F 宣戦布告
「名前さん俺、やっぱり名前さんの事もっと知りたい…」【そう】
「片岡さんの事、忘れさせてあげたい…」
【無理よ】
「なんで?」
【…みんなそう言ったけど、誰もできなかった】
う、それは骨が折れそうな回答だけどこんな所でへこたれる訳にはいかない。
風が拭いて桜の花弁が舞って名前さんの髪に落ちた。じゃりっと音を立てて名前さんの前に姿を現した俺は、髪に落ちた桜の花弁を指で取ってそれを名前さんに見せた。急に俺が出てきて吃驚したものの、名前さんは少し困った様に視線を逸らす。
「俺にチャンスをくれませんか?」
花弁を受け取った名前さんに畳み掛ける。
「さっきのあれ、ナオなら誤魔化したりしない。そういう所が好きなの」
スーパーの買い出しの時の事だと直ぐに分かる。
「すみません。本気で片岡さんを敵に回すのはしたくないです。今まで誰にも出来なった事かもしれないけど、名前さんの心の中をこれからは俺でいっぱいにします」
言ってる俺のが心臓壊れそう。脳内で警告音が鳴り響いてる、この人は危険だと。もしかしたら朝海さんより難しいのかもしれない。それでもいかずにはいられない。その心も、瞳の中も俺だけにしたい。
「分かった。半分だけ信じてあげる」
半ば期待してないって感じだけど、今はそれでいい。
「じゃああの、一回抱きしめさせてくれませんか?」
手を広げて名前さんを見つめる。だめ?いける?桜吹雪の中、俺を見つめ返す名前さんの頬はほんのり赤い。飲んでるよな、酒…。またちゅーでき、「だめに決まってるでしょー。今日は飲んでてもキスもしないからね」んべっと舌を出して俺から距離を取る。
「だめか〜」
「当たり前だろ」
不意に聞こえた低い声。振り向けば腕を組んで桜の木の裏から出てきたのは片岡さんで、「え、いつから?」また背中を冷や汗が滴り落ちていく。
鬼の形相と思いきや、覚悟を決めた様なそんな顔にも見えなくもない。七三分けした片方だけ刈り上げていた爽やかな髪型をわしゃわしゃと掻き乱す。
「(俺の)女連れてかれて黙ってられっか。勇征それは俺への宣戦布告だととっていいんだろーな?」
仕事でなきゃ片岡さんは優しい。今んとこ怖くない。それでも名前さんを渡すまいとしている片岡さんは相当ツワモノで、俺なんかが太刀打ちできる相手じゃないのかもしれない。
けど引けない――俺も男だから。
「はい。そのつもりです」
一度口に出した言葉は取り消せないし、消えることはない。無言で俺を睨む片岡さんに更に続ける。
「男に二言は有りません」
一瞬冷ややかな空気を纏った瞬間、パチパチパチと拍手が聞こえた。視線を向けると、朝海さんと謎の男。
「人事課の土田です。初めまして、八木勇征くん。二人の対決は俺にジャッジさせて貰ってもいいかな?」
「絶対楽しんでますよね?哲也さん。ネコもニヤニヤしないっ!」
人事課か…「あ、面接の時の?」緊張して記憶が曖昧だったけど、この人面接官の中にいた人だ。
「思い出して貰えて光栄です」
胸に手を当てて執事の様にお辞儀をする土田さんにぺこりと頭を下げた。
人事課のイケメンってこの人の事か。確かに涼し気な整った顔立ちで目を引く。
「よし、じゃあ記念撮影撮ろう。名前を挟んで三人で」
土田さんの指示であれよあれよと三人並ばされる。隣にいる名前さんの腰に腕を回して肩に顎を乗せて引っ付く片岡さんに怯む事なく俺は名前さんの手を握って指を絡めた。
「凄い戦いだなー」
朝海さんの若干引いた声と、土田さんの楽しそうな声が反響していたのが印象的だった。
これから堂々と名前さんを追えると思うと胸が躍った。Color me