キッチンではサンジが片付けをしているところで
ドアを開けるとすぐにこちらに気付いた。


「NAMEちゃん、どうしたの?飲み物?」

「ううん、片付け…手伝おうと思って。
遅かったかな?」


本当は、そんなのは嘘。
どうしても、あのまま今日を終わらせたくなかった。


「遅くはないよ、すごく助かるけど…
じゃあ…お皿を拭いてもらおうかな」

「えっ?あ、うん!」


てっきり、手伝わなくて大丈夫だから
座ってお茶でも飲んでいてとでも言われると思ってて
手伝わせてもらえるなんて、少し意外だった。


「えっと…じゃあ、お邪魔します」

「ははは、どうぞ」


キッチンの中に足を踏み入れるのは
何だか少し緊張した。

サンジの隣に立って、サンジが洗った後のお皿を拭く。
キッチンには、水の音と皿と皿が当たる音だけが響く。

触れそうで、決して触れない距離。
それでも、体の右側だけが熱い気がした。

片付けはもう終わりに差し掛かっていた事もあって
すぐ終わってしまった。
無言の時間もサンジの隣にいて感じたドキドキも
なんだか居心地が良くて終わるのが少しさみしい気持ちになった。


「NAMEちゃんが手伝ってくれたから
いつもより早く終わった。助かったよ、ありがとう」


サンジはそう言った後、私をカウンターへ座らせてから
冷蔵庫へと向かう。


「実は、いつ出そうか悩んでてさ、ちょうどよかった」

「何?」

「レモンが好きだって言ってただろ?
今日手に入れたレモンで作ったんだ。
NAMEちゃん専用レモンジャム」


ちょっと冗談めかして笑うサンジ。


「私専用?」

「そう。NAMEちゃんは酸味が強めで
ちょっと刺激的な味が好きだろう?
スパイスも混ぜて、特別に作ったんだ。
紅茶とよく合うよ」


そう言って、サンジは紅茶を淹れる準備をする。
お湯はいつの間にか沸かしてあって
さすがすぎると思った。

サンジが紅茶を淹れてる間
もらったジャムの瓶の蓋をあけると
レモンの瑞々しい香りの中に
ほんのり甘さと辛みと混ざった複雑なスパイスの
香りがした。


「いい匂い…」


誰にでもしている事だと頭でわかっていても
こういう特別扱いには、当然弱い。
ありがとう、と伝えると
気に入ってもらえるといいけど、と笑ってくれた。
嬉しさと、照れくささと
そしてちょっとだけ、切なかった。


「今日…」

「うん?」


サンジに渡された紅茶のカップを両手で包むと
じんわりと手のひらに暖かさが伝わる。


「本当の事、サンジには聞いて欲しくて。」

「本当の事?」

「昼間、パティーニの男が私の事を、
その…、愛人だって言ったこと」


せっかく柔らかかった空気を
少し固くしてしまった事は、自分でも分かっていた。

サンジはタバコを取り出して火をつけて
そして、ゆっくりと煙を吐いた。


「うん。でも俺は、昼間も言ったけど
NAMEちゃんが過去に何をしてようと…

「だから違うの」


私はサンジの言葉を遮った。


「私は、愛人なんかじゃないよ。
アンダーボスとは何にもなかった。
あいつがそういう気があるのはわかってたけど…
私はずっと躱し続けてた。
でも、ある時いよいよ逃げられないってなったから…
あそこから逃げ出してきた。
自分の身を守るためでも、心までは売れなかった。」


サンジは、黙ったままだった。


「自分が愛人だと言われてることも知ってたし
その名前を利用してたのも事実。
思い出したくない事だからあそこから離れた今でも、
わざわざ自分から話題をひっぱり出して
釈明する気にもならなかった。
でも、サンジには、
サンジだけには勘違いしてほしくなくて…」


私は、サンジの顔を見ることが出来なくて
自分の握りしめた手を見ながら
一気に捲し立てた。

サンジは何も言わなかった。
何か言ってよ、そう思って
我慢できずに、サンジの顔を見上げた。






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