「なんだ?」
「手はもう大丈夫だから、着替えて下さい。さすがにそれじゃ風邪引くと思う。なんでそんなにびしょ濡れだったんですか?」
今も濡れたままの冨岡先生の後ろで束ねている髪の毛から、ポタポタと雫が落ちていて…。勿論ながら着ているジャージも湿っている。
「見回りをしていた。傘を持たずに。それだけだ。」
「ぶっ、傘もってくださいよ。相変わらず破天荒ですね、」
フッて笑うと、そんな私を見ていた冨岡先生が同じように目を細めて微笑んだ。あまり表情の変わらない冨岡先生にしては少し珍しい笑い方で。
不意に伸びてきた指が私の頬をゆるく掠めた。
「そんな風に笑うのだな、美月先生。…ああ、そうか、これかもしれん。先日アッカーマン先生が言っていた事だが…ーー近くにいる女とは、美月先生の事だろう。」
急に何言い出すのかと思ったら、そんな事で。
この人は、そーゆう色恋事情に物凄く疎い。そして、慣れていない。元々の性格もあるんだろうけど、人が恥ずかしくなるような台詞を真顔で言う辺り…ーーズルい。
顔がいいだけに、なんの信憑性もなくとも照れてしまうのはこっちで。
「美月先生、やはりこれから食事に行かないか?」
「…あの、」
「なんだ?」
「えーっと、」
「安心しろ。今言ったのは事実だ。俺は美月先生と食事に行きたい。できれば美月先生からの本命チョコが貰いたいと思ってる。どうだろうか?」
せ、攻めるな、急に!
だってなんか後ろの壁に追い込まれてるよね、今私。
見上げる冨岡先生は真剣そのもので。
「それはその、」
「…?」
ダメだ、通じない。分かってない、肝心な言葉がないとこっちは一歩踏み出せない。
「恋がしたい。俺は美月先生と恋がしたい。ダメであろうか?」
でも、そんな分かりずらい人を好きになったのは私であって。絶好のチャンスは変わらず目の前にある。
不死川先生にもあんだけ啖呵切ってきた訳で、後には引けない。
どこか遠く、頭の奥底で聞こえるゆき乃先輩達の声。
『『『美月、いっときなさい!!』』』
天使か悪魔か、先輩達の声と重なるソレに思わず俯いて小さく笑った。
いくしかないなぁ、これ。
「ダメ、じゃないです。」
「いいのか!?なら、」
グッと肩に載せられた手に力が込められる。トクンと胸が高鳴る。壁に背をつけたまま、背の高い冨岡先生を見つめあげる。西端な顔立ちが私を見つめていて…
もしここで冨岡先生がキスしてくれたら、私はこの恋を進めよう。
「美月…、」
「ッ、義勇さん…」
トンと壁に肘をつけるよう、冨岡先生の温もりが私に落ちた。
こうして、私と冨岡先生…もとい、義勇さんとの恋が始まった。
ー完ー