ミナ山/第三者視点/山田さん出てきませんがモブ女が出てきます









「鷹梁くん、あの、これ、調理実習で作ったの、それで、鷹梁くんみたいに上手に出来なかったんだけど、良かったら、その、食べてほしいなって」
大きな手のひらが伸びてきて、差し出したクッキー入りの袋は想い人の手の中に収まった。今は隣のクラスで去年は同じクラスだった、大好きな鷹梁くんの手の中に収まって大人しくしているクッキーになりたいとさえ思う。
本当は、今まで作った何よりも美味しく上手に出来た。でもきっと鷹梁くんは当たり前みたいな顔をして、もっと綺麗で手の込んだクッキーを作るんだろう。
「ありがとう」
「あ、の……話が、あって、その」
「どうしたの?」
「えっと、その……あのね、あの、えっと……」
好き、の一言が口から出てこない。口の中が乾いて張り付く。自分が自分じゃないみたいだ、クッキーも渡せた、受け取ってもらえた、あとは好きですと伝えるだけなのに言葉が出てこない。
喉の奥に張り付いて離れようとしない言葉をなんとかひねり出そうとしても、口をついてでてくるのは意味のない言葉ばかりで嫌になる。好きですなんてたった4文字だ、何なら2文字でも良い。きっと伝わる。もうすぐやってくる休み時間の終りを知らせるチャイムが鳴って、目の前でニコニコと笑っていた鷹梁くんが困ったように笑った。もう教室に戻らないと、分かってる。だから、今言わないといけない。
「あの、す、きです……」
「ごめんね、僕好きな人がいて、だから君の気持ちには応えられない」
知っていた。鷹梁くんには年上の恋人がいて、その年上の恋人と上手くいっていて、だから好きだと言ったところで何がどうなるわけではないと、わかっていた。
「そ、の、好きな人と……付き合って、るんだよね」
「うん」
また困ったように笑う鷹梁くんの顔はとても綺麗で、その顔は私に向けられたものでない事に心臓が悲鳴を上げる。
なんで私じゃダメなんだろう、なんで私じゃなかったんだろう、なんで、なんで私は選ばれなかった。
「その人、どんな人なの?」
「すごく綺麗で強くて弱くて可愛くて、白が良く似合う人だよ」
柔なそうな髪がそよ風に揺れる。髪を揺らす風にすら嫉妬する私は、鷹梁くんの笑顔に殺される。
だってそんな笑顔、見たことがない。小学校からずっと同じ学校にいたのに、何度も同じクラスだったのに、プリズムショーだって何度も見た、鷹梁くんの癖だって知ってる、でもこれは、この顔は、知らない顔だ。
私の方がきっとずっと前から知っていて、ずっと前から好きだったのに、遅すぎた、或いは早すぎたのかもしれない。
「ご、めん、こんなつもりじゃ、なかったのに、……気に、しないで、次、移動教室だよね、先、教室戻ってもらえたら、嬉しいかも、ごめん」
涙が勝手に溢れて視界を曇らせる。困らせようとは思っていなかった、付き合ってる人がいるの知ってたよって、でも好きな事を伝えておきたかっただけだからって、たまたまとはいえ折角ずっと同じ学校なんだから恋愛とか抜きにして今まで通りに接してよって、笑い飛ばそうと思っていたのに、何一つ出来なかった。
口を開こうとして口を閉ざした鷹梁くんが私のお願い通りに教室の方向に帰っていく。今の恋人と別れてほしいと言えば、鷹梁くんはどうするんだろうかと少しだけ悩んで、すぐに考えを打ち消した。私が好きになった鷹梁くんは、人に頼まれたくらいで好きな人を諦めたりはしない。
「私、鷹梁くんの事好きだし、諦めないから!」
泣きながら叫んだ声は鷹梁くんにもちゃんと届いていたようで、こちらを振り返った鷹梁くんが笑顔を向けてくれる。ああ、やっぱり、鷹梁くんが好きだ。
鷹梁くんの姿が見えなくなるまで背中を見送ってから、その場に蹲って溢れ出る涙を制服のスカートに押し付けた。
茹だるような暑さの中で、蝉の声だけがやけに大きく響いていた。




















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