相澤
トムキャット年齢制限のある作品です。
猫の日にちなんだお話。
同棲している設定。
短いです。
本編の設定を使用していますが切り離してお読みください。
ガタンッと物音がして、相澤はキーボードを叩いていた手を止めた。小テストの問題文が映し出されていたモニターを切り立ち上がる。時計を見ればもう夜の十一時になろうとしている。仕事に没頭して時間を忘れていたが、今日は随分遅いお帰りだ。
部屋とリビングを繋ぐ扉をくぐる。目が明るい部屋に慣れていたせいで真っ暗なリビングの物の輪郭さえ捉えられずにいるが、しばらく目をしかめて音の出所を探っていれば、廊下に続く扉が半開きになっていてそれがギッと軋むのが分かった。さらに良く見ると廊下に蹲って揺れている人影。
「……おい」
何かあったのではと焦りが湧いて足早にリビングを横切り壁のスイッチに手をかけた。
パッと灯るリビングの明かり。
扉のノブに片手を引っ掛けて床に崩れている西岐が重たげに顔を上げる。
「ただいまああ」
呂律の回っていないその声を聞いて相澤の心配が呆れに変わる。
赤くなっている顔、鼻を掠めるアルコールの匂い。
「……酔っ払いか」
相澤の呆れた声に西岐はコクンと頷く。仕事明けに誰かの事務所で飲んでいたのかヒーロースーツのままだ。廊下で力尽きるほど飲むのは珍しい。余程いいことがあったのだろう。
「しょーたさん、抱っこ」
「はいはい」
床にへばりついて寝てしまいかねない西岐の身体をひょいと持ち上げる。力の入っていない腕が首に巻き付いてぺったりと貼りついた。
「きょーね」
「ん?」
「一人で検挙したの」
随分聞き取りにくいふにゃふにゃした声が耳元を擽る。
「三人もいたの」
「……へえ」
「強盗でね人質がいてね」
ぽつりぽつりと語って聞かせてくれる話を聞きながら寝室に向かい、枕元の間接照明だけ灯すと、二人が優に寝られる大きなベッドへと西岐を転がした。身体が揺れて酔いを感じたのか目元を手で押さえる。前髪が横に流れて見えた目元は堪えるようにぎゅうと皺が寄っている。
その手を取ってガントレットを外す。腕を振り回しても外れないようになっているそれを外すには少々コツがいるのだが相澤の手は難なく取り払った。
首に巻いている細長い布に相澤の手がかかったところで西岐がふふっと可笑しそうに笑う。
「えっち」
「……何を今更」
「ん、ん……」
布がほどけて抜き取られる際に首を舐めていく感触に擽ったそうに身を捩る。ガントレットと布が取り払われるとピッタリと体のラインに沿うボディースーツが余計にいかがわしいものに映る。
チチッとファスナーを引き下げる音が静かな寝室でやけに響く。
臍のあたりまで胸元が開かれて、窮屈さからやっと解放されたかのように西岐はほうと息を吐いた。
「しょーたさん」
潤んだ声で相澤を呼ぶ。
大きくよろけて頭を揺らしながら起き上がり、傍らに腰かけている相澤に絡みつく。首に腕を回し膝に乗り上げ、胸元を張り付ける。そうして相澤の頬に自分の頬を擦り付けた。いつグラッと傾いて倒れても可笑しくないほどフラついている身体に手を添える。大きく開いている背中部分に手のひらが直接触れると、普段の彼とは比べ物にならないほど熱い。そうして手に支えられたことで背中が一層にしなって反り返った。
「ん、ふ……しょーたさんの匂い、すき」
「匂いだけか?」
「声もすき」
「へえ」
「手もすき」
すりすりと頬を寄せては相澤にしなだれかかる。
酔った西岐はまるで大きな猫だ。
「撫でて」
強請られるまま髪の毛を後ろへ撫でつけるような動きで頭を撫でてやれば、双眸が心地よさそうに細くなった。今にもゴロゴロと喉を鳴らしそうな顔をしている。
頬の丸みを撫で、顎を伝い、首を辿って、ファスナーが下されて露わになった胸元に指を滑らせる。撫でてくれという要望を胸元でも叶えてやる。骨の凹凸が分かる筋肉のない胸元に手のひらを張り付けスーツの下へ忍ばせた先で、触れた小さな突起をすりすりと優しく指の腹で撫でてやると猫が鳴き声をあげる。
「他でこの状態になっていたりしないだろうな……」
頭に過るのは一緒に飲んでいた連中や、家まで送り届けたであろう人物のこと。色恋を抱いていなかったとしてもこんな状態の西岐を前にしたら邪な気持ちを抱いてしまいかねない。
そんな相澤の懸念に西岐がとろけそうな口付けで応える。
粘着質なほどねっとりと唇に吸い付き、角度を変えてまた吸い付く。合間に吐き出される熱い吐息に言葉が混じる。
「誰にでも懐いたりなんか……しないんだよ」
甘えるのもしなだれかかるのも相澤だけ。そう囁く唇に相澤もキスを返した。
本格的に手が西岐の身体をまさぐりベッドへと押し倒す。綺麗に密着していた衣装が次第に剥がれていく。
西岐の足がもどかしそうに相澤の腰に絡まる。
「……発情期か」
「ち、がう……けど」
相澤が揶揄うと西岐の顔にアルコールのせいではない赤みがさした。それでも絡まった足が離れることはなく寧ろ内腿がきゅっと強張った気がする。
「じゃあこれはなんだ?」
ぴっちりとラインを浮かび上がらせている衣装の足の付け根へと手を滑らせれば、形を変えて主張している性の部分にぶつかる。
また鳴き声が一つあがる。
微かな声が紡ぐ言葉を一言一句漏らさず拾い、相澤の口が知れずの内に恍惚に歪む。
上手に強請れたご褒美にとゆっくり覆い被さった。
翌日、過ぎたアルコール摂取と、相澤からの愛情表現過多によって足腰が立たなくなってしまうのだが、それを知る由もない西岐はとろけた顔で相澤の身体へと縋りつくのだった。
create 2018/02/23
update 2018/02/23