マリヒュ/ヒューバート幼児猫化







家に帰るとそこには子猫が一匹寝ていた。子猫といえば子猫なのだが実際は猫ではなく人型をしているしもともとは子供ではなく少年と青年の間くらいの年のしっかりしているくせにどこかぬけているかわいい恋人だったのだがどこかの悪戯な天才のおふざけで10才そこいらの俺にしか懐かない上に俺のことが大好きな猫耳を生やした子供になってしまった。これはこれで可愛いのだが小さいせいかものすごく我侭で手のかかる子猫には手を焼かされている。
「ほら、玄関で寝るな」
「ん……マリク?」
「ヒューバート、玄関で寝たら駄目だって前にも言っただろう」
「マリクおかえり!ヒューね、ちゃんと待てたよ?」
眠そうに目をこすりながら小首をかしげて褒めてと言わんばかりに目を輝かせているヒューバートには何を言っても通じそうにないので偉かったなと頭を撫でてから抱き上げベットまで連れて行く。いつも遅くなるから待ってないで先にちゃんとベットの中で寝てろと言うのだが全く聞く気がないようで、毎日この寒いのにシャツ一枚で玄関で眠りこけている。どうしたら言うことを聞いてくれるのかさっぱり分からないが頭ごなしに怒ったところで言うことを聞かないことだけは分かっている。一度きつく叱ったがごめんなさいと嫌いにならないでを繰り返しながらずっと泣くものだからこちらが先に折れてしまった。
「ここで待ってられるか?」
ヒューバートをベットの中に入れ、布団をかけてから優しく問いかけるがその返事は期待していたものと正反対の答えだった。
「やだ、マリクと一緒がいい」
今にも寝てしまいそうな顔をしているくせに手はしっかりと俺の上着の裾を握って離そうとしない。さすがに仕事から帰ってきてそのまま寝るわけにもいかないのでせめてシャワーくらい浴びさせてほしいが一度寝付くまで離してもらえそうにないし、このまま寝付かれてもそれはそれで大変そうだ。猫らしいといえば猫らしくシャワーが嫌いになってしまったヒューバートのことだからどうせオレの帰りが遅い今日のような日はシャワーを浴びていないだろうし、今からシャワーついでに一緒にいれるのはそれはそれでアリだろうと抱きかかえ脱衣所まで連れて行く。寝かかっているヒューバートは静かでおとなしいのでやりやすい。嫌がる前に、とさっさと服を脱がせシャワールームへ放りこんだ。続いて中に入り込みシャワーの温度を確かめ、適温になってからヒューバートにお湯をかけていく。ヒューバートはといえば一瞬体を震わせて嫌そうにしていたがすぐに諦めたようでおとなしくされるがままになっている。体中きれいに洗ってやり自分もついでに洗ってからシャワールームを出れば、出るなりヒューバートがマットの上に丸くなり信じられないことに寝息を立て始めた。あまりのことに思わず頼むからやめてくれと本音が零れ落ちるが寝ているヒューバートには届かない。丸くなって寝ているのを座らせ体を拭いて服を着せてからドライヤーで髪を乾かしてやりベットの中に放り込んだ。洗い物だけでも片付けてから寝ようとキッチンを覗けばヒューバートの夕飯にと作っておいたオムライスが出て行ったときのまま残されていた。どうしても空腹に耐えられなかったときには食べているようだが基本的には俺が帰るまでは夕飯を食べることもなくただじっと待っているようだ。本人曰く一人で食べても美味しくないらしい。いつも先に食べてシャワーを浴びて寝ていろと何度も何度も口を酸っぱくして言っているのだが一向に聞いてくれる気配はない。
たまった洗い物を片付け洗濯機も回すか一瞬悩んでから明日はどうせ休みで家にいるのだから明日の朝から洗濯して干せばいいか、と洗濯機をそのままにしてヒューバートが寝息を立てているベットへ向かう。寝る前に連絡が入っていないかだけ確認しておこうとパスカルの印の通信機に手を伸ばせば新着メッセージがきていた。内容を確認してみたがごちゃごちゃといろんなことが書いてあるがつまるところヒューバートを元に戻す薬ができたからパスカルが明日うちを訪ねてくるようだ。明日は休みで家にいるからいいものの俺が仕事で家を開けていたらどうする気だったのかは考えたくないので考えないでおく。
ベットの中で丸くなって寝ているヒューバートの頭を撫でながらもうちょっとちゃんと言うこと聞いてくれさえすればいいのにと思うがないものねだりをしても仕方がない。ベットサイドに腰掛けながらヒューバートの頭を撫でていれば目を覚ましたヒューバートがもぞもぞと起きだしてきて眠そうに目をこすりながら膝の上に頭を乗せた。このままここで寝られては身動きがとれずに朝までじっとしている羽目になりそうだったので慌てて頭をたたきヒューバートを起しにかかる。
