緊張で食事の味も分からなかった、
と言いたいところだったけど
相変わらずサンジの料理は最高に美味しくて
あっという間にぺろっと平らげてしまった。


「オイ、ちょっとツラ貸せ」


食後のコーヒーを味わいながらロビンと話していると
背後からガラの悪い声が聞こえた。


「怖いよ」


笑いながら答えると、
ゾロは面倒くさそうに眉を顰めた。


「うるせェ…元々こういう顔だ」

「ごめんごめん。
ご飯の後ちょっと先約あるからその後でいい?」

「おう」


そう言って、ゾロは何故かキッチンの方を
チラッと見やって、ダイニングを後にする。
何なんだろ、珍しいな。


「じゃあ…私もお先に失礼しようかしら」


にっこり笑ってロビンは立ち上がり、
キッチンにいるサンジからコーヒーのおかわりを貰って
ダイニングを出て行った。


これで、ダイニングには私とサンジの2人。
私はサンジを背にして座っている状態で、
背後が気になって、ソワソワしてしまう。


なぜか、急に緊張してきて
コーヒーをゆっくり飲む。
ごくりと言う音がいつもよりも響いている気がした。


「NAMEちゃん」


サンジに名前を呼ばれてビクッと肩が揺れてしまって恥ずかしい。


「は、はい!?」


サンジは少し面白そうな顔をして笑った。


「コーヒー、あったかいのに変えようか?
もう少しでこっち終わるから、飲んで待っててくれる?」


明らかに私が緊張していて、サンジは余裕そうで。
悔しくて、平気なふりをしようとして気合を入れ直す。


「これで大丈夫。ありがとう。」


そう言って、
サンジの姿が見える方に座り直す。
真面目な顔をして、
てきぱきと慣れた手つきで
片付けをしていくサンジ。
この前手伝った時は、
私に合わせてくれてたのか
随分ゆっくり片付けしてたんだなと気付いた。


じっとサンジを見つめていると、
サンジが顔を上げて、目が合う。


「そんなに見つめられると照れるなあ〜♡」


デレっとした顔をするサンジ。


「ご、ごめん」


照れたのは私の方で、ついつい謝ってしまって
もっと気の利いたことを言えよ、と自分を叱った。
サンジと話してると自分が自分じゃないみたいで
調子が狂うし、なんだか悔しい。

サンジは、はははと軽く笑った。


いつの間にか片付けは終わったようで、
サンジは「おまたせ」と言って、
小さなトレーを持ってこちらに歩いてくる。


トレーの上には、クッキーと、
ポットに入ったコーヒーと、ミルク。
一杯目はブラックで、
2杯目にはミルクを入れるいつもの私の飲み方を
ちゃんと覚えてくれている。
そのたびにきゅんとしてること、
わかってるのかな?


サンジが注いでくれた温かいコーヒーにミルクを入れて
ひと口飲んで、ふうっと息をしたら、
不思議と心が落ち着いた。


サンジも、ひと口コーヒーを飲んで
たばこに火をつけようとして、やめる。


「たばこ、吸わないの?気使わなくていいよ」

「いや…いいんだ」


少しの間、沈黙。
その沈黙を破ったのは、サンジだった。


「…NAMEちゃんさ、結構マリモと仲良いよね」


突然、ゾロの名前が出てきたので予想外でびっくりした。
てっきり、昨日の私の発言についての話だと思ってたから。


「ゾロ?仲…良いかな?そう見える?」

「結構一緒にいるなァと思って」

「確かにまぁ…そうなのかな?意識した事なかった」

「さっきも、マリモが出て行く前に何か言ってただろ?」

「あー、あれ?よくわかんないけど、この後ツラ貸せだってさ。
ガラ悪すぎない?怖いよってついつい言っちゃった」


そう言って笑うと、サンジは不愉快そうに眉を顰めた。
多分ゾロの事だろうけどあの野郎とかなんとか
ブツブツ言った後、ごめん、と断って
さっき諦めたはずのタバコに火をつけた。

私は、サンジの言動の意味がよくわからなかった。


「昨日…NAMEちゃん、急に出て行っただろ?
…実は、あの後あとを追いかけたんだ。
って言っても、ここのドアを出て
目で追ったくらいだけどね。
そしたら、NAMEちゃんが展望室に行く
ロープを登ってる所で…
あ、下から覗いたりしてないからね?」


「当たり前でしょ!?むしろ覗いたことあるの!?」


いやァ〜とへらへらした顔で笑うサンジを見て、
こりゃあるな…と悟った。


「それで…部屋に戻る気にもならなかったから
朝飯の準備とか、色々キッチンでやってて…
結構長い時間やってたんだけど
一通り終わって外に出た時にちょうど
あの野郎が展望室から降りてきやがったところだったんだ。
その時アイツが、この前の島でNAMEちゃんに買った
酒瓶を持ってやがったから…」


サンジの顔を見てたら、罪悪感が湧き上がってきた。
確かにそりゃあ、せっかく買ったものを
勝手に他の人にあげてるのを知ったら
腹が立つよね。当たり前だ。


「…ごめんなさい。
せっかく買ってくれたものを勝手に人にあげたりして…
サンジが怒るのも当然。本当にごめん」


サンジの目を見て、謝罪をした。
その目は、また見開かれて
そして、きょとんとした顔になった。


「いやいや、違ェんだ、怒ってなんかない」

「え?」

「買った後のものをどうしようと自由だし、
おれはNAMEちゃんに怒ったりなんか絶対しないよ」

「え?じゃあなんで…」


サンジは、私の顔をじっと見つめて
そして、ため息をついた。


「NAMEちゃん…もしかして、鈍感?」

「…割と鈍感とは程遠い方だと思ってたんだけど…」

「おれもそう思ってたよ」


サンジは少し呆れたように息を吐いて
座り直して、まっすぐ私の方に向き直った。
そしてそっと手を伸ばして、テーブルの上に置いていた
私の手に、その手を重ねた。


「この前も言ったけどさ、おれは…少し期待してたんだよ。
ここで、2人で話をした時。この前の夜ね」


サンジはゆっくりと視線を動かす。
目を伏せて、それから私の目を見つめる。

重ねられた手のせいなのか
サンジの視線のせいなのか
さっきよりも落ち着いた声のせいなのか
私はなんだか急にドキドキしてきた。


「あの時の…NAMEちゃんの言葉の意味
ちゃんと知りたくて」


核心をつかれて、戸惑った。
そんな事急に言われても(急でもないけど)
心の準備が出来てない。


「それ……
この時間帯に話すのは結構、カロリーが高い、かも。」

「そうかな?
あ〜お酒とか飲みながら話す感じ?」


サンジは笑っていた。
仕掛けたのは私で
私も大概わがままだけど、
サンジの気持ちだってまだ教えてもらってない。
サンジは女の子ならみんな好きだけど
私の事は特別だなんて保証はどこにもないから
やっぱり怖かった。


「じゃあ今夜はどう?」


お酒、用意するけど。とサンジは言った。
これは、もう逃げられないなと思って腹を括った。


「…いいよ」


サンジは嬉しそうに笑った。
ニコッと音がしそうなほどに。
こんな時なのにやっぱりその笑顔にきゅんとしてしまった。


「とびっきりのお酒を用意しておくよ。」


夕食の後にまた、と約束をして、
ダイニングを出た。






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