君への願いを

 大学生の頃、同じサークルの一つ年上の先輩の事が好きだった。妙に大人びていて時々ボソッと毒のある言葉を発する所とかも好きで彼と話す事がわたしにとっての密かな楽しみだった。
 だけれど、その気持ちを伝える事もなく大学四年間を終えたわたしは一般企業に就職して今に至る。その後彼以上に好きになれる人なんてわたしの前に現れる事もなく、何となく今も胸の奥にある彼への気持ち。
 もしも願いが叶うなら、今度こそ彼、建人さんに想いを伝えたい…。

 ◆◇◆

 大学時代のサークルラインで急遽召集がかかり、二年ぶりぐらいにわたし達は集まった。
 久々に見る顔つきに会話も弾み、気づけば時計の針はてっぺんをとうに超えていた。みんながお開きになった後、駅から一番近い一人暮らしの先輩の家でサークル内でも最も仲の良かった6人がこうして宅呑みし、一人、また一人と寝落ちしていく中、わたしは一人ソファーに座ってグラスをカランと傾けて呑んでいた。
 脚元に転がっている彼、建人さんはあの頃わたしが好きだった人。初めて見る寝顔に胸がとくとくと音を立てている。せっかくこうして建人さんと再会できたというのにわたしはまだのんびりしていて、というか一歩踏み出す事すらできずちょっと情けない。
 わたしの家より広い家主である義勇さんは丸まってラグマットの上で眠っている。その奥、ベッドの上でちゃっかり大の字で寝ている実弥さん。そんな実弥さんにくっついて寝ているゆき乃さん。ゆき乃さんをバックハグするみたいに抱きしめて眠っている伊黒さん。
 そして、脚元の建人さんを気にしているうじうじしたわたし。わたしもゆき乃さんみたいに建人さんに抱きついてしまおうかと何度も思ったけれどそれが出来ずに今に至る。
 昔から男運がなかった。好いてくる男はいても、付き合ってもいないのに結婚を迫られたり、マザコンだったりで、今も独り身を通している。
「おかしいなぁ。わたしの人生設計だともう直ぐプロポーズされるはずなんだよなぁ〜」
 誰にも届くことのない独り言が暗闇に消えていくはずだった。
「あれ…起きていたんですか?愛沢さん…」
 聞こえた声は脚元からで。肩肘ついてスーツのネクタイを緩める建人さんがムクリと起き上がった。
「なんか眠れなくて…」
「起こしてくれてよかったのに。一人にさせてすみません」
 会社勤めの建人さんは、先程までの飲みの席でも散々労働はクソだと連呼していて。真面目な外見を他所にそーゆー事平気で言っちゃうからやっぱりわたしはこの人が気になってしまっている。
 建人さんの大きな身体にかかっていた薄めの毛布をわたしの肩にかけて、ソファーの上、隣に腰掛けた。ふわぁ〜と欠伸をしながらかけていた銀縁の眼鏡を外すとそれを丸テーブルの上に置いた。色素薄めの瞳が真っ直ぐにわたしを見つめていてトクンと胸が脈打った。
「眠くないんですか?」
「ええとても眠たいです。あぁ一緒に寝ますか?あちらに負けずと」
 視線の先はゆき乃さん達で、え、どーゆーこと?脳内でハテナマークを飛ばすわたしに、隣の建人さんがそっと距離を埋めてきた。
「酔ってますよね?」
 そう聞けば、「ええ、勿論です」なんてニッコリ笑われて。そのニッコリ笑顔のままソファーの後ろに手をかけて、わたしを押し倒す建人さん。
「あの、」
「嫌ですか?私とそうなるのは」
 思考が止まりそう。嫌とかじゃなくてここは義勇さん邸であって、直ぐ側に義勇さんもゆき乃さん達もいて、そもそもわたし達付き合ってないしそーゆーの駄目でしょ!って思うわけで。どーにもこーにも根が真面目なせいか、思いがけず舞い降りてきた絶好のチャンスだというのに、この期に及んで一歩踏み出すことが出来ずにいる。
 ただ、こうして考えている時間すら与えてくれそうもない建人さん。わたしの前髪を指で退かすと躊躇なくそこにちゅ、と口づけられた。
「建人さ、ん…」
「なんですか?」
「展開が早いです」
「ですね」
 駄目だ、この人話聞いてない。酔うとそんなに変わるもの?ゆき乃さんは笑い上戸でボディタッチが多くなる…――いや、それもほとんど変わらないか。
 普段が真面目というか誠実なだけに、建人さんのこの行為はわたしにとってとんでもなく場違いに思えてしまう。それでも建人さんの分厚い胸板を押して跳ねのける程理性が働く訳でもなく。
「義勇さん、起きちゃったらどーするんですか?」
 苦し紛れにそう聞けば建人さんはフッと鼻から息を漏らして笑うと今度こそ本気でわたしに覆い被さった。
「それなら安心して下さい。この人は一度寝たら絶対起きないんで。そうじゃなきゃ流石に私もしませんよ」
 触れ合う寸前にそう言われ、そうなのか…と納得した時にはわたしの唇は建人さんに舐め取られていた。
 やばい、初っ端大人キス。「んっ」喉を鳴らせて建人さんの背中に腕を回す。激しくすると音が響いちゃうからなのか、まるでスローモーションの様に口内で舌が動くのが分かる。唾液混ざりの建人さんの熱い舌がわたしのと絡まってちゅるんと小さく音を立てる。正直気持ちが良すぎて義勇さんやゆき乃さん達の睡眠事情を気にしていられない。ぎゅうっと建人さんの背中に回した腕に力を込めると、「可愛いですね、ほんとにハルは」急に名前で呼ばれて最高潮ドクンと胸が高鳴った。
「反則…建人さんわたし、こんな事されたら簡単に好きになりますよ?いいの?」
「構いませんよ。むしろ私はそれを望んでいますし」
 ――え?なんだって!?