「ほらヒューバート、オレも寝るからちょっとそこどいてくれ」
「ん……んん……」
言葉の意味を理解しているかは若干怪しいが返事ともとれる呻き声とともにのそのそと膝の上からヒューバートが撤退したがシャツの端を握り離そうとしない。その手を握りシャツから離してからヒューバートの隣に横になれば横にべったり張りついて足まで絡めてくるのだから本当に卑怯だと思う。なんだこの生殺し状態は。
もともと親と子ほども年齢が離れているのに今のヒューバートの外見年齢を考えれば完全に親子だし恋人ですなんて言おうものなら手が後ろに回るレベルで年が離れている。何を思ってかは知らないが突然何の前触れもなくマリクちゅー!なんて言いながらキスを強請ってくるのだけでも相当肝が冷えているのにこれだけ密着してくるなんて本当に襲ってくれといっているようなものだ。かといってはいそうですかと襲えるはずもないのだが他の、特に女の匂いが移るとヒューバートが嫌がるしヒューの事きらいになったの?と言いながら泣くのでどうしようもない。当の本人はというとそんなことを思われてるとは全く思っていない様子ですやすやと寝息を立てている。連日の気苦労で痛い頭を押さえながらおやすみと呟やき、その安らかな寝顔にキスを落として目を閉じ、睡魔に身をゆだねた。


上から何か重石を乗せられているように寝苦しい。それに若干ではあるがゆすぶられているような気もする。不審に思い少し目を開けてみればどうりで重いわけだと言いたくなった。
「ヒューバート、そこから降りてくれ。重い」
「まりく朝なのに起きなくていいの?」
「ああ、今日は仕事はお休みだ」
「ほんとに?」
「ああ」
昨日帰ってから言うつもりだったのだがヒューバートがあまりにも眠そうだった、というか8割がた寝ていたので結局言っていなかったことを思い出すがそれはさすがに不可抗力というものだろう。現にヒューバートは今昨晩のうちに今日が休みだと言われなかったことなんて気にしていないようだし今のヒューバートにはそんなことよりも今日は俺が一日家にいることの方が大切なようでいつもより三割増くらいでニコニコしている。
そんな上機嫌なヒューバートの事よりも今は話をする前は馬乗りになっていたヒューバートが今日の俺の休みを聞いて人の上で寝転び、あまつさえ寝ようとしていることの方が問題だ。
「ほらヒューバート起きるぞ」
「マリクがお休みならもうちょっとねる」
「寝ててもいいからそこをどいてくれ」
本格的に寝息を立て始める前にヒューバートを起こしてベットから抜け出すことにする。そうしておかないと後で動けなくなることはわかりきっている。服を引っ張りながらうーと唸って暗にベットに戻って一緒に寝ようと嬉しいお誘いをかけるヒューバートを無視して昨晩放置した洗濯物の方に向かう。せっかくの休みに朝からヒューバートと二度寝を決め込むのも悪くはない、というかそちらの方が格段に幸せなのはわかっているが片付けておかないといけないことを先にやっておきたい。
洗濯機を回している間にヒューバートの朝食を作り、嫌だと言いながらも食べさせればちゃんと食べるヒューバートに朝食を取らせる。ついでに自分の分も食べてしまい足元にまとわりつくヒューバートを踏まないように気をつけながら洗い物を片付ける。洗濯が終わった頃を見計らい洗濯機の元へ向かおうとするがヒューバートが足元でうろうろしながらずっとこちらを見ているのでとうとう根負けして抱き上げる。
「どうかしたのか?」
「おうちにいるときはヒューのことかまってくれなきゃめーなの」
「じゃあ一緒にやるか?」
「うん!」
何をやるのかも聞かずに笑顔で肯定を返すヒューバートに少し頭が痛くなるが俺以外にはこんな反応を返さないのは分かっているので特に心配はしない、というかまず基本的にこのうちには誰も来ない上にヒューバート自身に外に出る気がなく、ついでにいえばヒューバートが外出を拒んだのでそもそもちょうどいいサイズの靴すらない。シェリアを筆頭に女性陣に対しては恐怖心を抱いているのはまあ小さくなってすぐにかわいいからと好き放題されていたからだろうが、アスベルのことを怖がったのは意外だった。なんでも本人曰く兄さんはこんなに大きくないから知らない人、らしい。嬉しくないといえば嘘になるが正直これほどまでに懐かれると思っていなかったので最初は喜びよりも驚きの方が勝っていたが数日たって現状に慣れてしまった今では元に戻って欲しいという気持ちが一番強い。確かに今の小さくて無邪気で素直すぎるほどに素直なヒューバートも可愛いのは可愛いのだが俺が好きになったのは大人びてはいるがまだ子供で素直じゃないところがまた可愛い17歳の少しひねくれているヒューバートだ。どちらもヒューバートには違いないがどちらかといえば後者が好きなのは変えようのない事実だ。
