ミナ山









ホースの先から溢れる水を、ミナトに聞いた通りに葉や茎にもまんべんなくかかるようにかけて土に水を染みこませていく。ちょうど一年前に一緒に植えたハーブは枯れるわけでも大きくなりすぎるわけでもなく、順調に育っている、ような気がする。
後ろから聞こえてくる足音に耳を澄ませながら、誰が何の用事を引っさげてやってきたものかとクイズに答えるような気持ちで考えながらも、水があふれてくるホースの先は何も植えていないただの土へと向ける。
この時間に寮にいる中でゆっくりと歩いてくるのはミナトだろうし、夕飯の話か買い出しの話かもしれない、と後ろを振り返ってみれば想像通りの人物がそこにいた。
爽やかな半袖のシャツから逞しい腕をむき出しにしたミナトに、出来心でホースから溢れる水を少しだけ手のひらにうつして、投げつけてみる。
「ていっ」
「わっ、どうしたんですか急に」
「ミナトに意地悪してやろうと思って」
ニヤリと笑えば、呆れたような、困ったような顔でミナトも笑う。
「じゃあお返しです」
ミナトに攫われたホースから溢れる水が、ミナトの手の中に溜められて少しずつ投げつけられる。
「冷たっ」
どうせ作業着なんだしホースから直接水をかければいいのに、と思いながらもそうしないミナトの優しさを感じながら、ホースに手を伸ばし水の出口を塞ぐ。
すぐに決壊して指の先から勢いよく溢れる水は、ホースを掴んでいるふたりに平等に降り注ぎ、ミナトのシャツもさっきまで乾いていた作業着替わりのツナギも、絞れるくらいに水に濡れ、肌にぴったりと張り付いた。
「……ちょっと早いけど風呂、入るか」
「そう、ですね」
シャツの下に透ける健康的な身体に触りたさ半分、羨ましさ半分でそっと触れてみれば、どうかしましたか?と声が聞こえる。その声を無視してシャツのボタンを下から順番に外していけば腕を掴まれて、強制的に動きは止められた。
「山田さん?」
「いつも見てても濡れたシャツ越しだとエロさ5割増しに見えるな」
「なんの話ですか!?」
「えっちな話?」
どうせ掃除をするのは自分だし、服や髪から水が落ちたとしても目立つ部分だけ後で拭いておけばいいか、とさして気にすることもなく濡れた服のままで寮の中を歩きながら、どうしてミナトがやってきたのか聞くのを忘れていたのを思い出す。
「そういえば何の用だったんだ?」
「用事、ですか?強いていうなら山田さんの顔が見たかった……くらいですね」
「そ、れは……」
小さな声で狡いだろ、と続けたがミナトには聞こえなかったようで聞こえませんでした、と申し訳なさそうな顔をしながらほんの少し屈んて視線を合わせてくるのに少しだけ腹が立つ。
「風呂場まで競争な、遅かった方は水も滴るいい男の刑!」
パン、と音がなる勢いでミナトの背中を叩いて、スタートダッシュを決める。全盛期に比べれば体力は落ちているだろうが、風呂場までの短距離くらいなら負ける気はしない。後ろで水も滴るいい男の刑って何ですか?と叫びながら走ってついてくるミナトに笑い声だけを返して風呂場までの短い道を駆け抜けた。


















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