ギロクル/戦国武者ケロ/浪人×ヤブ医者。ギロロ視点
昼に夏美にそっくりなお夏の話を聞いて、何とか助けてやりたいとは思ったが伝説の武器を簡単に諦めるわけにはいかない。そもそもお夏に必要なのは父親を医者にみせる為の金であって武器ではない。だからといってまとまった金を用意出来るわけでもない。
クルルに診てやってくれと頼むのは簡単だし、クルルも文句を言いながらでも頼めば病状を確認して薬も処方してくれる、だからこそ頼みづらい。
クルルには何度好きなのはお前だけだと言っても信じてくれないどころか、夏美が手に入らないからって手近で済ませようとするなとつれなくされ続けている。お夏の父親のことを頼めばまた勘違いで夏美に未練があると思われるのだろうが背に腹はかえられない。俺がお夏に用意してやれるのは金ではなく医者だけだ。
特訓の帰り道は暗く、獣の鳴く声すら聞こえない静寂に包まれているが浜辺にはまだ火が灯っている。横で寝ているケロロとタママには目もくれず、なるべく静かに寝ているクルルに近づいて起きているかと尋ねてみたが返事はない。寝ているところを起こすのは忍びないが、なんとか明日の大会が始まるまでにお夏を安心させてやりたい。
クルルの薄い肩に手を伸ばしてなるべく優しく揺すって起こそうかと思ったが、肩に手が触れただけで肩が跳ねてクルルの瞼が開かれる。これ程までに眠りが浅いとは思っていなかったが、慣れない野宿でよく眠れないのかと思い直して声をかける。
「起こしたか?すまんが頼みがある」
「何スカ?」
「昼に見かけた夏美にそっくりな奴がいただろ、あのお夏の父親が病気だから診てやって欲しい」
言葉の後には沈黙が続く。よく見ていないと気付かない程僅かに眉を寄せてこちらを見つめ返すクルルの視線から感情は読み取れないが、決して喜ばしい事だと思っていない事だけは分かる。
夏美に似てるから助けたいわけじゃないし、俺が恋愛感情を持っているのはお前だけだ、と言い訳じみている本心を吐露しようと口を開きかけたところでクルルが今度は露骨に眉を顰めた。
「キス、してくれたら診てやってもいいぜぇ」
「はぁ!?」
「それとも俺とはしたくない?」
本人は嫌がらせのつもりかもしれないが、こちらからしたら冗談では済まされない。
好きな相手にキスを強請られて断るほど紳士ではないし、キスだけで終わらせられる自信もない。すぐ横でケロロとタママが寝ているがそんな事で手加減してやれるとは思えないし、そんなつもりもない。寧ろ見られてしまった方が堂々と俺のものだと主張できて都合がいい。クルルを無理矢理抱くつもりはないが、クルルが嫌がらないなら抱かないつもりは微塵もない。
本当にいいのか、とじっと見つめ返せば瞬きとともにクルルは視線を伏せてしまう。
「……後悔するなよ」
「クク、冗談に決まってんだろ」
声をかけながらそっと頬に手を伸ばし、顔を近づけるが唇に触れる前にそつなく手を振り払われてしまう。
顔には薄ら笑いが張り付いているが笑っているようには見えないし、どちらかというと泣くのを我慢しているように見える。機嫌を損ねてしまったのか冷たい視線を向けてくるクルルはこちらの事など気にする様子はなく1人で立ち上がって1人で歩き出してしまう。
「さっさと案内しな、日向夏美にそっくりな女に会いに行くんだろ」
「あ……あぁ、こっちだ」
行き先も知らないのに勝手に歩いていくクルルの背中を追い越してちゃんとついてこれているかを確認しながら先を行く。道は凸凹していて薄い月明かりだけを頼りに歩くには向いていない。暗いから気をつけろと手を差し出したが手を取るつもりはないらしく、涼しい顔で歩いているクルルの手を強引に奪う。
手を繋ぎたかったのは否定のしようがない事実なので下心がないとは言えないが、何よりもこんな足場の悪い道でこけて痛い思いはさせたくない。
どんなに想っても決して応えてはくれない男の手は、どこか粘ついた生暖かい夜とは遠くかけ離れて冷たく冷えきっていた。
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