Episode 1
「もう無理だ…」
ポツリと呟いた声に目の前の美月が泣きそうな顔をする。
中目黒にオフィスを構えるSTUDIO SEVEN。そこが私の職場であり、心を寄せる場所。
ぐびっとジョッキの柚子サワーを手に冷たいそれを胃に落とす。
月曜の夜から飲みに来る輩は少ないのか、店内にはぽつり、ぽつりと人の気配がある程度だった。あいにく、私達の隣の席は既に人がいるようだけれど。まぁ個室のようになっていて、ほぼ見えない。
「直人さんに言うの?」
美月の言葉に小首を傾げた。直人と言われて浮かぶのは当然最愛の人。SEVENのデザイナー兼CEOである直人とはもう10年来の付き合いだ。
同じ埼玉県出身って面接で意気投合してからずっと私は直人の為に生きている。
残念ながら直人以外の人を好きになる事もなく、三十路を過ぎた今に至る。
女としての幸せ=結婚ではないと思うけれど、周りの友人たちが次々に家庭を持つ事である意味独り身の恐怖を抱えていた。
できれば30歳までに結婚したかった。けれどもう1年も過ぎてしまって、本当にもう限界だと。この溢れ過ぎた気持ちを伝えなければ私はきっと一生前に進めない。
「言えない…。でもこのままでいるのはもう辛い。…嫌われてはいないと思うけど、女として見てくれてるのなら、状況は変わってる気がする。私ばっかり直人さんが好きなのが凄く苦しい…悲しい。同じ気持ちを返してほしい…なんなら抱かれたい…」
ぐでーっと机に腕を投げ出してずずっと鼻を啜る。枝豆を箸で摘んでいた美月がにっとリスみたいに白い歯を見せて笑う。
「雪乃さん可愛い。私が男なら押し倒してるわ」
「いやそれ慰めになってない」
「えへ。でも直人さんどう見ても雪乃さんの事好きにしか思えない。てゆうか、あんなに常日頃雪乃さんの時間を独占しているのに、それで愛が無かったなんて許されないよ、女からしたら。そのぐらいの覚悟持って雪乃さんの独占してないと許せない」
周りのみんなも美月と同じ様に言うわけで、雪乃と直人さんは付き合ってるの?って。そう聞かれる度に直人さんは「まさかまさか!俺が相手にされないって」って同じ文言を死ぬほど聞いた。私がどんな想いで聞いているかなんてお構い無しに。