6月上旬。
梅雨入りしてジメジメした空気だけど、何気に梅雨は嫌いじゃない。
金木犀の香りと、梅雨に咲く紫陽花の花は小さい頃から好きだった。
来月に開催されるJr.EXILEのBOTのリハが始まった。MV撮影、アー写、レコーディング、振り付け…目まぐるしく忙しくなり始めていた。
ほぼ毎日リハーサルが行われる。個人の仕事がある人はその時間抜ける事もあるけど、ほとんどの若手が集まるとちょっと圧倒される。
リーダー大樹は主演舞台の為、ここにいない事も多かったけど、今日はそんな舞台の合間を塗ってリハに参加していた。やっぱり大樹がいるといないとじゃメンバーのモチベーションも全然違くて。
いつも以上に気合いの入ったファンタメンバーを見ているのはとても楽しかったんだ。
「休憩ー!」
今日はダンスの振り付けで。元々ダンスをやっていない勇征はやっぱりちょっとぎこちない。私にとってはそんな事も可愛く思えてしまうんだけれど。
休憩って言われてもまだ鏡の前で自信なさげに振り付けの練習をしている勇征をついつい見つめてしまう訳で。
「雪乃ちゃん、もう勇征に抱かれた?」
肩に腕をかけて耳元で小さく聞いたのはリーダー大樹。水を飲んでいたらぶはって吹き出すよね、これ。
「…そんなわけないでしょ。もーからかわないでよ。」
「えーつまんない。てか勇征あいつオトコじゃないの?たく、もたもたしてんなよ?ね?」
…抱かれてないわけないけど、言うわけないだろーって。
「ね?って言われても、」
「あ、そっか。それは誕生日にとっとくってことか、なるほど!んじゃ、スケジュール調整していいから。」
…この忙しい中、勇征だけオフにするなんてできるわけもないのに、全く何言ってんだか。
苦笑いする私を見て大樹がにっこり笑顔で聞いたんだ。
「ま、それも無理か。バレちゃうもんね。じゃあさ、もし一つプレゼント貰えるとしたら何が欲しい?」
…一つ願いが叶うなら…
「なにもいらない。勇征が幸せなら。」
これ以上独り占めしたらバチが当たる。だからそう言ったんだけど、目の前の大樹がほんの少し儚げに微笑んだんだ。
「でも勇征に聞かれたらちゃんと物とか時間とかで答えてあげなよ?俺たち芸能人だけど、だからって誕生日に好きな女に何もできない男になるつもりはないから、誰一人。ちゃんと彼女になってあげなよ、雪乃ちゃんはさ、勇征の。ね?」
ポンっと背中を叩かれてなんていうか、喝を入れられたというか。みんながそんな風に思っていたなんて知らなくて。
「うん、ごめん。」
「うーうん。ま、そーいう風に気遣ってくれる人じゃなきゃ続かないと思うけど。誕生日ぐらいちゃんと甘えなさい!」
そう言うと大樹は私の腕にゴールドのブレスをくるりと巻き付けた。
「え?」
「なんか雪乃ちゃんぽくてさ、ついね、つい。あー勇征には内緒な!」
パチンとウインクをする大樹は一瞬私を抱き寄せると「いつもありがとう。」そう言ってスッと離れた。でもだから、鏡越しで勇征と目が合ってくるりと反転してこちらに近づいてくる。
「お、きたきた。んじゃ俺戻るね。黎弥ー!!」
入れ替わるように私の前に来た勇征は迷うことなく私の左腕を掴む。
「…なにこれ?」
「え?分かるの?」
「当たり前だろ。外してよ今すぐ。」
今貰ったばっかりなんだけど、なんて思いながらも本当はヤキモチ妬いてくれたのが嬉しくて顔がニヤけそう。
「誕生日プレゼントだったんだけど、」
「…でもダメ。アクセサリーはダメ。貰ってもつけないで。俺がちゃんと買ってあげるから。ね?」
ポコッて頭に手を置く勇征は、そのままふわりと私を抱きしめた。
((え、ちょっと離してそろそろ。))