友達以上恋人未満

 ――本当の本当は大好きなの。

「じゃんけんぽん」
「「あ…」」
「おいおいお前ら、打ち合わせしたんじゃねぇーか?」
「してないよっ!もう…」
 私と千冬くんは大学の同じサークル仲間で、何ていうか友達以上恋人未満な関係という言葉が一番しっくりくるのかもしれない。女子にモテたいって言っているわりには、千冬くんの周りには男しかいない。そんな中で私とはサークルも同じということもあってこうしてよくよく同じ時間を過ごす事が増えた。自分で言うのもなんだけど、密かに千冬くんに憧れている女の子もいると思うけれど、その中でも私と千冬くんは特別に仲が良いと思っている。
 ただ、毎回こうやって何かある度にサークルのみんながからかうせいか、千冬くんに対してなんとなく素直になれずにいる。逆に千冬くんも、世間で言うツンデレって奴。優しかったり突き放されたりで戸惑うもののそれでもやっぱりこの気持ちには嘘はつけそうもない。今日はサークルのみんなで夜桜花見しよーって事になって、まさに今その場所取りに行く二人がじゃんけんで決まった。見事に私と千冬くんの二人だけがパーで他はチョキ。揃って負けた私と千冬くんにやっぱりな野次が飛び交った。ふふふラッキー!内心小躍りしたい気持ちを押さえて私は千冬くんを見つめる。
「うるせぇうるせぇみんな、行くぞ名前」
「うん」
「名前待った」
 腕をとられて振り返ると一虎くん。ふわりと髪を揺らせて私に向かって腕をあげた。グーに握った拳を差し出していていて、反対側の手で私の腕を取られてそこに一虎くんの手中からコロンと落ちた300円。えーと、なんだろう?
「ついでに俺の煙草買っといて?釣りはあげる」
「…や、足りなくない?」
「じゃあ足りねー分は後で払う。持ち合わせこれしかねぇの」
「もー仕方ないなぁ」
「サンキュー」
 ニッと白い歯を見せた一虎くんがポンと優しく私の頭を撫でた。モテそうだなぁ一虎くんは。スマートに頭ポンポンなんて、私が好きになったらどーしてくれんだ?まぁそんな確率一ミリもないけど。だって私は…ポケットに手を突っ込んで先を歩く千冬くんの後を追って小走りでかけて行けば、千冬くんは同じ学科の女の子に手を振っていた。なによ、デレちゃって。駆け寄って腕でも組んでやろうと思ったけど止めた。千冬くんと手を振りあったあの子は、千冬くんのことかっこいいって言っていた気がする。嫌だなぁもう。千冬くんが自分以外の女の子と仲良くするのを見るのがすごく嫌。これってヤキモチだよね。私ってば自分で思うよりも千冬くんのことが好きなのかも。せっかくこれからずっと二人っきりだというのに、なんだか私達の間に見えない壁ができたようでほんのり胸がちくりと痛んだ。
「千冬、くん」
「あ?」
 うわ機嫌悪い。一虎くんにヤキモチ妬いてくれたって思ってもいいのかな?ムスッとした顔で「んだよ?」って低い声を飛ばす千冬くん。機嫌のいい時の千冬くんなら私の肩ぐらい抱いてくれたりするけど、今はそんな空気微塵もない。こちらから触れようものなら、払い除けられそうな気すらする。自分だって女の子に手振ってたくせに。なによ。ばーか。ちーび…なんて脳内で悪態をつく私をジッと千冬くんが見つめているから心の声が聞こえてる?どーせなら好きって声だけ聞こえてほしい…なーんて。
「歩くの早いよっ」
 そう言って千冬くんの隣に行って彼の服の裾を掴んだ。ぎゅっと握る私の手に一瞬だけ視線を向けた千冬くんは、ほんのり口端を緩めた。
「名前が遅せぇんだばーか」
「ばかじゃないもん」
「ばかだよお前」
「なによ自分だって女子に手振ってたくせに」
「へぇヤキモチ?」
 私の言葉に今度こそ分かりやすくニヤリと口端をあげる。ついつい売り言葉に買い言葉で本音を漏らした自分を悔やむ。だけれど、それでなのだろうか…千冬くんの表情は明るく今の今まであった不機嫌さはどこかへ消えていた。
「そっちこそ一虎くんに妬いたくせに」
 強がってそう言い返せば千冬くんはフンッと鼻で笑う。それから私の質問に答える事なく「一虎くんの煙草買うんだろー」そう脚を止めて自販機を指さす千冬くん。ポケットに入った小銭を手に自販機の方へと一歩踏み出した。
「買ってくる」
「俺も行く」
 そう言うとふわりと風に乗って千冬くんの香水の匂いが私の鼻をついた。デレ千冬くんだ、これ。私の肩に腕をかけて一緒に歩き出す千冬くんに心拍数が上昇する。今横を向けば千冬くんとの距離が近すぎて何も言えなくなるに違いない。これ以上ないってくらい心臓が爆音を鳴らしていて、こんな関係が今は擽ったい。欲を言えば、こーいう事私以外の女の子にはしないで欲しい…そう素直に言えたらいいのに…。
「一虎くん…お前のこと可愛いって言ってたんだけど…」
「え、一虎くんが!?」
「あぁ。どーすんだ?告られたら」
「…どーしよぅ」
 千冬くんの言葉に、一虎くんが本気でそんな事言う訳ないと思えた。というか女になら誰にでも言ってそうな気はするものの、千冬くんのことからかってわざと言ってるんじゃないのかな、それ。それでもほんの少しドキドキするのは少なからず一虎くんがかっこいいからだろう。自販機の前で一虎くんの吸うマルボロを押そうとした私の指を、不意に横から千冬くんが握った。
 へ?ちらりと千冬くんに視線を移せばその距離は触れ合う数センチ手前、瞬きしたら触れ合えそうで…
「断れよ」
 千冬くんの低い声が小さく耳元に届いた。
「うん断る」
 思わず即答しちゃった私に千冬くんはフッと息を漏らす。
「あのさ…いい加減俺も限界っつーか…」
 そう言って千冬くんがゴクリと唾を飲み込むと真っ直ぐに私を見た。
「俺じゃだめ?」
 ずっと待ち望んでいた言葉が届いて胸がきゅんと音を立てる。
「だめじゃない、千冬くんがいい。千冬くんが好き!」
 無意識というかなんというか、即答だった。その他大勢と一緒だとは思っていなかったものの、千冬くんが何も言わない限り私もそう自信があるわけでもなかった。今の関係が壊れるのが怖くて自分から言い出せない臆病者だって分かっている。でもやっぱり友達以上であっても、恋人未満よりも、恋人がいい。
「だよな知ってる」
 まるで先程の一虎くんのを上書きするかの様、千冬くんの手が私の頭を優しくポンポンと撫でた。そして――
「よし今からデートすんぞ」
「へ?でも場所取りは?」
「パス!んな事より名前と二人で過ごしてぇ」
「うんっ私も千冬くんと」
「チフユ!くんはいらねぇ。そう呼べよ」
「ちふゆ…」
 照れくさそうに微笑んで私の手を取る千冬。初めてちゃんと絡まる指先に、その大きな背中に私はきゅっと後ろから抱きついた。数十分後にみんなからLINE攻撃をうけるハメになるけど気にしない。