マリヒュ
控えめなノックの後に続く届け物を知らせる声にどうぞと声をかける。山のような荷物を抱えた兵士を一瞥し部屋の隅に同じく煌びやかな包装紙で彩られた荷物の山に目線をやれば兵士は気付いたように苦笑いを零しその山を更に積み上げた。
毎年毎年よくも飽きないものだ。赤の他人の誕生日なんて祝ってもなにも楽しくないだろうに、それに花やアクセサリーを送ってくるよりも暴星モンスターの一匹でも討伐してくれた方がよっぽどありがたい。
休憩がてらプレゼントの山をなんとかしようと先ほど置かれたばかりの箱を差出人を確認しながら上からあけていく。
以前処分に困って生花と生菓子は苦手だと公言した事も影響しているのか流石にすぐ片付けてしまわないといけなさそうなものは少ない、が一際目を引く真っ赤な薔薇の花束が山から少し離れた所に放置されている。
花束の中に差し込まれていたメッセージカードを引き抜くとそこには癖のある字で「100本分の愛をお前に」と書いてあった。平気でこういう気障な事をする男は一人しか知らない。
先ほどまでこのうんざりする程のプレゼントの山に嫌悪すら感じていたくせに、嫌がっていた花のプレゼントでこうも機嫌が良くなっているのだから現金な話だ。
花束を床に置き去りにしてカードを手の中で弄ぶ。仕事を早く終わらせればまだフェンデル行きの最終便に間に合うだろうか
「無理、ですね」
自分に諦めさせるためにも声にだし確認する。最終便の出航まであと30分もないだろう。逢いたくないと言えば嘘になるがこのままやりかけの仕事を放り出して行けるはずもない。
「・・・花なんかより来てくれればいいのに」
女々しい思考が口をつく。こんなに堪え性のない性格ではなかったはずなのに一緒に旅をして共にすごした時間を懐かしむと逢いたくて堪らなくなる。
どれほど急いで終わらせたところで逢いたい人の一人にも逢えないなら仕事に対するやる気も失せるというもの
本日何度目かのノックにどうせまた荷物が届いたのだろうと気にもせず投げやりにどうぞと声をかける。メッセージカードを字が見えないように机に伏せ、誰が来たのかを確認して戸惑ってしまう。
そんな戸惑いを気にする様子もなく積み上げられたプレゼントの山を興味深そうに眺める男に文句のひとつでも言ってやろうと口を開いたが言葉が見つからずに諦めた。
「それで、何の用ですか」
「誕生日だからって駆けつけた恋人にその態度はないだろう」
「暇じゃないんですよ」
「知っている、から贈り物だけにしようと思ったんだが俺が我慢できなくてな」
「もういい年なんですし、花といいメッセージカードといい、恥ずかしい事ばっかりするの止めてもらえませんか」
「もういい年だからお前を繋ぎとめておこうと必死なんだ、それくらい許せ」
たまにはからかってやろうと思ったがどうやら向こうのほうが一枚も二枚も上手らしく逆に言いくるめられる。焦らせて困らせてやりたいのにいつだっていいように扱われてたまに手加減されて勝たせてもらえているのが気に食わない。
それなのにそんな所も含めて嫌いになれない自分が一層の事憎らしい。
「仕事、まだ終わってないんだろ?大人しく待っててやるから早く終わらせろ」
「どうしてそんなに上からなんですか」
「下手に出て大人しく待ってればご褒美でもくれるのか?」
「2・3時間ほど大人しくしててくれるならご褒美でもなんでもあげますよ」
「絶対だからな」
そう念押ししてから疲れていたのか執務室に置いていたソファに座り込んでうたた寝を始めてしまった男に薄手のブランケットをかけてから途中で放棄していた書類の作成を再開する。
「疲れているなら家で休んでいればいいものを」
普段から忙しく疲れているのにわざわざこんなところまで会いに来てくれるのは純粋に嬉しい、がやはり身体を気遣う気持ちの方が勝ってしまう。会いに来てほしいけれど無理はしないでほしい、と願うのは贅沢なんだろうか。
言えば言ったでお前に逢えない方が辛いやらお前にあったら疲れなんてふっとんだやらと心配したのが馬鹿らしく思えるほど浮ついた言葉を返されるのは分かりきっている、というか既に過去に経験済みなのでもう言う気もない。
今は早く仕事を終わらせてしまって帰ることを考えた方が良いだろうと作業のペースをあげる。
今日中に終わらせておかなければならない書類が完成したのは2時間ほど後で完成したものをまとめて廊下にいた兵士を捕まえ配達を頼んでおく。
あとは部屋で寝こけている男を起こして帰るだけだがあまりに呑気な寝顔に起こすのを躊躇ってひとまず横に座り込む。顔をのぞき込もうと近づけば此方に向かって倒れ込み人の膝の上で寛ぎだすからもう言葉もない。
「…起こしました?」
「いや、さっきから起きてた。終わったのか」
「えぇ」
眠そうに瞬きを繰り返す男に対する悪戯心が湧き上がる。ご褒美だといってここでキスしたらこの男はどんな顔をするだろうか、驚くかそれとも全てを見透かしたように笑うだろうか。
「ご褒美、ですよ」
「随分と可愛いご褒美だな」
ものは試しと実行に移せば笑って頭を撫でられた。予想外ではあったが子供扱いされているように思えてどうにも気に入らない。
「夕飯はまだだろう、食べに行くか?何なら何か好きなもの作ってやるぞ」
「疲れてるのは貴方でしょう、僕が適当に何か作りますよ」
「主役に料理を作らせてどうするんだ、たまには素直に甘えておけ。食べたい物は?」
「…オムライス」
「了解」
差し出された手を無視して横をすり抜けていく。流石に手を繋いで帰れるほど周りの目に無頓着ではいられないし変な噂がたって困るのは向こうも同じだろう。さすがにこのまま置いては帰れず、床に置き去りにしてあった花束を抱き上げ、行きますよと声をかける。
「ケーキも買って帰るか」
「ホールは勘弁してくださいよ、去年食べきれなくて酷い目にあいましたから」
「知ってる。案外食べられると思ったんだが無理だったな」
「結局僕が殆ど食べたんですから今年はもうやめてくださいよ」
「じゃあ来年こそリベンジしてみるか?」
「お断りします」
「折角だし一緒に薔薇風呂でも入るか」
「後片付けしてくださいよ」
「仰せのままに。そうだ肝心な事を忘れていた」
「何ですか?」
「誕生日おめでとう」
大仰に跪き人の手をとり手の甲に軽くキスを落として上目遣いでにこやかに笑う眼前の男が憎らしい。
「ほんっとに恥ずかしい人ですね」
「なんとでも」
顔が赤くなっているであろう事が自分でも容易に想像できるくらいに顔が熱い。優しく握られた手を引き抜き、赤くなった顔を隠すようにドアの外に逃げ、扉にもたれかかる。周りから不審な目を向けられ慌てて中に向かって何してるんですか、行きますよと声をかければ呆れたように笑って外にでてきて手を握られる。とっさに振り払おうとして失敗した手は行き場を失い捕らえられたままだ。
「誰も見てないから安心しろ」
嘘だ、とは思いつつも言葉にならずにそのまま流されてしまう辺りが僕の弱味なのだろう。いつまでたってもこの人には勝てそうにない。今日だけですからねと悪態をつきながらも握りかえした手は暖かかった。
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