 んちゅ、と唇を重ねる建人さん。熱い吐息が頬を掠めて思考がおぼつかない。それなのにわたしの脳裏に張り付いて離れない建人さんの言葉。
 わたしと恋人になる事を望んでる?え?好きなの?わたしのこと。そう聞きたくても聞けなくて、この甘ったるい状況に身を任せてしまっている。
 首筋に移動した建人さんの舌がちゅ、ちゅ、と小さなリップ音を鳴らせて肌を濡らせていく。耳穴に舌を入れ込まれて外の音が遮断される。耳朶を甘噛みされてめちゃくちゃ気持ちいい。じわりと子宮内が熱くなっていく様だ。
 はぁ…ヤバい。身体の相性絶対いい。そもそもわたしの経験人数なんて所詮片手で数えられる程度だけれど、その中でもこの愛撫は堪らない。
 そう言えば先日ゆき乃さんとのガールズトークで前戯の短い男はいけ好かないなんて話ていたのをふと思い出す。これは絶対ゆき乃さん好きな奴だ!あぁ駄目。やっぱりもう何も考えられない。耳をレロレロと舐められながらも建人さんの手はわたしのニットの上から円を描く様に胸に触れていて。
「邪魔だなぁ、もう」
 建人さんらしからぬ敬語の取れた言葉がわたしの耳元で発せられて、気づけば建人さんの右手はわたしのニットの中に入り込んで、なんなら背中のブラホックをパチンと外したんだった。
「はぁっ…」
 ぎゅっと建人さんを抱きしめると溢れる幸せオーラ。金色の彼の髪に触れると思いの外柔らかくて。いつもきちんとセットされているそれは、流石に飲んで雑魚寝した後となれば乱雑に乱れている。
「ハル、先に進んでもいいか?」
「ん、いい…」
「なら遠慮なく」
 低い声が耳に届くと、建人さんの手がニット内のブラを退かせて直で触れてくる。焦らされる事なく頭頂を指でぐりぐりとされ、さっきとはまた違う快感がわたしの身体を突き抜ける。
「んっ、ふうっ、ああっ…ん」
 出しちゃ駄目って分かってるのに声が我慢できない。見兼ねた建人さんが指をわたしの口に付けると「舐めて」そう言われて隙間からわたしの口内に入り込む。その隙に建人さんはわたしのニットを捲りあげてそこに顔を寄せると間髪入れずに尖端をちゅうっと吸い上げた。
「んっ、んんんんんっ――」
 指を舐めているからさっき程声は出せていないけれど、舌でじゅるじゅると吸い上げられる気持ち良さは半端ない。建人さんはそれでもわたしの口内に更にもう一本指を入れ込んで、もっと言葉を遮っていく。
 噛みつきそうになるのを堪えながらも建人さんの骨ばった指を舐めていく。
「ハルは感度がいいね。今日は特別?酔っているから?それとも、――相手が私だから?」
 ねぇさっきからほんとにずるい。そんなの全部に決まっている。今日が特別な事も、アルコールを過剰に摂取していることも、何より相手がずっと気になっていた建人さんだもの。わたしの身体は正直に反応しているだけ。でもちょっと悔しい。余裕があるみたいな建人さんがずるい。わたしだって建人さんの余裕を無くしてみたい…。
「全部。ねぇ建人さん、建人さんのここ、痛い?」
 背中の手を移動させてそこに触れた。さっきから程よく硬いソレがわたしの太腿ら辺に乗っかっていて、「建人さんだって感じてるよね?」そう聞けば、彼は少しだけ余裕のない表情で「貴女のせいですよ」なんて言うんだ。
 わたしの口から抜いた少しふやけ気味の指。ロングスカートをそろそろと捲って下着の上から割れ目に触れた。当然のように濡れてシミをつくっているであろう下着の上を指でツーっとなぞられて身体が捩れる。胸への愛撫もかなり気持ちがよかったけれど、子宮内はまた別格で、自分からゆらゆらと腰を動かしてしまう。
 はしたないって思う?厭らしいって思う?でもそんな身体にしたのは建人さんなんだから責任取ってくれなきゃ困る。
「早く触って…」
 小さく彼の耳元でそう言うとほんのり苦笑い。え、今の間違ってた?
