死柄木
英雄



 聴覚がいかれそうなほどの轟音が鳴り響く。パラパラと降ってくる砂。息が触れそうなくらいの距離に死柄木の顔。その向こうに崩れる瓦礫が見える。
「――……なんで」
 降ってる砂に混じった血が頬を伝って落ちる感触に、信じられない気持ちが膨らんでいく。
「さあ……分からねえ」
 余裕のないいびつな笑い。
 庇って浴びた瓦礫に抉られた傷から止めどなく血が流れて地面を染めてしまっている。
 こんな、……こんなに流れたら、死んでしまう。
 触れようと手を伸ばして、しかしその腕を押さえつけられた。
「もう、いい。もういいよ」
 深く刻まれた眉間のシワを汗が伝い落ちて血に混じる。ふっと両目の力が緩んで、なんだか既視感のある笑みに変わった。
「お前を救けて、死ぬ。最期は……救けて死ぬ」
 まるで、ヒーローのように強がった、優しい笑みを浮かべて頬を撫でる。ヒーローにでもなったつもりなのか。
「……冗談じゃない」
 押さえつける手を弾き、両手にありったけの力を込めた。
create 2018/09/25