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01本編の『余燼』の後、もし夢主がヴィラン連合の手に堕ちていたらというお話を書きました。かっこいい死柄木はいません。
本編の設定を使用していますが切り離してお読みください。
世間を騒がせてやまない神野の悪夢は、ヴィラン連合にとっても悪夢だった。
計画は最悪な形で破られ、手ゴマである多くの脳無を失ったばかりか、師事していたオールフォーワンまでも失った。
手柄といえばオールマイトの引退。
戦利品といえば、今目の前に座っている西岐れぇ、彼が唯一だ。
彼はオールフォーワンが倒された直後、血まみれの姿で死柄木の傍に現れた。両腕に多大な傷を負い青白い顔をしていたものだから死んでしまうのではないかと思ったが、ヴィラン連合の連中が慌てふためく中でみるみるうちに回復し、むしろ他の者のダメージまでも回復して回った。
バーで最後に見た時と違って西岐の顔に表情はなく口をきく気配はなかったが、コロコロ変化する顔にも喧しい口にも関心などなく、ただこの目がそばにあれば他はどうでもいい。自分の手から逃れないならいいと、そう思っていた。
あれから数日。
どういうわけか西岐は荼毘にだけ反応を見せるようになった。
室内を歩く荼毘の後ろをついて回り、荼毘が外出して帰ってくれば足音を聞いて扉の前で待ち受ける。
「……どういうことだ、おい」
買い物袋をぶら下げた荼毘にべっとり貼りついた西岐の姿に、自然と死柄木の目つきが悪くなり声も低く淀む。
「西岐、少し待て」
西岐を振り払いソファーに向かう荼毘もなんだかんだ悪い気がしていないのか、幾らか当たりが柔らかい。
なにせ買い物袋の中身は野菜スティックやら甘い菓子やら、ほとんどが西岐の餌だ。早速袋から取り出して隣に座った西岐の口元に野菜スティックを差し出して食べさせている。
自分本位な上、自分のことで手いっぱいの連中の中で荼毘は割と面倒見のいい方だったらしい。
「無駄に甲斐甲斐しい……鬱陶しい……」
荼毘の手からものを食べている絵面にイラつく。
「餌付けは手なづける基本だろ」
呆れたような冷ややかな眼差しが荼毘から返ってくる。
その眼は腹立つが、餌付けという単語になるほどと考えを改める気になった。無表情だがぽりぽりと咀嚼しているということは好物なのだろう。その様は小動物のようで悪くない。
「けど、なんで野菜スティックだ?」
「単純にそれが一番食いつきよかったんだよ」
「マジで小動物かよ」
改めて西岐の目を覗き込みながら野菜スティックを一本摘まんで差し出してみる。しかし西岐はチラッと手元を見ただけで逃げるように荼毘に貼りつく。
「……話が違うじゃないか」
「そんなすぐに懐くわけないだろ」
ソファーの背もたれと荼毘の隙間に挟まって身を隠す西岐に瞬間的な苛立ちが露わになった。
逃げるということは無表情でも感情はあるのか。その感情はどうして荼毘を選ぶのか。考えれば考えるほど感情が高ぶって落ち着かなくなる。
「死柄木、イライラするな、そういうのを怖がって余計逃げる」
感情を内側に抑えることが不得手な死柄木に荼毘が非難を向け西岐を庇う。
いちいち感情を逆撫でしてくる。
「……面倒だ……もういい」
死柄木の苛立ちは頂点に達し、狂気に満ちた目が僅かに見えている西岐を見据える。摘まんでいた野菜スティックをポイっと放り投げ、代わりに西岐の腕を掴む。軽い身体がやすやすと引き寄せられ死柄木の腕に収まると、抱きかかえた状態で別の椅子へ移動した。
多少の抵抗はあったが無理に押さえ込んでいると次第におとなしくなっていく。
「結局力業か」
西岐を手元に奪い返したからか荼毘の声は悔し紛れにしか聞こえない。
力業だって大事な躾だ。野生の動物はたいてい力関係を真っ先に叩き込まれるじゃないか。そう頭の中で反論しながら、腕に抱いた西岐の感触を味わう。
振り返った無味乾燥な瞳に死柄木の顔が反射して、ぞくぞくする。
「……おいしそうだなあ」
なだらかなカーブを描く柔らかそうな頬。
本能に逆らうことなく噛みついた。
跳ね上がった体を腕に閉じ込めて歯を立てた箇所にゆっくり舌を這わせる。
眩暈がしそうなほどの美味。吸い付くような肌の感触が堪らない。
だが、それも束の間、次の瞬間には小さな火花が散り死柄木は身体を動かせなくなっていた。西岐の抑制を食らったのだと分かった時にはもう腕の中から消えていて、ソファーの上でまた荼毘にしがみついている。
一瞬で起きた出来事に死柄木の身体がわなわなと震える。
「嫌われてやがる、ざまあみろ」
勝ち誇った荼毘の声が耳に滑り込むのと同時に、戦いの火蓋が切られるのだった。
create 2017/12/13
update 2017/12/13