「困ったもんだ。どうすればいいのだろうか…。」
さっきから繰り返しているそれ。
溜息なんてつくタイプではない。幼き頃から、考えても無駄な事は考えないようにしてきた。今までずっとそう過ごしてきた。
だが、大人とは…時に考えなければならない事もありうるのかもしれぬ。
先程から何度となく溜息というものが漏れてしまう。そんな事自体、自分の中では考えられない事であるというのに。
「あれ?煉獄先生?こんな所でどうされたんですか?珍しいですね。」
そんな声と共に目の前に現れたのは俺の働く中高一貫キメツ学園でカウンセリングをやっている名前先生だった。俺の隣にスッと並んでカウンター席だけの立ち飲みバーでこうして会うのは勿論ながら初めてだ。
名前先生は、生徒は勿論俺たち教師のメンタルも気にかけてくれる優しい人で、教師の中でも多少なりとも名前先生を好いている人はいるのだと俺は勝手に思っている。
「名前先生もここにはよく?」
「はい!結構常連です、わたし。他の先生方もよくお見かけしますけど、煉獄先生とお会いするのは初めてですね。お隣で飲んでもよろしいですか?」
「あぁ勿論だ。」
「お邪魔しまーす。」
ビールをゴクリと飲み干す名前先生に笑う。
こんな綺麗な人も豪快にビールを飲むんだと思うと単純に可愛かった。
「ぷはー!!仕事の後のビールは最高ですね!」
「きみは、元気だな。その顔を見ていたら疲れも吹っ飛んでしまうな。」
そんな言葉と共に、俺の手はあろう事か名前先生の髪を撫でていた。ふんわりと甘い香りが鼻腔を掠めてハッと手を離した。
「すまない、なんというか、無意識で…。」
俺の撫でた所に手を乗せてふわりと笑うと「煉獄先生にならいくらでも!」なんて言ってみせた。
その底抜けに明るい笑顔を見ているのは飽きないな…なんて思えた。
またビールを飲んだ名前先生は、ジャケットの内ポケットから煙草を取り出してそれに火をつけた。
女性で煙草を吸うのは珍しいというか、イメージではなかったというか…
キョトンと名前先生を見つめている俺を、小首を傾げて見つめ返す。
「あ!苦手ですか?煙草…。すいませんわたしヘビーなんです!」
「ヘビー?とは?」
「あーすっごい吸うんです、沢山。女のくせに馬鹿ですよね。でもこれがないとダメで…。」
「いえ、俺は吸わないが、苦手ではあるまい。宇隨や不死川も吸うし。そういやそれは不死川と同じ銘柄だな、」
「あの二人もヘビーそうですね!」
気にならないと言ったら嘘にはなる。しかし、それ程嫌気がさすものでもなかった。
自分には煙草を吸わないとやってられぬ、なんて思うこともほとんどないし。
それにしても、名前先生程美しい人でも、悩みでもあったりするのだろうか?