甘夏


「ねむ。ちょっと肩貸して、」


…おい、おい、おい。コテっと私の肩に頭をもたげるこの男、堀なっちゃん。移動の為、新幹線に乗るファンタメンバー。

今日は大阪のラジオ収録で、最年少の慧人と颯太、それからこの隣のなっちゃんの3人で。だいたいメンバー全員でいって数人に分かれて撮る事が多いけど、急遽空いてる3人が行く事になった。

連日のハードスケジュールをこなすのは、いくら若くて体力があるとはいえ大変で。ましてやアラサーの私がそれに着いていくのも正直しんどい。

いっぱいいっぱいだった。だから移動は完全なる寝時。

仲良し最年少コンビは前でこそこそ喋っていて、その後ろ、なっちゃんが奥に座った隣に座った途端、寝る体勢。


「グリーンシートじゃないんだけどなぁ。」


一般車両だからいつどのタイミングで彼らのファンの子が乗り合わせるかなんて分からない。それなのにもう目を閉じてスースー寝息をたてている。

もうちょっと自覚を持って欲しい、みんな。なっちゃんだけじゃないけど。

色々言ってやりたい気持ちもあったけど、連日の多忙の疲れのせいか、私も睡魔に勝てなくていつの間にか眠っていたんだ。

薄れる意識の向こうで、カシャって音が微かに聞こえたのは気のせいだろうか?

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「雪乃さん、もう着くよ。」


太ももを揺らされて耳元で聞こえた声にハッと慌てて目を覚ます。隣でニッコリ微笑むイケメンなっちゃん。


「ヨダレ垂れてるけど、」
「えっ!?」


ゴシゴシって指で拭くも…―――「冗談。」ニヤリ笑う。


「騙された、なっちゃんに。」
「俺より爆睡。」
「だって!」
「マネージャーのくせに。」


ガーン。あくまで冗談で言ってるんだろうけど、なっちゃんは言葉は素直でわりとすんなり胸にグサッと刺さるものも多い。

なんとも複雑な表情で「すいません…。」これまた素直に謝ると「いーよ、雪乃さんは特別だから。」立ち上がって上の荷台に置いた荷物を軽々下ろしてくれた。


「甘夏…、」


小さくボヤいた私の頭にポンと、一つ手を置いて。


「それも、特別。」


なっちゃんは時々こうやって曖昧なあやふやな事を言いのける癖があるんだ。その度にこっちは心臓爆ってこと、やっぱりもっと自覚して欲しい。なんて、言えないけど。


((バクバク、動悸が…。))