 わたしの不安をよそに建人さんは今度は左指を差し出してわたしの口元に挟む。
「声、我慢できないなら噛んでいいから」
 指の口枷がわたしについて、次の瞬間建人さんの指が待ちわびていたそこに入り込んだ。途端に子宮内全ての壁が性感帯の様に感じ、「んんんんんっ―――っ!!」咄嗟に建人さんの指に舌を絡めた。ふんふんと荒々しく鼻息を漏らすわたしの子宮内を指で擦っていく建人さん。くちゅくちゅと響く水音がわたしの耳に更に刺激を与える様で余計に愛液が溢れてしまう。最奥の壁をぐりぐりと擦る建人さんの指は、あろうことかもう一本増えて二本でわたしの子宮内を濡らす。関節を曲げてくいくいと擦ればわたしの絶頂が近づいていくのが分かる。
 左手で指枷をしながら建人さんは右手でわたしの子宮内を掻き交ぜていく。ツワになった胸の尖端を口に含んで舌で転がす。周りをレロレロと舐め、尖端をちゅううっと強めに吸い上げられて呼吸が苦しい。耳元で「はぁっ」吐息を漏らした建人さん、ヤバいイケボ過ぎてそれだけでイっちゃいそう。
「ハル…」
 クイッと指枷を解いて瞬く間に口づけられる。ちゅうっと唇を吸い上げられて舌を絡ませながら子宮内をまた掻き混ぜる。口を塞がれているから声は出せない。建人さんの人差し指と中指が交ざり合って不意に親指の腹がわたしの剥き出しになっているだろう突起を擦った。
 その瞬間、身体中に快感が走って思いっきり子宮を震わせる。びくびくびくぅっ――っと腰を揺らせて派手に達した。
「大丈夫ですか?」
 建人さんの言葉に肩を揺らせて大きく息を吸い込む。暗闇の中、建人さんの大きな手が優しくわたしの髪を撫でてくれるのが心地良くて。漸く呼吸の整ったわたしは「大丈夫です」と小さく答えた。
 一度果てたので次はわたしの番かなと建人さんの股間に手を持っていく。当然ながら盛り上がっているそれを手で撫でると「ふうっ…」建人さんの吐息が頬を掠める。
「………さすがにここで最後まではまずいでしょう」
「え?でも…」
 ちらりと視線をゆき乃さん達の方に向ければこの行為が始まる前に見た形と何ら変わっていない。勿論義勇さんも。結構な喘ぎ声とかソファーや服が擦れる音、何よりわたしの中の水音、リップ音なんかも聞こえているはず、起きているなら絶対嫌がられるはずで。
 さらりと落ちた建人さんの金色の髪を指ですくったわたしはそのまま建人さんの首の裏に腕を回して引き寄せると唇を重ねた。
 自分からけしかけたキスに舌をちゅるりと絡ませながら、建人さんに抱きつく。熱く火照った身体が、このまま冷めてしまうのは勿体ない。建人さんの耳をじゅるりと舐めると「っつ、」声にならない声をあげた。
「ここまできて意気地なし?」
 ちょっとだけ意地悪してそう言えば建人さんはやられたって顔で溜息をつくとコツっとオデコをくっつけた。
「今のは完全に貴女が煽ったんですからね。もう今更ノーは駄目ですよ?」
 イエスという意味も込めてわたしはまたキスをせがんだ。当たり前にキスに答えてくれる建人さん。ゆっくりと舌を執拗に絡ませる。唇をハムりと食す様に舐められて口の周りは唾液でべたべただ。それが何とも気持ちよくて、わたしは何度も何度も建人さんに舌を出した。その度にわたしの舌を舐め取って絡ませるとほんの少し前に達したばかりだというのにもうわたしのソコはぐっしょりとしているに違いない。
 一頻り濃厚なキスを終えると、建人さんは音を立てない様にベルトを外してスーツのスラックスを腰からずらす。膝裏まで落としたあと徐ろに自身のボクサーパンツも下ろすと、ひょこんと元気よく飛び出すソレにわたしは手を伸ばす。
「ハル、悪いがもう我慢の限界だ。貴女の中でイきたい…」
 ふーふーと荒ぐ呼吸を何とか整えて根本を掴んだ建人さんは、わたしの脚を開かせるとゴムも付けずにそのまま子宮内へと挿入した。
