたハルと美月もゆき乃を見て頬を緩ませている。


「そりゃそーでしょ!どーすんのよ、あの二人!これじゃあゆき乃が決めなきゃどっちも引かないよ、不死川もリヴァイも!」


地味に本人のいない所では不死川呼びしている奈々。煉獄が止めに入った後、不死川は大人しく一旦下がった。けれどいつゆき乃を取り返そうかその隙を目をギラつかせて待っていた。しかしだ、みすみすリヴァイがそんな隙を与えるはずもなく、なんならゆき乃自身には隙だらけなので、それすらも隠したがっているに違いない。


「…うん、そう、だよね。奈々〜わたし今すっごく自惚れてもいい?いいよね?でもほんとに分からないの!!実弥先生はずっと気になってたから手に入るかも?って思ったらそりゃ掴みたい。でもね、リヴァイはなんかずるいの。本当はそんなつもりじゃなかったのに、クリスマスもリヴァイと二人で飲みに行ったりして…あの人はわたしの欲しい言葉をちゃんとくれる。それが嘘には聞こえないし、リヴァイのこと、もっといっぱい知りたい。もーどーしたらいいのよー!」


顔を手で覆っても酔いなんて覚めやしないし、赤く染まっているのは消えないけれど、それでもそんな浮ついた話をするゆき乃自身をなんとか隠したくて顔を塞ぐ。


「えーうらやまぁ!!ゆき乃先輩あんないい男二人に想われてさぁ。私なんて聞きました?冨岡先生、誰でも構わん!って、あの一言でちょっと冷めそうッス。」

「ぶっ、確かに!冨岡先生あれはないよねぇ。美月じゃなくともあたしだって天元にあんな事言われたら凹むわー。ハルは?煉獄先生とどうなの?」


奈々が鏡越しにハルを見つめていて、自然と他の三人の視線もハルを捉えている。
長身のハルは肩につくウェーブがかった髪を手ぐしでとかして視線を交互に絡ませた。


「好きです、そりゃあ!私は煉獄先生だけです!!でも恋愛に疎そうですし、なんか目が合うと緊張しちゃってうまく喋れないというか。でもこの前たまたま帰りが一緒になって、駅まで送ってくれたりして。あんまり女扱いされる事ないからすごくドキドキしました。さっきも不死川先生とリヴァイ先生の仲裁に入ったの内心めちゃくちゃカッコイイ!ってそこばっか見ちゃいましたよー。」


初めて言う事実に皆がハルをパシパシ叩く。
抜け駆け〜って。


「じゃあ白状するけど、」


ハルの抜け駆けに被せるようにゆき乃が手を挙げる。その顔は以前変わらず真っ赤で。


「クリスマスの日、リヴァイにキスされた。…死ぬ程うまかった、キスが。」

「「「ぶっ!!!」」」

「ゆき乃さん、それ決まりじゃ?」


ハルが目をパチクリさせてゆき乃を見ると、やっぱり真っ赤で。外国人というだけで確かにそーいう事が上手そうだけれど、それ以上になにかリヴァイにはエロス的なものすら感じ取れる。
爽やかなファーラン、ミステリアスなミケ、エリートなエルヴィン、どれを置いても皆紳士で素敵なんだと思う。けれど、リヴァイはその中でもやはり郡を抜いてオーラがあった。小柄な身長すら、気にならないくらいに。


「でも、好きって言われてなくて。さすがにわたしでもリヴァイの気持ちは伝わってるんだけどね、でもでもやっぱりさ、言われたいよね。男たる者、惚れた女にはちゃんと物申せ!というか。…先に実弥先生に言われてしまったらどーしよう。あー決めきれないよぉ。いっそ身体を二つにして欲しい。」

「ふふ、ゆき乃ってばそんな大事なこと隠してたなー!もうあたしに相談しなさいっていつも言ってるのに。」


ちょっとだけ怒った顔をした奈々だけれど、次の瞬間にはもう笑っていて。


「なら不死川ともキスしてみたら?そしたら意外と自分の気持ちが見えたりするかもよ?」

「奈々先輩、すげーこと言いますね!でもそれ名案だと思うの、ゆき乃先輩!ね、ハルもそう思わない?」

「うん、思う!でもリヴァイ先生のキスはちょっと太刀打ちできなさそうだけど。」


あのリヴァイに本気でキスされたら、女はみんな腰抜かすだろうぐらいの勢いで。三人のアドバイスにゆき乃は照れ笑いしかできなかった。