「最近一層楽しそうだね、百」
「え!?そんなにオレにやけてた?」
「気持ち悪いくらいにね」
「嘘……」

流石にアイドルが気持ちの悪い笑みとは笑えない。オレはさっと顔を青くさせた。

「ふふ、嘘嘘、百はいつでもカッコいいよ」
「やだ千……イケメン……好き…………」
「それ、名前ちゃんに言ってあげたら?」
「うぇ!?む、むむむ無理だって!」

動揺した手元からスマホがすっぽ抜けて、キャッチした千に名前ちゃんとのラビチャを覗かれてしまった。たわいのない話ばかりで見られて恥ずかしいことなんてないんだけど、気になってる子との会話を敬愛してやまない千に見られるのって、なんだかちょっと背徳感がある。それに出会って一年近くの女の子と全く進展がないトップアイドルというのもカッコ悪いから、そんなところ千に見られたくなかったのに!!スライドされる画面にあああ〜、とオロオロしているオレを他所に、千は一通り内容を見終えたのか顔を真っ赤にして笑いを堪えているようだった。え、オレそんなにやばいことしてた……?

「百、これ、会話が高校生レベル」
「い、いいじゃんか別に」
「発想が中学生」
「学年落ちたあ……!」
「何、実は百って奥手だったんだ?」

オレは自分で言うのもアレだが、トップアイドルである以上人よりも人を楽しませることに長けていると思っている。だから奥手というよりは、慣れていないだけなのだろう。高校までは頭の中サッカーばかりで、尚且つRe:valeで万さんと千さんに出会ってからはずっと追っかけまがいなことをしてきた。そんなオレが仕事上の付き合いや友人関係以上の異性との付き合い方を熟知しているかと言われれば、答えはノーだ。
だから毎回名前ちゃんにラビチャを送る時は誤字がないかとか、中身が引かれるようなものではないかと何度も確認するし、既読がつけばそわそわとしてしまう。しかし、毎日のようにこちらから話しかけている時点で名前ちゃんには多少悟って欲しいと思うものの、自分も向こうも芸能人、しかもオレに至ってはアイドルだ。その立場上、関係が進展してもデメリットしかないことがわかっているので、そういうところに敏感な名前ちゃんはあえて何も言わないのかもしれない。仮にそうだとしてオレはそんな彼女の気遣いに感謝すべきなのか、悶々と悩むのがいいのか自分では判断がつかなかった。曖昧な関係のうちが一番楽しいとよく聞くが、オレには精神的につらい。

「そもそも、名前ちゃんのどこを好きになったの?」
「え?」
「別に悪くいうつもりはないよ。単純な疑問。そうね、……容姿一つにしたって百ならトップモデルでも狙えるだろう?むしろ向こうから寄ってきそうだ。それでも彼女が気になるってことは、それだけの理由があるのかなって」
「それは……」
「なんてね。百顔真っ赤」
「うう、見ないで」
「やだ」

千の意地悪……!そうは言うが、きっと千にはオレがいつから名前ちゃんのことをそういう目で見るようになったのかはバレてしまっているのだろう。だからこれは遊ばれているんだとわかっている。でもそんな千すらカッコよく見えるのだからオレはもう末期を通り越して悟りの境地へ至っているのかもしれない。

「僕も実は好きだよ……彼女の曲。あ、焦った?」
「焦ったよ!死ぬかと思った!」

本気で心臓止まるかと思った!千と名前ちゃん……2人が付き合うとか、それはオレにとっては地獄のような天国のような、なんとも言えない光景が広がることになる。
嫌な想像を振り払うように首を振って、気を紛らわすためにもうくたびれるほど読み込んだ新曲の楽譜に目を通した。そうしてブラホワを控えた大事な時期に恋にうつつを抜かしている暇がないとはわかりつつ、スマホに表示される名前ちゃんからのメッセージを見ると、ついついそちらにも気を取られてしまう。ああ、オレはなんて難儀な感情に気がついてしまったのだろうか。それでも嫌じゃないのは、彼女のことを考える時に湧き上がるふわふわとしたこの感覚が心地よいからか。

ぴろん、と通知の音が鳴って画面を見ると、さっき送った内容に対する返事がきたのだとわかった。相変わらず意地悪く笑っている千はもう見ないふりをする。
知りたいと思う気持ちに際限はない。どこまでもいつまでも果てしなく広がる海のようなものだった。熱い頬と緊張を鎮めるためももりんを一気飲みしたオレは、今度は何を送ろうかと名前ちゃんに思考を巡らせる。
そんな単純な青年であるオレのことを、画面の向こうで彼女が考えていてくれたらいい。
プロポーズはゆっくりね