上鳴
夕立



 課題の提出期限を過ぎて居残りさせられた放課後。人気がなくなってやけに音が響く昇降口にポツンと人影がひとつ。
「忘れ物しちゃってさ」
 問いかける前に上鳴が苦笑い混じりに言って、忌々しげに屋根の先に一瞥を投げた。この季節特有の強い雨が上鳴のため息を掻き消す。
「一緒に帰る?」
 自分なら一瞬で帰れると暗に含んで問いかけると、上鳴の表情がより一層複雑そうになって言い淀む。
「あー……うん、んー……」
 眉尻が垂れ下がってまた屋根の先をチラッと見てから、首を傾ける。
「雨宿りも悪くないなぁって"今"おもったところだからさ。……もうちょいここにいない?」
 ほんの少し、雨音が遠ざかった気がした。
create 2018/09/25