12年間の終止符
12月に入り、STUDIOSEVENの本社ビルは新作のお披露目に向けて慌ただしさと、微かなクリスマスムードに包まれていた。窓の外の冷たい空気とは裏腹に、フロアの熱気が私の胸を締めつける。
秘書として、CEO兼デザイナーである片岡直人——直人さん、と呼ぶその人——の隣に立つことが、私の存在理由であり、全てだった。
19歳で出会い、気がつけば12年。私が直人さんのために整えたスケジュール、用意したコーヒー、選んだネクタイ。人生のほとんどを直人さんという名の恒星の周りを回る惑星のように生きてきた。それが私、一ノ瀬雪乃の現実だ。
「雪乃、この資料、急ぎで目を通してほしい。夕方までにクライアントに送る」
「はい、直人さん。すぐに」
いつものように響く直人さんの落ち着いた声に自分が瞬時に反応する。この完璧な仕事上のパートナーシップを、周りの誰もが羨んだ。けれど、それは直人さんにとっては永遠に崩れることのない親友であり、仕事の相棒でしかない。その現実は、31歳になった私にはあまりにも冷酷な現実として突き刺さっていた。
友人たちのSNSには、結婚、妊娠、マイホーム。幸せな報告が並ぶたびに、私はポツンと一人取り残されたような恐怖を抱える。直人さん以外を好きになれないという、ある意味で呪いのような一途さが、私をこのポジションに釘付けにしていた。
「三十路を超えて、いい加減、卒業しなければ」
グラスの縁をなぞりながら、私は向かいに座る経理担当の後輩、原田美月にそうこぼした。
「雪乃さん、それは……告白するってこと?」
美月は心配そうに、けれど真剣な眼差しで私を見つめた。美月だけが、私がどれだけ直人さんを求めているか、そしてどれだけこの苦しい関係に終止符を打ちたいと願っているかを知っている唯一の人だ。
「振られるだろーけど。でも、これ以上このまま直人さんの親友として生き続けるのは、私自身を殺すことになるから…」
学生の頃なら、もっと簡単に「好き」と言えたのに。今は、振られた後の関係性の変化、会社での立場、全てを計算してしまう。そんな自分にもどかしさを抱えながら、私は決めた。
今回の新作お披露目会が終わった打ち上げの夜、この12年間の想いにケリをつけるのだと。たとえ、この先も一人淋しい夜を何度も超えることになったとしても、せめて私の気持ちだけは、直人さんに伝えておきたかった。