「たまにはこれくらい素直になってくれてもいいんだがな」
ヒューバートに、正しくはこうなる前のヒューバートに向けた言葉の意味がよくわからなかったようで首をかしげて一人で難しい顔をしだしたヒューバートの頭をなんでもないからそんな顔するなと言いながら撫でてやればよく分からないなりに答えを出したようでいつもの無邪気な笑顔に戻った。
「一緒に洗濯干しに行こうな」
「うん」
「その後で人が尋ねてくるからちゃんと着替えるんだぞ」
「やだ」
「ヒューバート」
「やだ。誰も来なくていいから着替えなくていい!」
「勘弁してくれ……」
どうせ一週間そこらで戻るとはいえちょうどいいサイズの服がなくては困るだろうとヒューバートが小さいときに着ていた服を借りてきたのはいいが肝心の本人がその服を着ようとせず、俺のシャツを着ては裾を引きずって歩き回ってくれるおかげでいくつかもう着れそうにないものもある。尋ねてくるような人もないし本人がしたいならと放置していたがいくらなんでもパスカルが来るのにそのまま放っておくわけにもいかない。来るのがパスカルだけならいいのだが小さくなったヒューバートを懐かしさ半分、可愛さ半分で気に入ってるシェリアが来ればすぐに俺とヒューバートの関係が露呈してしまいそうだ。年頃の女性らしく人の恋話が大好きなシェリアなら感づきかねない。
ひとまず洗濯物を片付けなければと低い位置に干せるものをヒューバートに任せて高い所から順に干していく。もともと量があったわけでもないのですぐに終わり後はヒューバートの説得だけだ。とはいえこれが最も骨の折れる作業には違いない。何せ小さくなったヒューバートには理屈が通じない為上手く丸め込むのが難しいし正直すぎるくらいに自分の気持ちに正直だ。
「ヒューバート」
「やだ」
「まだ何も言っていないだろう」
「でもやなの」
洗濯物を干している間に少しくらい機嫌が直らないかと思っていたがそう上手くはいかないようでただでさえナナメだった機嫌がどん底状態にまで落ち込んでしまっている。
「じゃあこうしないか、何でもお願いを聞いてやるからちゃんと言う事を聞く。どうだ?」
「誰も来ないなら着替える」
「それ以外でだ」
「やだ」
「ヒューバート頼む」
「やだ!」
完全にそっぽを向いていじけだしたヒューバートを見て脳裏に諦めいう単語が浮かぶ。こうなればてこでも着替えようとしないだろうし無理に着替えさせて脱がれるよりは何かしら服を着ていたほうがまだマシだ。それに俺としては別にヒューバートが恋人だということが誰にバレたところで構わない。せいぜい元に戻ったヒューバートに怒られる程度だ。
「分かった、じゃあもう着替えなくてもいいから機嫌を直してくれ」
取り付く暇もないくらいにツンとあらぬ方向を向いているヒューバートに顔を寄せ俺が悪かったと呟きながら頬になるべく優しく、一度だけではなく何度もキスをする。こうすれば成長してしていようがしてなかろうがヒューバートが機嫌をなおしてくれる事は身をもって体験済みだ。少し待っていれば機嫌をなおしたヒューバートが笑顔で抱きついてくる。ヒューバートの機嫌がなおったのを確認してこれで一安心と一息つけば来客を知らせるチャイムが鳴った。せっかく機嫌をなおしたヒューバートの機嫌がまた急降下し始めたのを見逃さず、すかさずキスでごまかしてからドアを開けに行く。努力虚しくヒューバートの機嫌はなおらなかったようで部屋の奥の方に向かって走っていってしまうのが見えたがどこへ行こうとこの部屋から消えることができないのはわかっているのでひとまず放っておいてドアを開けた。
「やっほー、教官元気してた?あのねー、ちゃんと弟くん戻せる薬作ってきたよー!しつれいしまーす!!」
ドアを開ければいきなりパスカルが家に上がりこみ靴を脱ぎ始めた。元々上がってもらうつもりだったから構わないがこんな人種も珍しい。幸いなことに悪い予感が外れてシェリアは来ていないようだ。
「あれ、弟くんは?」
「どこかにはいるだろう」
「見えるところにはいないねー」
どこかに隠れたヒューバートに出てくる気はないらしくパスカルの捜索は空振りに終わっているようだ。いないなーと言いながらどう考えても人が入れない大きさのゴミ箱を覗き込んでいる辺り本気で探しているのか怪しいものではあるが本人は真面目に探しているのだろう。コーヒーメーカーからマグカップにコーヒーをうつし、砂糖をミルクを添えて机に置いてからパスカルに声をかけ捜索を変わった。あんな探し方では見つかるものも見つからないし見つかったとしても話も聞かずに逃げられるのがオチだろう。隠れられそうな場所がほとんどないリビングを抜けて寝室に入れば驚く程早くヒューバートは見つかった。ベットの中で丸くなっているヒューバートにため息をつき、仕方ないなとつぶやきながら同じベットの中に潜り込む。
