Story 8
レストランに入ってきた名前と君島にその場が静まった。いや正確には名前をみて静まった
「えっ。なに…わたしなんかした?」
「思った通りですね」
「なに?いっくんどういうこと?」
「名前!なんで!?なんでそんなめかしこんどるん!?」
君島に説明を求めると毛利の大きな声が響いた
「あぁ、この化粧?いっくんが新色のチーク持ってきてくれてさ!使ってみたの!そしたらいっくんが髪の毛やってくれたんだ〜」
「なんなん!?可愛すぎやろ!名前可愛えぇで〜!!(スリスリ)」
そう言って毛利が名前に抱きついているとゴンッとなんとも痛そうな音とともに毛利に拳骨を落とした種ヶ島が現れた
「ちょっと修さん!痛いっすよ!」
「さよか。で?名前ちゃんはなーんでそんなにおめかししとるん?ほっぺの色いつもとちゃうんやない?」
「さすが、よくわかったね。いっくんに新しいチークもらったから使ってみたのだ!」
ジャジャン!と効果音がつきそうなくらい自信満々に名前は声高らかに言った
「せっかくなのでへアセットはわたしがやって差し上げたんです」
「なるほどなぁ。ん。可愛えぇな〜さすがや☆」
「いっくんが持ってきてくれたものは間違いないからね」
「ほなその可愛い名前ちゃんは俺が頂き☆俺の隣やで☆」
「え、じゅさくんと約束してたんだけど」
「だって毛利俺に負けたし?勝ったら隣ええよって俺言うたもん」
「そういうことじゃないでしょ。だいたいその賭けわたしは了承してないからね」
「えぇ〜名前ちゃん冷たいっ☆」
名前の返答がわかっていたのか種ヶ島はすんなり受け入れ、名前は毛利と君島を誘い席に座る
「名前〜名前は俺の隣に来てくれるって信じてたでっ」
「約束したからね。ほら、苦しいから離して、じゅさくん」
「寿三郎、離してあげなさい。そのままだと2人とも食事をとれませんよ」
「はーい」
「(ほんと大型犬だなぁ…)」
名前の見た目以外はいつもの光景なのかしばし固まっていた周りの選手達もいつの間にかそれぞれの席について食事を始めていた
名前のテーブルは種ヶ島 毛利 君島の4人。騒がしくないはずがない。両サイドにいる種ヶ島と毛利を注意しながら向かいにいる君島に助けを求めたが、なにも知らないと言った表情で静かに食事を続けている。その君島を見て自分も余計な口を挟まない方がいいと判断した名前は君島同様静かに食事を進めた
一足先に食事を終え未だ言い合いをする2人を置いてレストランを出た名前は、まだ19時ということに気づき散歩がてら負け組が特訓をした崖の上に足を向けた
まだあそこには高校生負け組がいるはずだーーーーーーーー
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「入道監督、お久しぶりです」
「おう…小娘か…なにしに来た。代表発表の時に会っただろ」
「ちょっと時間ができたので散歩がてらみんなの様子を見に来ました」
「散歩でこんなとこに来るなんてなぁ…お前暇か」
「暇じゃないです〜今日は午後が自主練だったんで夜も時間あるんです」
「ほぅ。代表を発表したのに随分と余裕だな、あいつらは」
「逆ですよ。自主練だからみんな躍起になって練習してます。一番わかってるくせに」
「ふん。知らんわ」
散歩と言うには少し遠い崖の上。本来の名を『裏コート』。U-17代表監督の三船入道が負け組を育てるために使っているこの場所。合宿所の広い敷地内にあり、16面コート近くの森から歩いて行ける場所にあるのだ。名前は時々ここに来て監督と話して自分の目指す場所を再確認する。そのついでに負け組と試合をすることもあるのだ
「高校生負け組はどうですか?中学生が降りてきてからだいぶ経ちましたけど」
「まだまだじゃ。来たときよりはましになったが中学生が降りてから戦う相手を見失っとる」
「あぁ〜代表も決まっちゃいましたしね。まぁここで合宿に来た意味を見失ってるようじゃ一生代表なんてなれませんし、仕方ないですね」
「ふん。で、何があったんじゃ。言わんのなら帰れ」
「あらら、バレてました?(笑)」
「当たり前じゃ。で、言うのか言わんのかどっちじゃ」
相変わらず鋭い。気づかれるのはわかっていたがこんなに早く言えと言われることも珍しい。それだけ切羽詰まった顔でもしていたのか、と名前は反省した
「中学生も高校生も代表が決まって、みんな確かに意気込んでます。主将も口では相変わらずな感じだけど中学生それぞれに期待してるのもわかるし高校生達もそれぞれ期待してる。それになによりわたしは中学生達と3年間一緒に過ごしてきました。彼らの実力はわたしが一番わかってると思うし自信もあります。だから、だからこそ怖いんです。」
「………………。」
「マネージャーという立場でここにいるけどエキシビジョンでわたしも試合をする。負ける気はありません。そんな気さらさらないし負けるとも思ってません。でも、もしも。もしもが起こったら?勢いをつけるはずのエキシビジョンでもしもが起こったら。わたしはみんなに顔向けできません。負けないように練習もしてる。今日も練習しました。新しい技もほぼ完成してます。でも、どうしても、でもっていうのが拭えないんです。」
「………………。」
「そんなこと考えてるわたしがマネージャーでいていいのか、本当に皆を支えられるのか、ずっと考えてました。」
「……ほう…。」
「今までは高校生だけだったし世界戦を戦ったことがある人たちだったからある程度安心してたし、なにが起こっても対応できる自信がありました。でも今回は違う。中学生に海外を経験したことがあるのはわたしと跡部だけ。跡部だって小学生の時だから3年以上前。その状態で高校生と一緒に戦えるのか、同時に他国はどんな中学生がいるのか、なによりドイツには手塚がいる。今回のドイツは今まで以上に隙が、死角が一切ない。」
入道監督はなにも言わずに名前の話を聞く。いつものスタイルだ
「…。要は怖いんです。初めて、今までテニスをやってきて初めて怖いと思いました。たぶんリョーマが近くにいないことも原因です。聞きましたか?リョーマ、アメリカ代表で出るんですって」
「……………。」
「何度も試合してきた、ずっと隣にいたリョーマが今は怖いんです。リョーマがいるアメリカと当たるのが怖い。手塚がいるドイツと当たるのが怖い。……自分が負けるかもしれないのが怖い。そんなことばっかり考えて、道がわからなくなりそうでした。ーーーーーーでも、もう大丈夫です」
名前の視線の先にはがむしゃらに夜練をする高校生達
「ここに来てわかりました。無駄な考えは本当に無駄ですね。今日はこの無駄な考えを崖から落とそうと思ってきたんです。聞いてもらっちゃってすみませんでした。次監督と会うときはもうこんな顔しません。弱音はここに全部置いていきます」
「そうか。」
「はい。ありがとうございました。そろそろ戻ります。監督あんまりお酒ばっか飲んだらだめですよ?酔っ払いは飛行機に乗せませんからね」
「知らんわ。早く戻れ小娘」
「ふふっ。そうします。ありがとうございました」
監督に一礼して名前は合宿所へ戻る道を歩き出した
「小娘ぇ!!…勝つぞぉ〜」
「………フッ。当たり前です」
「ふんっ。ならいい」
今度こそ歩き出した名前。
ーーーーーーもう、大丈夫。