C 逢いたい
家に帰っても名前さんとのキスが頭から離れなかった。なんだよこれ…。そういや今日の花見、名前さんも来るよな。昨日は行くとも行かないとも言ってなかったけど、部長補佐だし来るよな?あーライン開いておけばよかった。 電話してぇ、声が聞きてー。
完全に俺の脳内は名前さんでいっぱいで、昨日の今日でもう逢いたい気持ちが溢れてしまいそうだった。
あの後、平然とした態度で片岡さんの待つ飲み屋の個室に戻った俺と名前さん。できる男片岡さんはその隙に会計を済ませてくれていた。
「俺はこいつ送るからタクシー呼ぶけど勇征はどーする?」
片岡さんが歩道に出て右手を挙げればすぐにタクシーがこちらに向かってペースダウンしてくる。
「俺はまだ電車あるんで大丈夫です。ご馳走様でした片岡さん。名前さん、大丈夫?」
きっきよりしっかり目を開けて、それでも片岡さんに寄りかかっている名前さんはひらひらと俺に手を振っている。足取りは思ったよりしっかりとしているものの、露出した肌がほんのり赤く、程よく酔っている名前さんは正直危なっかしい。酔っているからこそのスキンシップも分かるけど、この場に及んで思ってしまう、持って帰りたいと。そんな俺の気持ちを知ってか知らずか片岡さんの指が短いってけらけら笑う名前さん。
「あの、家まで送るんすか?」
「え?名前のこと?」
「はい」
ちらりと名前さんに視線を移す片岡さんは、若干苦笑いしつつ「俺ん家でいいだろ。どーせ直ぐ寝るよ」そう言うと肩を抱いて止まったタクシーの後部座席に名前さんを押し入れた。
「じゃあな勇征。明日頼むな」
「片岡さん、」
「なに?」
「いえ、お疲れ様でした。明日よろしくお願いします」
名前さんに続いて後部座席に乗り込むと、直ぐにタクシーは俺だけをこの場に残して走り去った。
冷たい夜風が人肌をよりいっそう恋しくさせる。
あの後二人がどうなったのか気になってたまらない。
「あ――――!!くっそう!!」
ゴロンとベッドにだいぶすると、充電の完了しているスマホの着信音が鳴り響く。画面を見ても未登録の番号で出る気にもならない。それでも鳴り続ける着信に少し苛ついて乱雑に手にして通話ボタンを押した。
「はい。だれ?」
低い掠れた声でそう言うと電話の向こう側、ざわついた街並みの維音に紛れて 【名前。勇征寝てた?買い出し付き合ってよ】寝起きの目覚めには勿体ないくらい綺麗なソブラノボイスに一気に身体中の血液が巡っていくかの様カァーっと熱くなった。
「行きます!どこっすか?」
すぐさま熱いシャワーを浴びて身支度を整えると、割とお気に入りの私服を着て家から飛び出した。
「名前さんっ!」
駅の改札を出た所にあるスタバの中に名前さんはいた。セミロングの髪を巻いてウェーブかかっているそれをハーフアップで纏めている。ストレート以外は初めてで緩めウェーブもめちゃくちゃ似合ってる。俺は手を伸ばしてその髪に触れると当たり前に名前さんの視線が飛んでくる。
「可愛い、めっちゃ」
「えへヘ〜。こういうの好き?」
「好き。服も可愛いっす」
「勇征もかっこいいよ」
青伸びをして俺の髪に触れようとする名前さんの腕を掴んで、手の甲に小さくキスを落とすと反対側の手でパコンと腹筋を殴られた。
「こら!人前!」
「昨日も見られなかっただけで、結構な場所でしたよね?あんな濃厚なキス、」
ぷうっで予供みたいに類を膨らませる名前さんは表情がくるくる変わって見ていて飽きない。俺はムウって口を尖らせている名前さんの手を取ってそこに自分の指を絡める
「ね、名前さん。昨日どこで寝たの?片岡さん家?」
「帰ったわよ、ちゃんと自分の部屋のベッドで寝た。まあナオとは同じマンションだけど」
「は、まじで!? 」
知らなかったの?って顔で苦笑いを零す名前きんにがっくし肩を落とす。そんな俺の指に名前さんがきゅっと力を込めてくれる。たったそれだけのことで俺は上機嫌。我ながら単純だって思うよ。
手繋いだだけで浮かれていた俺に、あろうことか名前さんは一気にどん底に突き落とすような事を口走ったなんて。
「勇征ごめん、正直昨日のことあんま覚えてないんだわ」Color me