美月が流した歓喜の涙
クリスマスイヴを境に、私の世界は一変した。直人さんへの仕事上の態度は変わらない。けれど、彼の隣にいても心がチクリと痛むことはもうない。なぜなら、私の心は勇征という温かい居場所を得たからだ。
年明け、本社は少し落ち着きを取り戻し始めていた。ランチ休憩前、私は勇征と二人で経理部のデスクにいる美月の元へと向かった。美月はいつものように、パソコンに向かいながらお菓子をポリポリと食べている。
「美月ちょっといい?」
私が声をかけると、美月は口の中のクッキーを急いで飲み込み「雪乃さんと勇征くん!どうしたの、二人揃って」と、少し訝しげな顔をした。
「実は、美月に一番に伝えたいことがあるの」
私がそう切り出すと勇征が私の隣に立ち、美月に向かって深々と頭を下げた。
「原田さん。えー、雪乃さんが正式に俺の恋人になってくれました。これから雪乃さんのことを絶対に幸せにしますので、よろしくお願いします」
美月は一瞬何を言われたのか理解できないという顔で、お菓子を持ったまま固まった。そして、雪乃である私と、頭を下げる勇征を交互に見比べて、ようやく言葉の意味を咀嚼したようだった。
「え……嘘、えっ、うそ!?本当に!?雪乃さん、まさか……あの日、直人さんの結婚報告の後に、勇征くんと?」
「うん。クリスマスイヴに、私から勇征に告白したの」
私がそう告げると、美月は信じられないものを見るように、ゆっくりと立ち上がった。その目はみるみるうちに潤み、次の瞬間には、大粒の涙がポロポロと流れ落ち始めた。
「うわあああぁぁぁん!雪乃さぁん、よかった…!本当に、よかったあぁぁぁ…!」
美月は声を上げて泣き出し、私の胸に飛び込んできた。その涙は、私が直人さんを想って流したどの涙よりも熱かった。
「私、雪乃さんがずっと直人さんのことで苦しんでいるの知ってたから……やっと、やっと報われたんだね!勇征くん、雪乃さんを絶対泣かせないでよ!絶対だよ!」
美月は泣き顔のまま勇征を睨みつけた。勇征は、そんな美月の様子を見て優しく微笑み、
「はい。誓います。もう、雪乃さんを悲しい涙で泣かせることはありません」
そう美月に向けて深く頷いた。
美月の泣き顔は、小悪魔になりたいという目標とはかけ離れた、ただただ可愛らしい、正直な心そのものだった。頼まれたら断れない責任感の強い彼女が、自分のことのように泣いて喜んでくれる。私は、美月の背中を優しく叩きながら、胸の奥で強く思った。
この12年間、私を支えてくれたのは、直人さんへの一途な想いだけではなかった。私の片想いを全て知っていて、いつも静かに応援し、いざという時には守ってくれた美月や、そして何よりも、諦めずにそばにいてくれた勇征という、本当に愛すべき人たちがいたからこそ、私はこの幸せに辿り着けたのだと。
美月が「雪乃さん、おめでとう!」と満面の笑顔で言ってくれるのを見て、私の人生の新しいページが、本当に始まったのだと実感した。
これからは勇征と二人、幸せな未来だけを描いていこうと思う。
【完】