ピオジェ








悪魔の甘言に耳を傾けてはいけない。
それは君に取っても僕にとってもどこまでも甘い蜜のように滑らかだが口にしたとたんに苦い毒虫へと姿を変える。



【うるさい(おまえのやさしさなど)】



目の前の皿に盛られたサラダを手にしたフォークで一思いに刺し切り無関心に口に運ぶ。
少しだけつん・と鼻を衝く刺激臭に見て見ぬふりを決め込み刺したレタスを口の中で噛み切れば淡い刺激が広がる。
「そんなもん食ってうまいのか?」
怪訝そうな顔つきでこちらの様子を伺う瞳に蒼天を宿した男。
「放って置いて下さい。それにそれなら普通のサラダはおいしいんですか?」
「少なくとも毒入りのドレッシングがかかったのよりはマシだと思うぞ。」
「はいはい、わかりましたから食事ぐらい好きなものを食べさせて下さい。」
と、またサラダに手を伸ばす。
前の男の様子を覗くと浮かんでいる表情は曇って。
「お前は可愛げがないな、人が折角こうして昼食に誘ってやったと言うのに。」
「誘われた覚えもありませんし私なんかを昼食に誘うのではなくて未来のお妃様でも誘ったらどうですか?」
「お前のその口は本当に可愛げのない事しか吐かないな、少しは嬉しがって見せたらどうだ?」
「きゃージェイド嬉しい!」
「悪かった、激しくキモいからやめてくれ。」
ゲンナリした顔ではあるか先ほどの曇った表情よりかは幾分かましでどこか安堵を覚えた。
「おや、失礼な方ですねぇ。自らやれ・と言っておきながら。」
「五月蠅いな、」
はいはい・と適当に相槌を打ってはまた口に運ぶサラダの破片。
口の中で跳ね回る刺激は相も変わらない。
とたん真っ白なテーブルクロスにひどくそぐわない褐色の肌。
「陛下?」
呼び掛けに帰るは空白。
男によく馴染んだ褐色の肌の先の尖ったフォークがサラダを啄んでは離れていく。
「陛下!」
制止の声を聞かずに男はすでに細かなレタスをガリ・噛んだ。
と思えば眉間に刻まれる皺は深く、深く。
「お前これ耐毒用にしちゃ強すぎるだろう。」
重たく部屋にはいだした言葉はひどく美しくて。
「これぐらいがちょうどいいんですよ」
にこりと笑ってみせればさらに怪訝そうな顔に。
「馬鹿だな。」
「馬鹿で結構です。」
「なら俺も馬鹿で結構だ。」
悪戯が成功した幼い子供によく類似した男の怪しげな笑み。
(……この顔は嫌いだ。瞳を通してすべてを見透かされているような気がする。)
「あなたは本当に変わりませんね。」
「お前は変わったな。」
べったりと顔に張り付いて離れない笑顔(それは一般的に所謂作り笑い・などと呼ばれるものだ。)をあらわせば男は表情を閉ざした。


















.