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ミューフェスの反響もあり、JIMAの新人賞を獲得したとマネージャーから名前の元へ連絡があったのが、つい先日のことだ。ちなみにその日の夜には月雲了が亥清悠も連れて名前と焼肉屋にいき、先日の失礼な物言いや好感度のダウンを挽回した。予約制の高い店の肉に勝る褒美はあんまりない。そしてRe:valeを始め知り合った他のアーティストからは祝いの花束が届き、名前の楽屋を埋め尽くした。そうして賞をもらった余韻と自覚とともに、名前は新曲のレコーディングの為都内を車で走る。道中寄ったコンビニ内で自分の歌が流れていることに気がつくと、名前は顔を隠しながらレジ横のお菓子を会計に追加した。大学の方も問題なく卒業できそうで、来年からは本格的に活動する予定である。
季節はすっかり秋を置き去って、震えるような寒空に白い息を吐き出した名前はかちかちとスマホを操作しマネージャーからの連絡を待つ。
予想外に渋滞していた道路に、歩いた方が早く着きそうであると判断した名前は、早々にタクシーから降りて自分の足でレコーディングに向かっていた。向こうのスタッフは渋滞を把握していたらしく、安全第一で来てくださいという旨の指示が出たため、時間面は心配しなくてよかった。名前は4月にスカウトされてから怒涛の毎日を過ごしていたので、こうして1人ゆっくりとギターを抱えて歩くのは本当に久々、昔ならそこそこなスペースさえあればどこでもマイクスタンドを置いたものだ。
「懐かしい」
と、名前は最近自分が過去ばかり振り返っている気がした。しかし事ある度に回想に浸るなど、感情的な人間でない名前にとっては暇つぶしみたいなものだ。そこまで考えて、そっか、自分今退屈なのか、と思った。背伸びをした名前は、マスクの下で欠伸をしながら「また路上してぇなぁ〜」と愚痴をこぼす。あれはあれで自由でいいもんだ。
ぴろん、と音がなったラビチャを名前が見ると、「千が今日もイケメン〜(はあと)」と楽屋でのツーショット写真を載せた百がスタンプ付きのメッセージを寄越していた。
「この人も大概アイドル脳だよな……」
呆れかえって「相方自慢か!」とツッコミを入れてから、名前は少し早足になる。これはこれで、楽しいのかもしれないと思い直した。単純か。
感情知らずののっぺらぼう