ギロクル/戦国武者ケロ/浪人×ヤブ医者。クルル視点






ふらりと出て行ったきり一向に帰ってこない先輩を待っているうちに隊長とタママはすっかり眠ってしまってただ1人だけ浜辺に残される。待っていろと言われたわけでもないし、待っていて欲しいと頼まれたわけでもないので別に先に寝てしまっても良いのだろうが、何だか落ち着かなくてゆっくり眠る事も出来ない。
横になってはみたがそう簡単に眠れるわけもなく消えかかっている焚き火をじっと見つめては、1人で平気だと自分に言い聞かせる。
眠る事も出来ず、かといって起きていてもやる事があるわけではない。諦めて砂の数でも数えていようかと至極くだらない思考にたどり着いたところで砂の上を歩く足音が耳に届く。待っていたのだがそう思われるのが嫌で咄嗟に寝たフリをすれば、足音が近くで途切れた。
起こす気があるんだかないんだか微妙な音量で起きてるか?と訪ねる声がするが返事をして話しかけたい相手が自分でなかったとしたら自意識過剰のようで気まずく、返事すら出来ない。こんなに人にどう思われるかを考えた事なんてなかったのに最近の俺は本当にどうかしているとしか思えない。寝たふりを継続したまま先輩が立ち去るまでじっとしていようと決めていたのに急に肩に触れられて思わず目を開けてしまった。
「起こしたか?すまんが頼みがある」
いつもは頼み事なんてして来ないくせに、こんな時だけと思わなくもないが頼られて悪い気はしない。
「何スカ?」
「昼に見かけた夏美にそっくりな奴がいただろ、あのお夏の父親が病気だから診てやって欲しい」
昼にやけに話し込んでいると思ったらそういうことか、と妙に納得してしまう。
頼られるのは嬉しい。でもその理由が惚れた女にそっくりな奴を助ける為ならもちろん嬉しくない。頼みを断るつもりもなければ断る事も出来ないが、素直に言うことを聞くのも癪に触る。答えは既に出ているのだが、素直に従ったと思われるのが嫌で黙り込んでいれば先輩の視線が不安そうに揺れる。無言で駄目か?と訴えかけてくるその瞳はやけに一途でイライラする。
気分が、悪い。
「キス、してくれたら診てやってもいいぜぇ」
「はぁ!?」
「それとも俺とはしたくない?」
不安に揺れていた瞳がピタッと止まって、視線が合う。思わず目をそらしてしまったが負けたようで悔しくて瞬きの間に視線を戻したがもう視線は噛み合わない。
ふと口をついて出た言葉は意味も持てないまま消えていくしかない。
「……後悔するなよ」
「クク、冗談に決まってんだろ」
壊れ物に触れるように優しく頬に触れる掌を振り払い、なるべく冷たく聞こえるように吐き捨てた。そんな理由でキスされても全く嬉しくない、それどころか虚しいだけでどう考えても満たされるはずがない。
そもそもこの人は本人ならともかく似ているだけの赤の他人を助けるためなら嫌いな奴とキスしてみせるようなそんな男ではない。
それだけ日向夏美の事を想っているのだと改めて見せつけられてもただ辛いだけだ。
「さっさと案内しな、日向夏美にそっくりな女に会いに行くんだろ」
「あ……あぁ、こっちだ」
歩き始める背中がやけに大きく見えて戸惑うが自分から言った手前付いていかないわけにもいかず、1度だけ振り返って黙って後に続く。暗いから気を付けろと言いながら差し出された手を取れずにいたら、奪うように手を取られ手を引かれる。
痛いと叫んでも、どんなに血を流しても、壊れそうなくらい軋んでも、痛む心には気づいてないフリをする。どんなに願っても手に入らないと分かっている、思い人がいる男の手はそれでも温かかった。



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