八百万
表情



 日頃のクラスメイト達から可愛い可愛いと言われている彼が、ふと、男らしい表情を見せるのを八百万は知っている。
 神野の悪夢に繋がるヴィラン襲撃に遭った森の中で耳郎を抱えながら八百万へと指示を出したときの、機転と行動力、気を張り詰めた表情が頭から離れない。
 切島達から奪還に向かいたいから力を貸して欲しい、受信デバイスを作って欲しいと言われたときにすぐに断れなかったのは囚われた者の一人が彼だったからかもしれない。
 結果的にはオールマイトが彼を連れ戻してくれたのだと相澤から聞いた。
 救出しに行った五人からすると、他のクラスメイトを巻き込んで除籍処分となりうる行為を犯したにも関わらず、彼を救い出せなかったという苦々しい結果だ。判断が足りなかった。
 顔を合わせるたびに表情を曇らせる八百万に彼は何ともないと笑ってみせる。
「次、がんばろう」
 後ろ向きになりがちな八百万の思考を前に引っ張る。
 こんなに意欲的な人だっただろうか。
 いつも通りの笑みのはずのその瞳の中にゆらりと揺れる強い炎が見える気がする。
「プルスウルトラ、でしょ?」
 ぎゅっと拳を握って目を細める。八百万が見た炎が瞼に消えて分からなくなった。でも、ふにゃりとした笑みがこれまた別方向で硬くなった心をほぐしてくれるから、つられるように笑ってしまう。
「次は守ってみせますわ」
「え? ……え、俺が守られるの?」
 次と言うからには今度は連れ去られるような失態を犯しはしない。今度こそ正しい判断をしてみせる。
 息巻く八百万に彼は目を丸くした。
「俺にも守らせてよ、百ちゃん」
 当たり前でしょ、とばかり言ってまた目を細める。
 そう、こういうところだ。
 みんなは知っているのだろうか。
 カアアッと熱くなった頬を慌てて手で抑えた。
create 2018/09/25