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「ありがとうございました」
名前はマイクの前でお辞儀をする。パチパチとまばらに響く拍手。ギターケースの中に投げ込まれる紙幣や硬貨は、基本的に全て生活費に回していた。路上ライブの報酬は貧乏学生の名前にとっては貴重な収入源である。その日も名前は後片付けをしながら硬貨の数を数えていた。ひーふうーみー。なかなかの成果に名前自身蔓延の笑みが浮かぶのがわかった。今夜は少し奮発した弁当を食べよう。夕飯の献立を考えて名前は生唾を飲み込む。すると、そんなふうに考えながらしゃがんでいた名前にふと影がさした。陽の光が遮られたことで名前がその原因を見上げたところ、そこには紫がかった髪を撫で付けている陰気臭げな青年が、名前を見下す形で立っていた。
全くもって見たことのないその人物に名前は訳がわからずに首をかしげるしかない。そんな名前に、青年は育ちの良さそうな雰囲気と所作で、ゆっくりと手を差し出したのだった。
「ねえ君、僕にプロデュースされてみないかい?」
それが、名前と月雲了の出会いである。
たったひとつの約束事