ダンスサークルで借りているスタジオ。サークルに入っている生徒なら誰でも入れるそこだけど、決して遊び感覚でダンスをやってる人はいなくて、みんなひとたび鏡と向き合えば顔付きもプロっぽく見えるぐらいだった。
その日、スタジオに忘れ物をした私は翌日で使う課題だった為、仕方なく取りに戻ったんだけど…
「なっちゃん!?」
椅子に座ってスマホを弄っていたなっちゃんがポツンとそこにいて、私の声にこちらを振り返った。
「あれ?どうしたの?忘れ物?」
ニコッて微笑むなっちゃんはなんていうか普段は人見知りというか、ツンデレというか、こうやって二人きりになるとわりと笑顔を見せてくれるんだけど、そのギャップにまんまとハマっている私。
ただでさえ高身長でイケメンだっていうのに、そーいうの見ちゃうともうダメだって、密かになっちゃんを想っていた。
でも当たり前にライバルも多くて、なっちゃんのファンだと思える子も本当に沢山いる。
「あ、うん。明日の課題忘れちゃって。」
「ふーん。俺も帰ろっかな。」
そう言って立ち上がったなっちゃんの髪がさらりと揺れた。
「外雨凄いよ?」
「げーマジで?傘持ってねぇし。」
ムーッてリスみたいに頬を膨らませるなっちゃんがめちゃくちゃ可愛くて内心一人悶絶しそうになるのを必死で堪えた。
「あ、駅までなら一緒にどうぞ!」
断る?一緒に帰る?どっちだろ?
私の言葉になっちゃんはちょっとだけ目を逸らして「うん。」小さく呟いた。
――――これはいわゆる、チャンスってやつだよね?
「好き」って言ったらどう思うかな…。嫌われてはいないと思うの。でもなっちゃんに関して確信なんて持てるわけもなく、自信なんて1ミリもないけど、せっかくの二人きりのチャンスを逃すのも馬鹿だよね。
ドキドキする心臓を手の平で押さえて私たちはエレベーターに乗った。
「腹減った。」
壁に寄りかかったなっちゃんがボソッと呟くからちょっと可笑しくて。笑いながら振り返ると真っ直ぐにこっちを見ていたのか、すぐに目が合った。途端に心臓が激しく音を立てて…慌てて目を逸らす。早く1階についてーって思いながら小さく呼吸を繰り返す。
ポンって音と共に開いたドア。一歩外に踏み出そうとした私の腕を、不意に後ろからギュッと掴まれたんだ。
「―――――え?」
振り返るとやっぱりこっちを見ているなっちゃん。
「あの、なっちゃん?」
「……颯太の事、好き?」
「…へ?え?颯ちゃん?え、あの、」
「仲良いでしょ。」
「それは!!」
なっちゃんの事、相談していただけで…
握られた手が熱くてカァーッて顔まで紅くなっていくのが自分で分かった。
でもこんなチャンス逃がすまい!って首を横に振る。
「仲は良いけど颯ちゃんは友達。私は、――――
」
…どうしよう?言えない。怖くて言えない。あとちょっとなのにたった二文字「好き」って…
「俺じゃダメ?」
「―――――はえ?…えっ!!!!」
「ユヅキちゃんと付き合いたい。」
「………、」
なに?この展開。告白しようとしたのは私の方だよね?え?
見つめるなっちゃんは真剣で。そもそも冗談で告白するような事はしないって、それぐらいは分かる。でも、
「やっぱり颯太?」
「え、違っ!なっちゃん!!ずっとなっちゃんの事、相談してたの、颯ちゃんには。」
私の言葉に耳まで真っ赤になるなっちゃん。
「え?ほんとに?」
「ほんとに。今日今二人きりだから私もなっちゃんに告白しようって思って、でも言えなくて、そしたら―――」
ドンって、エレベーターの壁に追い込まれてなっちゃんがド至近距離で私を見下ろす。身体がピタッて密着してなっちゃんの熱い体温とトクトク脈打っている心音が鼓動で伝わってくる。
「マジで嬉しい。…めちゃめちゃ好きだから俺。」
有無を言わさず迷うこと無くなっちゃんの美顔が私に被さった。
サラリと伸びた前髪が鼻を掠めるけどギュッてなっちゃんの腕が私を抱き上げる勢いで絡みついて、必死でそのキスについていく…
「…やべぇ、色々やべぇ、俺の下半身。」
真顔で下ネタを言うなっちゃんに笑うと「マジで、笑い事になんないから。」困ったようにそう言ったけど、また下半身を擦り付けながらチュってキスを続けた…
ねぇ、唇腫れてもいい?