「もう知らない人帰ったの?」
「まだだ、そんなに嫌なのか?」
「やだ」
「どうして?」
「だって知らない人だもん」
「パスカルは知らない人じゃないだろう?」
「知らない。知らない人は怖いの」
「大丈夫だ、パスカルは怖くないし俺がちゃんと傍にいて何かあったら守ってやるから、な?」
「絶対?」
「ああ、絶対だ。だから一緒に行こうな」
「…うん」
なんとか話がついたところでヒューバートを話し合いの場に付かせるために寝室から運び出す。薬だけ預かって飲ませてもいいのだが元々失敗でこうなったのだから次にちゃんと戻れる保証はないわけだしもし戻れなければ俺ではどうしようもできないからまたパスカルに頼るしかない。そもそもこうなった時も、あたしは生物系苦手なんだよねーなんて言っていたくらいだから戻れるかどうか果てしなく怪しいが今度はフーリエに手伝ってもらうと言っていたから大丈夫だと思いたい。
ヒューバートをソファに降ろし横に腰掛ければヒューバートが膝の上に乗りしがみついてきた。流石にここまでやられるといくら鈍いパスカルでも気付きかねないのでおろしたいがさっき傍にいると言った手前無下にもできない。
「弟くんと教官仲良しだねー、もう元に戻らなくてもいいんじゃない?」
「元に戻った方がいいに決まっているだろう。それで薬は?」
「はいはーい、コレだよー!次こそは成功してると思うんだけどね」
「ちなみに失敗したらどうなるんだ?」
「それが分かってたら失敗じゃないよー」
不服そうに口をすぼめるパスカルは放っておいて嫌がるヒューバートに受け取ったばかりに薬を飲ませて経過を見守るがこれといった変化は見られない。
「これは失敗じゃないのか?」
「うーん、失敗にしても何か変化はあるはずなんだけどなー」
二人で頭を悩ませていれば膝の上に乗っているヒューバートがだんだん重くなっていく。単に時間が経って重くなってきただけかと思っていたがそれだけでは説明できないほど重くなってきているしよく見れば成長してきている。
久しぶりに17才になったヒューバートをお目にかかり思わず抱きしめればヒューバートは腕の中でもぞもぞと暴れた。実際小さくなっていたのは一週間程度だったがもっと長く感じていただけに大きすぎず小さすぎないこのサイズが懐かしい。
「ちょっとマリクさん、何してるんですか!」
「弟くんが戻ったー!どこも異常ない?」
「ありませんけど……ってパスカルさん!?」
ヒューバートだけがこの状況についていけていないようで一人で慌てふためいている。そんな姿もまた可愛いのだが今この場で口にすれば暴言だけでなく暴力に訴えられそうなのでやめておく。今更ながらヒューバートに無理に服を着せなくてよかった、着替えさせていたら服が破けて目も当てられない状態になっていたのだろう。シャツ1枚という今の所謂彼シャツ状態の方がサイズこそあっていないが服として機能しているだけマシに違いない。しかしこのままでいられると主に俺の、目の毒なので寝室からブランケットを取ってきて肩からかけてやればヒューバートは自分の今の服装に気づいたようで顔を真っ赤にしながら慌ててブランケットを巻きつけている。本当に見ていて飽きないやつだ。
「そうだ、こうすれば良かったんだ!!ていうことはあれをああやれば…ありがとう、弟くん!」
何か本人にしかわからない”良いこと”を思いついたらしくパスカルは慌ただしく帰っていってしまう。もう少しゆっくりしていけと言う間もないくらいすばやく帰っていく姿に呆れないわけでもないが本人にとってはそれくらいいい事を思いついたのだろう。
「ヒューバート、何はともあれ戻ってよかった」
「……忘れてください」
「ん?」
「だから……その……小さくなってた間のことは忘れてください」
「むしろ覚えてるのか?」
「覚えて……ますけど忘れるんで忘れてください」
「そうだな、お前が戻る前みたいに素直になってくれれば忘れられるかもな」
「……もう知りません!」
そっぽを向いてしまったヒューバートを見ながらつい顔が綻ぶのを感じる。いつものヒューバートに戻ってからもしばらくはこのネタでからかえば慌てふためくヒューバートの姿が見られることだろう。まだまだ面白い日々が続きそうだ。

















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