E ポーカーフェイス

 朝海さんと別れて名前さんを探すと直ぐに見つけた。片岡さんの隣で楽しそうに笑う名前さんはやっぱり可愛い。一見冷たそうな見た目なのによく笑うその姿に勝手に心臓が高鳴る。
 花見が始まって早2時間が経とうとしていた。
「誰だあの人…」
 片岡さんと反対側、名前さんの左を独占している人に見覚えがなかった。だけれど、俺の横を通り過ぎて細い脚を靡かせて朝海さんがその男の隣に座った。
「また男漁りしてたんだろ、ネコ」
 片岡さんの呆れた顔を睨みつけて「直人さん煩い。そんなんだから3年目の国宝級イケメンに名前さん狙われてるんだよ」朝海さんの言葉に片岡さんは分かりやすく顔を顰めた。当の名前さんは完全にポーカーフェイスだ。顔色一つ表情一つ変えない。
「なによそれ、聞いてないなぁ〜直人。どーゆーこと?本当なの?名前」
 ふわりと名前さんの緩るウェーブを触るその男、イエローカード!!つーかあんな整った顔のイケメンいたんだ。しかも、片岡部長に対してあんな上から…。
「それガセよ、ネコ。ね、ナオ」
 名前さんの綺麗な手が片岡さんの太腿に触れてほんのり身体を寄せる。あれを自分がされたら即押し倒すな…なんて思いながらも俺はストーカーの様に身を潜めてその会話を聞いてしまう。
「うーん、正直俺は不安しかない」
「うわ、素直な直人さん怖いっ」
「朝海その顔…」
 片岡さんに突っ込める後輩なんて朝海さんぐらいだろうな。それにしても隣の男、何者?
「3年目の国宝級って誰よ?イケメン?」
「でも名前さんのタイプじゃないよね?チビ好きな名前さんの」
「ネコ〜人聞き悪いわよ。まぁだいたいいつも好きになるのは小柄な人が多いけど」
 ガーン。俺身長高くてフラれるの?そんなの初めてなんだけど。
「なぁ名前、俺達やっぱりやり直さない?」
「へぇ〜。直人が焦るぐらいなんだ、そいつ」
「ぶっ、それ今ここで言う事じゃないよ、直人さん!焦りすぎ!」
 四人の会話のテンポが良すぎて誰も入っていけない空間を作っている。
 うちの会社でも営業一課は花形で、そこの部長である片岡さんはみんなからの信頼度が桁外れだった。そんな片岡さんの秘書的存在である補佐の名前さんを狙っている男も多いはず。あくまで片岡さんの一歩後ろをついていく姿勢で仕事をしているから。普通の男なら名前さんを選ぶ。スリルを求めるなら朝海さんかもしれないけど。
「やり直さない。これ以上私の脳内ナオでいっぱいになったら仕事もできないし、ナオと関わる女全員に嫉妬しちゃうもん」
 見たことない表情で、それでも片岡さんに甘えてる様にすら見えた。あんな事を言われたら、名前さん以外の女なんてどーでもよくなる気がする。もしかして、離れられないのは片岡さんじゃなくて名前さんの方なのかも…。縛り付けて離さないのは、名前さんなのかもしれない。
 冷静に考えればそう分かった。それでも俺の身体は、心とは裏腹に名前さんを求めてしまう。ポケットにあるスマホで今朝かかってきた名前さんの番号を押す。即番号登録した俺は早速電話をかける。
「電話…勇征だ…」
 …やば、ちゃんと勇征って呼んでくれた事が嬉し過ぎ。やっぱりあの会話聞かれてたんだって確信したけど。頼むから出て…。ジッと画面を見つめていた名前さんはスッとその場から立ち上がるとブルーシートの外に置かれたパンプスに脚を入れる。無言で名前さんの後ろ姿を見つめる片岡さんに内心謝りながらも俺の耳が機械越しに名前さんの声を捉えた。
【どうしたの?】
「…逢いたいです、今すぐ」
【…なによそれ。馬鹿みたい】
 小さくそう言った名前さんは、少し泣きそうな顔に見えたなんて。Color me