「うーん、…はぁー。」
鏡に向かって早15分。慧人がずーっと唸っている。隣で漫画を読んでいるなっちゃんがそろそろ「慧人うるせぇよ。」なんて言い出しそうなぐらい。そんな私の思い通り、慧人以上に深い溜息をついたなっちゃんが等々その口を開いた。
「なに?さっきからなんなの?」
でも慧人はそんな言葉を待っていたかのよう、パァーって表情を明るくしてなっちゃんに身体ごと向き直す。
「髪色変えたくてどーしよう?って。堀夏くん、僕何色が似合うと思います?」
「…―――知らねぇ。好きなのにすりゃいんじゃん?」
「冷たいなぁ。一緒に考えてくださいよ?」
「…黒。」
「えっ!?黒ぉ?ほんとにー?えー僕黒だと重たくありませんか?」
「じゃあ茶でいんじゃねぇ?」
たぶん、面倒になったんであろうなっちゃんは分かりやすいくらいに適当に答えていて。だからか、慧人の視線が今度はこちらに飛んできた。
「雪乃さんは、何色が好きですか?」
可愛い顔してる慧人は、茶髪も似合うと思うけど…ふわりと柔らかな髪に手を当てて毛先をクルリと回す。
「絶対赤。赤が似合うと思うの。」
「赤かぁ、いいかも!よし僕赤にします!」
ルンルンしながら慧人はすぐに髪を赤くしてきた。
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「そういや雪乃さん、なんで赤い髪推し?」
気に入ったらしい慧人はほどよく鏡の前で赤い髪の自分を見つめてはニンマリしている。
「んー。学生の頃大好きだった人がずーっと赤い髪で。
「は?」
…え?急に慧人の顔が変わる。
「なにそれ?そんなの俺聞いてない。」
待て待て、後ろ壁。まさか、このまま来る気?
そんな浮かれたことをほんの一瞬思った私に、ドンって壁を背に手をつく慧人。
目の前に真剣な慧人の表情。ド至近距離で私を見つめる慧人が小さく言った。
「今から赤い髪、俺だけにしてよ、雪乃さんの頭ん中で。」
「ちょ、慧人…。誰かに見られたら、ね、」
「見られちゃまずい人でもいるの?」
そう言われて浮かんだのは勇征で。同時に暗闇でしたキスを思い出して赤くなるのが分かった。
「いな、いわよ、そんなの。」
「じゃあ約束ね。」
…頬にキスをしようとしたのか、途中で恥ずかしくなったのか、慧人はスッと身体を引いて戻って行った。
((まさか、お芝居じゃあるまいな?))