澤なつの作った卵のお粥は優しい味で毎日でも食べたいと思えたなんて。
次に目を覚ました時、勇征がいたら嬉しい…なんて思ったから、あのピンクムーンの日の勇征の夢を見たんじゃないか…――――
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寧々にあんな事言われたからじゃないけど、特段気合の入った目の前の食材を見て苦笑い。
勇征にはLINEで美味しいお肉があるから食べに来ない?なんて誘い文句。ただ彼が読んだかは分からないし、もしかしたら既にメンバーと外食中かもしれない。
今更送り付けたLINEを確認する勇気もなく、ただこの食材を前に私は勇征がここに来てくれると信じて待っていたんだ。
リビングの窓から見える夜景に目を移すと、大きな満月がひとつ。これがいわゆるピンクムーン。平成最後の満月はこのピンクムーン。すんごいピンクに見えるわけでもないけど、この満月はなんていうか、妖艶に見えた。まぁ私がそーいう目で見ているから、かもしれないけど。
壁にかかっている時計を見るとちょうど8時を回ったところ。もう来ない、かな…なんて思った時、ピンポーン…呼び鈴が鳴ったんだ。インターホン画面を確認すると深く帽子を被っているであろう勇征。途端に心臓が爆音を奏でた。
無言でボタン解除を押すとアヒル口をニッとさせて勇征がエントランスの開いたドアの中に入る。もう後戻りはできない。大きく深呼吸を繰り返す私に、再度自宅のインターホンが鳴らされた。今度こそドアの前に勇征がいる。ドアを開けると勇征がひょっこり顔を出した。
「雪乃さん!」
「うん。ど、どうぞ。」
「お邪魔します。」
なんの躊躇もなく靴を脱ぐ勇征をリビングに通した。食卓にのってる肉を見て頬を緩ませるその姿はちょっと子供みたい。
「美味そ。」
「ご飯、まだだった?」
「うん。慧人と飯屋入ったとこで。ちょうど大樹くんが来たから置いてきた。」
結構むちゃくちゃだよね?それって。大人としてわりとルール違反。だけれど、「雪乃さん最優先だから、俺。」ニッて笑う勇征に、全部許してしまいたくなる。
そんな勇征の言葉に内心ニヤついているのを隠すように窓際に行って火照った頬を冷ます。
「今日知ってる?ピンクムーンって。平成最後の満月だよ、ほら。」
「ほんとだ、」
ふわりと後ろから勇征に抱きしめられて、耳を掠る勇征の吐息にまた心拍数が上がる。見かけ以上に筋肉のついた腕は言葉じゃ言い表せない感覚で。
「ゆーせー、」
「うん?」
「今日泊まってく?」
「…――え?え、雪乃さん、どういう、えっ!?」
思いの外動揺してる勇征に、慌てて左右に首を振る。
「違う、そうじゃない。」
吹っ飛ばし過ぎた。でも好きってたった二文字がなかなか言葉にできなくて。こんな馬鹿みたいにくっつきあってるってのに、肝心な言葉は何一つ貰えていない。
「違う?」
「待って勇征、あの、一個疑問あって。…なんでキスするの?今も私の事抱きしめてて、そーいうのって、」
「好きだから。雪乃さんのこと。」
いとも簡単に勇征に言われてしまった。
「…それは、私以外に言ってないよね?」
「え、疑うの!?酷いなぁ、」
「だって勇征、私の気持ち確かめないし、自分だけ満たされたら私じゃなくてもいいのかな?って、」
「えー俺全然満たされてなんてないんだけど。それに、最初に俺にキスしたのは、雪乃さんだよ?まぁ酒入ってて覚えちゃいないだろーけど。…てか雪乃さん、俺の事そもそも好きなんじゃ?俺が二人きりだと強引な人が好きって前に言ったの聞いてたよね?だから、じゃないの?」
今度は勇征の方がドキついた顔。さっきから私達、窓越しに視線を絡ませて話していて、そろそろくるりと勇征の方を向いてみた。色白な勇征の肌はほんのり紅くて…
「そんなの、覚えてない。でも、勇征の事は…――――す、し、」
パチクリ瞬きをして苦笑い。屈んで顔を寄せる勇征。「すし?え?」わざと聞き返すんだ。ちきしょーやっぱり確信犯だよ。
「好き!勇征が好き!」
だから勢い任せでそう言ってやると「俺も好き。」…待っていたかのように同じように返してくれた。そのまま勇征の腕が背中で交差するから自然と私達の距離がゼロセンチ。筋肉で盛り上がった腕が、これでもかってくらい抱きしめてくる。一歩間違えたら窒息しそうなくらいに。それが堪らなく心地よい…―――
「今日泊まってくね。」
今更の言葉を発した勇征は、私の顔を覗き込むようにして唇をちゅ、とくっつけた。
「今夜は俺を満たしてね?」
「…ん。」
食卓のすき焼きより先に私を?勇征のアヒル口がハムっと私の唇を濡らしていく、
((…やっぱりピンクムーンは妖艶、))