カウンセリングルーム

中高一貫キメツ学園には、それはそれはひっろい学食があって、そこは中学一年生から高校三年生までが利用できる憩いの場所だった。
そしてその憩いの場から少し歩いた先、体育館へと繋がる渡り廊下を左に曲がると見える、カウンセリングルーム。
これだけ沢山の生徒がいるんだからって、いつからかこの部屋ができた。
でもだからってこの場所に通っている奴がいるかなんて知らない。
そもそもカウンセリングを受けるほどの事はまぁないし。
だからどんな人がそこにいるのかなんて、知らずに過ごしてきたんだ。

ーーあの日までは。


「ねぇ炭治郎。あの人誰?」


学食から出た時だった。
聞いた事のない音を耳にした。
生まれつき五感が優れていて、人よりずっと耳が良かった。
遠くの音は勿論、人の感情も音で聞こえてくる。
怒っているとか、喜んでいるとか、そーいうのがなんとなく分かっちゃうんだ。
人によって音も全然違うから初めて会う人だと聞いたことがない音が聞こえて…


「え?ああ、カウンセリングの苗字先生だろう。善逸は初めて会うのか?」
「カウンセリング?本当にそんなのあったんだ?」
「あるぞ!誰でも気軽に悩みを相談しているとか、」


後ろ姿でよく見えないけど、なんていうか、大人の女って感じで俺は苗字先生から目が離せなくて。
隣に並んで喋っているのは数学の不死川。
つーかあの野郎、今日もたんまり課題出しやがって、クソが。女にうつつを抜かしてんじゃねぇよ!
だけど、不死川からは普段は絶対に聞けないであろう恋の音がしている気がして。
いやいや冗談だろ。まさかあの先生の事好きなの!?あのオッサンが!?


「善逸?どうした?教室に戻るぞ、」


炭治郎がそう呼び止めるけど、俺はどうしても確かめてやりたくて「ごめん、先に行って!」その音がよく聞こえる距離まで走ったんだ。


「悪かったな、玄弥が世話になって。」
「そうやってるとお兄さんの顔してますね、実弥先生。玄弥くん、実弥先生のことちょっとよく思わない生徒に掴みかかっただけよ。…実弥先生にも責任がある気がするけどわたしは。」
「…気をつけてはいる、これでも。誰がどう言おうとほっとけって言っといてくれよお前から。」
「うーん。わたしが言っても、それでもやっぱり玄弥くんは嫌なんじゃない?実弥先生のこと大好きだし。少しは玄弥くんの為にちゃんとしたら?」
「…分かってる。お前に言われるとしっくりきちまうよ、俺も。また頼むわ玄弥のこと。少し気にして見てやって欲しい。」


ポスっと不死川の手が苗字先生の頭に軽く触れると、恋の音が大きくなった。
待てよおい、聞こえているこの恋の音は不死川じゃなくて、苗字先生?
いやでも不死川からも同じ音がするし、てことはこいつらできてる!?そんな話聞いた事ねぇが!


「あら、…我妻くん?どうしたの?あ、わたしに相談?…不死川先生また。」
「あァ、」


隠れていたつもりだけど全くその姿を隠せていなかったらしい俺は、意図も簡単に苗字先生に見つかってしまった。
てゆうか、苗字先生俺の名前なんで知ってんの!?
もしかして先生、俺の事…


「どうぞ、入って!」


カウンセリングルームに案内された俺は、部屋いっぱいに広がる先生と同じ金木犀の香りに目眩がしそうになったなんて。