朝焼けの約束

 気がつくと、部屋は微かに明るくなり始めていた。薄いカーテン越しにクリスマスの朝の柔らかな光が差し込んでいる。
​ 私は温かい腕の中にいた。規則正しい心臓の音がすぐそばで響いていて、目を閉じたままそれが勇征の胸だと確認する。昨夜の全てが夢ではなかったと、身体に残る心地よい疲労感と、絡み合った指先が教えてくれた。

 ​こんなにも安らかで、満たされた朝を迎えるなんて、12年間想像すらしていなかった。直人さんへの叶わない想いに囚われていた頃は朝が来るのが憂鬱で、目を覚ますたびに孤独に苛まれていたのに。 

​ そっと目を開けると勇征の穏やかな寝顔が目の前にあった。彫刻のように整った顔立ちが無防備に私の隣にある。その甘いマスクが今は私だけを見つめ、私だけのために微笑んでくれるのだと思うと、胸がいっぱいになった。
 ​思わず、勇征の頬にそっと触れる。モデルとしてストイックに鍛えている彼の肌は、温かくて少し硬い。
 
​「んん……雪乃」
 
​ 私が触れたことで、勇征がゆっくりと目を開けた。寝起きの掠れた声で、彼は初めて私を「雪乃」と呼び捨てにした。そのたった二文字の響きに、私と勇征の関係が完全に変わったことを実感し心臓がドキリと跳ねる。
 
​「…おはよう、勇征」
「おはよう、雪乃。今、何時?」
 
​ 勇征は時間を確認するふりをして、私の腰に回していた腕をさらに強く引き寄せた。身体が密着し昨夜の熱が再び蘇る。
 
​「まだ早いみたい。起きなくていいよ」
「だね。今日は、世界で一番幸せなカップルの特別な朝だから」
 
​ 勇征は私の髪をそっと撫でると、額に優しいキスを落とした。
 
​「夢じゃないんだよね」
 
 私がポツリと漏らすと、勇征は真剣な眼差しで私を見つめ返した。
 
「夢じゃないよ。雪乃さんが俺のこと好きだって言ってくれた。俺が雪乃さんの隣にいることが自然になるように頑張るって言ったけど…もう、自然じゃない?」
 
​ くすっと笑いながら勇征は私の耳元でこう囁いた。
 
「俺もう、雪乃さんがいない朝なんて想像できない。もうどこにも行かせない」
 
​ その言葉は私を独占したいという勇征の強い意志の表れだった。私は勇征の胸に顔を埋め、深く息を吸い込んだ。勇征の体温と香りが私にとって一番安心できる場所だと感じた。
 
​「どこにも行かない、勇征、好き…大好き」
 
​ 勇征は満足そうに微笑むと、私の首筋に顔を埋め、もう一度強く抱きしめてくれた。窓の外からは、遠く教会の鐘の音が聞こえてくる。

 沢山の涙を流した過去を全てこの温かい腕の中へ置いていこう。そして、これからはこの温もりを二人でずっと守り続けていく。
​ クリスマスの朝、私と勇征は微睡みの中で、永遠の愛を誓い合った。

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