 太くて長くて大きい建人さんのソレ。先程の指でも充分に気持ちが良かったけれど、正直比にならない程気持ちがいい。ゴム越しじゃない事もあり、普段の間食とはまた違う吸い付きの良さに挿入されただけで半分ぐらい覚醒してしまう。子宮内をひくひくと軽く痙攣させる、こんなに気持ちがいいなんて。思わず建人さんの律動に合わせて自分でも腰をゆらゆらと動かしていく。わたしに覆いかぶさって腰を揺らす建人さんが不意にわたしの手を握ってそこに自身の指を絡ませた。大きめのソファーだけれど身体の大きな建人さんと二人だとやっぱり狭く、正直背中も少し痛い。でも今はそんな事どーでもいい。天井とわたしの間に身を置く建人さんの汗ばんだ身体。前開きの青シャツの下の完璧な肉体美すら快感を誘う。
 はっ、はぁっ、小刻みで小さく息を吐き出す建人さんのイケボが耳元で媚薬の様に鼓膜を刺激する。きゅっと繋がれている指に力を込めると建人さんの視線がわたしを捉えた。
「ちゅーしてぇ建人さん」
 わざと唇を尖らせてそうせがめば、建人さんはフッと鼻で笑うと間髪入れずに唇をハムりと熱く重ねた――。
 上の口も下の口も両方塞がれて堪らなく気持ちがいい。声に出したいけれど出せない苦しさもあるものの、気持ち良さのが勝っていて、生理的な涙が頬をぽろりと伝う。
「ハル?」
 そんなわたしを心配そうに見下ろす建人さん。「違うの、嬉し泣き…だから続けて」ぎゅっと建人さんの太い首に腕を回して抱きつく。そのまま自分の手の甲を噛むようにして声を抑える。建人さんはちゅっとわたしの頬に口づけると、律動を速めた。
「んっ、んんんんんっ―――」
「ハル、もうっ…」
 もう返事なんてできなくて。ポロポロと涙を零しながら建人さんの背中に脚を巻き付けた。最奥を突く刺激に身体中が熱く興奮している。あぁもう何も考えられない。ただただ快感に身を任せてわたしは建人さんから繰り出される快感に踊らされていた。
 ぎゅっと建人さんに更に巻き付くと建人さんの律動も更に激しくなった。わたしも建人さんももうすぐそこまできている絶頂をギリギリまで引き延ばす。
「はあっ、はぁっ…ハル、愛してる」
 え―――っ!?
 届いたその低い声に、欲しいと願ったその言葉にわたしはびしゃびしゃとロングスカートの上を濡らす程に激しく潮を吹いてイった。
「ああっ、くっ…――」
 びくんと動きを止めた建人さんの腰がふるふると小さく揺れて、わたしの子宮内に熱い液が放出されたのがわかった。
「建人さん、あの…」
「私が頼んだんです、ハルに逢いたいと。だからあの先輩達はみんな私のハルへの気持ちを知っています。仕組んだんですよ、ハルとこうなる為に…」
 騙されていたってこと?ゆき乃さん達みんな建人さんの気持ち知ってたってこと?
 ちらりと視線をベッドに向けるもたぶん寝ていて動いた気配はない。というか起きられていたら恥ずかしくて死にそうだよ。完全にAVじゃん、わたし達。
「なんか頭真っ白だけど…」
「私が君を好きだって事だけは分かってくれた?」
「はい。もうそれだけでいいや今は。だってわたしも貴方のこと、建人さんがずっと欲しかった。だから嬉しいです」
 ぎゅっと抱きつくと当たり前に抱き返してくれる。
 大きなその背中を追いかけていた大学時代。当時は浮ついた事なんてなかったけれど、わたしの気持ちは案外彼に伝わっていたのかもしれない。
 ――三年越しの恋が今、叶った。

「今日、時間あったりします?」
「え?はい」
「ならば一緒に見に行こう、新しいソファー。さすがに義勇さんにこのまま使わせる訳にはいかないから。これは私が引き取るよ」
 乱れに乱れた服を手で伸ばすわたしをソファーに腰を下ろした建人さんが開いた脚の間に入れ込む。後ろから腕を回されて建人さんに寄りかかると髪に軽く口づけられた。
 やばい、めっちゃ幸せ!!
 服もぐちゃぐちゃ、色々ずぶ濡れ、今直ぐシャワーを浴びたい所だけれど、この安心できる温もりにほんのひと時酔いしれてもいいよね。
「建人さん、大好き」
「私もです」
 夜が明けて目映い光を全身に浴びる頃、寝たふりをしてくれていた4人の先輩達にしこたま怒られる事をわたし達はまだ知らずにいる。