翌日の準備をして帰ろうとしたら電話が鳴った。この時間に鳴る事なんてそうないなぁ〜なんて思いながらも受話器を上げて名前を名乗るあたしが固まりつつあると、職員室の後ろドアから美術の天元がカラカラとサンダルを鳴らして入ってきた。あたしを見て軽く手を上げるも、小首を傾げて止まった。
「どうした?」
受話器を耳から話したあたしはその顔のまま「警察から。天元先生、一緒に来てくれませんか?」…2月5日の事だった。
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「たく、何が楽しくてサツに頭下げなきゃなんねぇんだ。おい、我妻!お前次やったらそのポンコツな下半身使い物にできねぇようにしてやるぜ!」
イライラ感満載の天元先生に釘を刺されてしょんぼり肩を落とすのは、制服でラブホテルに入った我妻善逸くんと、彼女の竈門禰豆子ちゃん。
ホテル従業員にまんまと通報されて先程の電話に至る。
何事だってドギマギしながら警察まで迎えに行ったら肩を落とした2人がそこにいた。
「本気でホテルに入るつもりだったの?」
禰豆子の隣に座ったあたしは肩を抱いて小さく聞く。この年頃の生徒は確かに性に対して敏感で、自分の学生の頃を思い浮かべても思い当たる節はいくつかあった。
間違った知識で万が一の事が起きてからではもう遅い。
「…本気です。私善逸の事が好きだもん!」
「禰豆子ちゃん、俺、俺っ!離せよ宇隨!俺と禰豆子ちゃんの事、引き裂こうとするなよ!!俺たち本気なんだよ!!」
善逸の気持ちも分かるけど、教師として認める訳にはいかない。それが学校という組織であって、その中であたし達は生かされている。
天元を見るとさも呆れた顔をしていて。
「まだケツの青いガキだなぁ我妻ぁ。いいか、もし次同じ事を言われたら次は別の答えを言うんだな。一つ名言を教えてやる!女の前では本気で喧嘩は絶対にするな。例え怒りがおさまらなくとも、それでもオトコなら女守る事を先に考えろ。今お前らはすげぇ不利な立場だ。下手なこと言って女が傷つく事になったらオトコとして立場はねぇぞ。分かるな?」
歯を食いしばって「分かりました。すいませんでした。」ギリギリと頭を下げる善逸に天元はニコリと笑った。
確かにこーいう時、天元ならうまく交わすんだろうなぁなんて思えた。
ちょっと惚れ惚れしてしまう。
「俺に惚れたか、奈々!」
ニッて白い歯を見せて笑う天元にハッとして思わずその太い腕をパシンと叩いた。
元々惚れてるよ!…なぁんて言えやしないけど。
「んな、物欲しそうな顔で叩かれても説得力ねぇぞ。派手にホテル入ってから帰るか?」
わざとあたしの肩に腕を回す天元の冗談が冗談である事が悲しい、そう思うなんて。
「入りません。でも我妻くん。天元先生の言う事は女としてはすごく嬉しいと思うの。本気で竈門さんを好きなら心に留めて置いてね。」
「はい。」
「うん!よし、じゃあ帰りなさい。」
仲良く手を繋いで帰る二人を見送って小さく息を吐き出した。