G 二番目の男

 片岡さんに堂々宣戦布告をした俺はご機嫌な浮かれポンチで、アルコール摂取して眠そうな名前さんを連れ出すつもりだったのが「誰…?」だいぶ遅れて姿を見せた営業二課の人を前に混乱していた。
 片岡さんが面白そうな顔をして近づいてきて俺の横に座る。当然ながら視線を向けた俺に苦笑いで言葉を紡いだ。
「名前を追うなら覚えておいた方がいいよ」
 そう言って片岡さんは名前さんが寄り掛かっている男に向かって「隆二」と呼ぶと視線が飛んできた。
「直人さん、なんすか?」
 口髭のあるそいつはガテン系で外見は少し強面だ。
「名前さん眠い?帰る?送ろうか?」
「少し抜ける」
「了解。直人さん少し抜けます」
 片岡さんの前で堂々と名前さんを連れ出す男、隆二さん。
「あの」
「名前の寂しさ埋めてるのはアイツだよ」
「それって身体だけって事ですか?」
「さぁな。俺にはあの二人がどこでどう繋がってるのか分かんない。けど俺と別れて直ぐ、隆二が名前に告ったのは確か」
 瓶ビールはいつの間にかレモンサワーに変わっていて、あんだけ沢山買いまくったスーパーの惣菜もほぼ無くなっていた。そろそろお開きになるか、はたまた二次会に行くのかって話題がちらほらと聞こえてくる。
「片岡さんだけじゃなかったんですね」
 どう見ても二番目の男って感じに見える隆二さん。本命の片岡さんに頼るのは嫌ってこと?それでも名前さんの心は片岡さんにある様にしか見えない。まさかそんなセフレちっくな男がいたなんて…。
「なに?引いた?」
 片岡さんが眉毛を下げて苦笑い。自分は慣れてるつもりなのかもしれないけど、どう見たって片岡さんの愛情は重たくて、その身体全部で拒否しているのは俺じゃなくて片岡さんだろう。
 胡座をかいて座り直した俺は小さく横に首を振った。
「ますます燃えます。まずは隆二さんを超えろって事ですよね」
「へぇ、案外肝据わってんだ。俺は死ぬ程ショックだったけど…。ただ一人で眠れない夜を名前が寂しく過ごすのは嫌なんだけど。…矛盾してるのよ、俺の気持ち」
 俺自身もそんな相手を好きになった事がないから正直分からない。今はあくまで動揺しない様に振る舞ってるのかもしれないし。
「女の人って、やっぱ一人で眠れないんですかね…」
「大人になればなるほど、そーゆー夜も増えるんじゃねぇ?」
 一人で眠れない夜か…。俺達の想い人はもう違う男とこの場から去って行ってしまった。
「勇征二次会行く?」
「いや帰ります」
「分かった」

 何だか気分が落ちた。名前さんともっと距離を詰めたいと思う気持ちが先走りしてしまいそう。まぁその相手がいないんだけど。
「あ、国宝級イケメン発見」
 なんだ?と振り返ると、確か総務課の「えーっと、ミサキちゃん?」名前を呼ぶと嬉しそうに飛び跳ねて俺の隣にやって来た。
 Sサイズの読モ出身だっていうミサキは長い黒髪を靡かせて俺の隣にピタッとくっついた。
「一緒に写真撮ろ。だめ?」
「いいけど…」
 可愛くない訳じゃないけど、今の俺は名前さんしか目に入っていない。
 自分のスマホを翳して俺に寄り添うミサキからはふんわりとスパイシーな香りが漂ってくる。あんま好きじゃない香水だと思えばこの密着した距離すら不快だった。
 カシャりと2枚程カメラに収めたミサキは「今度二人で飲みに行こうよ。私なんて呼べばいい?」
「なんでもいいよ」
 敢えて最初の質問をスルーした俺にミサキは続けた。
「じゃあ勇征。なんかずっとオジサン達と話してて妬いたよ〜。もしかしてあの部長補佐みたいな女が勇征のタイプなの?」
 最近の若い奴はずけずけと物を言う。片岡さんをオジサンって呼んで許されるのは朝海さんぐらいだろうに。それより何よりなんでもいいよ、なんて言ったものの、勇征と呼び捨てされたのがどうにも不愉快だ。
「やっぱ恥ずいから名前呼び捨ては無しにしてくれる?」
 名前さんへの気持ちをやすやすと話すもんか。彼女の髪に手を触れてスッと腰まで下ろすとミサキは「なにそれ可愛い。余計呼ぶ」逆効果だった。断るのも面倒だったから適当にミサキの話に相槌を打っていたら、別の男に呼ばれて颯爽と俺の前から居なくなった。
「あー名前さんに逢いてぇ…」
 逢って抱きしめたい…俺だけのものにしたい…。ふと空を見上げると、暗くなってきた桜の木に、灯りが宿った所だった。Color me