ピオジェ+ガイ
愛してる・その一言が言えないで、閉ざす口から出るは溜め息
【ドア越しの密室】
かちゃ、と軽く音を立てると扉が開いた。
何もない、というには物がありすぎるが物がある、というには物がなさすぎる部屋。
そのちょうど中心。
横たわる彼の瞼は開いているが瞳は閉じ切っている。
世にも珍しい紅い宝玉からただのガラス玉へと姿を変えた彼の瞳が見つめるのは虚空かそれとも遠き日の面影か。
あるいはそれすら含めて何一つ見出だせないでいるのか・だ。
時折思い出したかのように行なう瞬きすらも脆く、触れてしまえば容易く崩れ去るのだろうか。
物音に反応したのか彼がゆっくりとこちらに寝返りを打った。
なぜだか声を出す事さえためらわれ口唇を堅く閉ざす。
彼の口が動く。
が喉からあふれる言葉を無くしまた閉じて。
真っ白な部屋に同化してしまいそうな肌色は焼けず、さらに白さを増し、触れるだけで崩れてしまいそうな華奢で細い体は物を食べなくなり、ますますやせ細って行く。
見ているこちらが痛々しく感じるほどに彼からは生気というものが感じ取れない。
まるですべてが『どうでもいい』といったふうな。
本当に小さな声で彼が言葉を洩らした。
「ガイ、何か用ですか?」
思いがけない言葉に少し慌てるがすぐに脳を落ち着け言葉を紡ぐ。
「ピオニー陛下から『部屋に来い』って伝言を受けて来たんだよ。」
「ああ、そんなことですか。わかりました。」
死んでいる・とさえ思えるほどにぐったりと横たわっていた彼がむくりと気怠げに起き上がるがその瞳には先ほどはなかった感情だとか生気が宿っているふうに見えた。(やはり俺ではだめなのか、なんてもどかしい!)
そのままに部屋を出て行こうとしている彼はぺたぺたと音を立てていた。
ふと足下を見やると真っ白な足が見える。彼らしいといえば彼らしく綺麗に切り揃えられた爪にすら嫉妬を抱く。(なんて馬鹿げた考えなんだ、死んでしまえ)
「旦那、足。」
呼び掛けるとこれもまたひどく気怠げに自らの足下をちら・と見やりあぁ、と感嘆にも似た溜め息を漏らした。
「ブーツどこにやったか知りませんか?」
「ベットの下からはみ出てる。」
ニヤリと笑うとそれに比例して不機嫌そうに歪んでゆく彼の顔。
綺麗なものほど壊してしまいたくなるというのだからけしてそんな顔をしてはいけない。
「もう、いいです。」
どこか呆れたようなその言葉に違和感を感じ様子を見ていると彼はどうでもよさげにまたぺたぺたと音を立てながら歩きだした。
ぺた、という音と共に近付いて行く彼との距離。
はぁ、と自然とでる溜め息にしては幾分か大きいそれをゆっくりと吐き出して無理やりに彼の手を引き、ベットに押し倒すようにし体制を崩した。
「履かせるからちょっと待て、裸足で歩かせたりしたら陛下に殺される。」
不自然と言われてしまえばそれまでの言い訳を口にしながらまるで壊れ物を扱うかのように彼の真っ白な足に触れる。
手探りにブーツを手に取りそっと履かせていく。
特に何でもないはずのその行為がどうしてかひどく神聖なもののように思えおもわず息を飲む。
真っ白な足が青に包まれていく。完全に青に包まれたその足をそっとベットの上に横たえ、反対の足も同じように青で包む。
両の足を青で包み終わればもう用はなくなった・とばかりに席を立ち扉に向かう彼を目で追い、そのあとをついて行く。(これではまるでまるっきり犬のようではないか)
かつかつと音を鳴らしながら迷いなど微塵も見せずに真っ直ぐ陛下の私室へと歩を進める彼の姿を後ろから眺めるば頭に浮かぶのは彼を止める方法。
後ろから急に首を絞めてみようか、彼はどれだけ驚いてくれるだろうか?あるいはまるで生まれる前から知っていた事のようにいとも容易く拘束を解いてしまうのか。
くだらなさすぎる思考に終止符をうち、彼の後ろ姿を追う。気がつけばもうすでに陛下の私室の手前についていて。
「失礼します、」形式だけのノックと共に彼が部屋へと吸い込まれて行く。慌てて彼の跡を追い、飛びいるように部屋の中へと足を踏み入れる。
「陛下、何の用ですか?」
変に透き通る彼の声が鼓膜を満たして行く。
「用がなければ呼んではいけないのか?それにどうせ暇だったんだろう。」
嫌に見てもいない事実を淡々と述べ、その上で彼をよんだこの国の王を実に自分勝手な理由で疎みさえした。
「ああ、ガイラルディア。まだいたのか?」
クスリと笑みを洩らすようにしながら問う王の言葉に自分への当てつけが含まれているようにも感じる。
「失礼しました。」
小さく礼をしながら後ろ手にドアを開け、部屋を後にする。
「ジェイド、好きだ。」
言葉は誰にも届きはしなかった。
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