「単刀直入に言うね」


サンジは小さく頷いて
変わらず私の目をまっすぐに見ていた。

私はゆっくりと瞬きをした。



「私、…サンジの事が好き」


サンジの眉毛がぴくっと動いて、
目が少し見開かれた。

本当はそのまま見つめて言うべきなんだろうけど
これ以上は耐えられなくて、私は視線を落とした。


「わかってたとは思うけど。
…仲間としてじゃなくて、
男の人として…サンジの事が…」


1度目の好き、で勇気を使い果たしたのか
情けない事に、2度目の好きがなかなか言えなかった。


「NAMEちゃん」


カウンターの上で握りしめていた私の拳が、
温かいものに包まれた。
サンジの手だ。


「ごめん」


心臓が、ドクンと脈を打った。
ごめん。そのサンジの声が
驚くほど耳に残った。
私は、正面を向いたまま、目を閉じた。


「女の子にそんな事言わせるなんて、情けねェ」


ふられた。
もしかしたら、サンジも私の事を
好きでいてくれているかもしれないと
心のどこかで期待をしていた。
でも、やっぱりそうじゃなかった。
せめて泣かないようにしなくちゃ
と、真っ先に思ったのはそれだった。


「それはおれから言わないといけねェのに」

「え?」


多分、ものすごい勢いでサンジの方を向いたんだろう
サンジは驚いた顔で、少し後ろに仰け反った。


「いやァ、思ったよりも単刀直入だったから…
先に言われちまって…いや、これはおれが悪いんだけど」

「え?」


サンジは、私の勢いに少し押されながらも
少し咳払いをして、私の両肩を優しく掴んだ。


「NAMEちゃん。」


私は緊張して、
すこし猫背になっていた背筋を伸ばした。
正面からサンジに見つめられて
文字通り、口から心臓が飛び出しそうなくらい
ドキドキしていた。


「…はい」


答える声は
もしかしたら震えてたかもしれない。
サンジは、表情を変える事なく
真剣な眼差しのまた、口を開いた。


「好きだ。」


サンジの口から放たれたその3文字に、
目頭がぶわっと熱くなる。
さっきとは正反対の、心臓の高鳴り。


「…絶対大切にするから、
おれの彼女になってくれる?」


声がうまくでない。
ゆっくりと頷いて、息を吸って、ようやく声を絞り出した。


「…はい。」


なんだか恥ずかしくなって
へへへと笑おうとしたら
手を添えられていた両肩をそのまま引き寄せられて
タバコと魚介の香りに包まれた。

鼻をもっと押しつけて息を吸うと、
その奥にサンジ自身のにおいがした。
ゆっくりとサンジの背中に腕を回して
その感触を確かめる。
かたくて、あったかかった。


「サンジ、最初にごめんって言うから
ふられたのかと思った」
 

ごそごそと頭を動かして、
サンジの肩の上に自分の顎を乗せて
ふうっと息をついた。


「すまねェ…」


しょんぼりしてるのが、声だけでわかる。
なんだかサンジがとても可愛く思えて、私は笑った。


「自分がこんなに情けねェ野郎だとは思わなかった」


肩にかかるサンジの頭の重みが増した。
項垂れているんだろう。


それまで持っていた心配なんて
どこかへ飛んでいった。
だって、今目の前にいるサンジは
きっと私しか知らない姿。


「でも私も、自分がこんなに
めんどくさい女だとは思わなかった」


そう言ってゆっくり体を離して
私たちはお互いに見つめあって
どちらからともなく笑った。


「可愛い」


そう言ってサンジは、
私の後頭部に手を回してゆっくりと髪を鋤く。
その手つきが気持ちよくて、少し目を閉じて微笑んだ。
サンジの手がうなじ辺りで止まった時に目を開けたら
私の目をじっと見つめるサンジと目が合った。

その目が、なんだか熱っぽくて
酔いは覚めてたはずなのに
急にまた酔いが回り始めたかのように
頭なのか心臓なのか
わからないどこかがばくばくしはじめた。


サンジの顔が近づいてきて
私はゆっくり目を閉じた。


サンジの唇は少しかさついていて
顔に当たった髭は
思ったよりも柔らかくてくすぐったかった。


最初は軽く触れるだけ
少し離れたら今度はもうちょっとだけ長く。
静かなダイニングに、私達の音だけが響いて
頭がぼうっとしてくる。
何度も何度も繰り返すうちに
どんどん深くなってきて
少し力を入れてサンジのおでこに手を当てて
唇と唇に距離を作った。


サンジのうっとりとした瞳があまりに色っぽくて
どうにかなりそうなほどドキドキした。
私が何も言えずに、でも目もそらせずにいると
いつもと違う熱を持っていたサンジの目が
少し柔らかくなって、
そしてため息をつくように大きく息を吐いた。


「やべェ…」


サンジは私の肩におでこを擦り付けた。
その仕草がなんだか可愛くて私は少し笑った。

これからもっと、
私しか見れないサンジを知ることが
出来るのかと思うと
嬉しくて仕方がなかった。



「おれは…ここ片付けてから寝るから。
NAMEちゃんは、先に部屋に戻っていいよ」


サンジはわたしの肩に今度は顎を乗せたまま
そう言った。
私を抱きしめるために
腰に回された手の力が少しだけ緩んだ。


「うん」


私がサンジの胸を少しだけ押せば
離れることが出来るくらいのゆるい力で
サンジは私を抱きしめていた。
自分から止めておいて勝手だけど
なんだかこのまま部屋に帰るのが名残惜しくて
なかなかサンジから離れられないでいた。


「あ、やっぱり一緒に寝たくなった?♡」


お得意のデレデレ顔を作ったサンジは
両手を広げてくねくねしはじめた。


「女部屋に戻ります」


私はサンジの胸元をぺしっと叩いて、
サンジの腕の中から抜け出した。

サンジは、カウンターから離れようとした
私の腕をそっと掴んだ。


「おやすみ、また明日」


「うん…また明日ね」



名残惜しそうにゆっくりと
私の腕を離れたサンジのぬくもり。
腕にも、背中にも、唇にも
いろんなところにサンジの感触が残っている気がした。


ダイニングを出て女部屋に帰るために
芝生甲板へ降りた。
潮風が頬を撫でて、一息ついた途端
突然に色々と思い出して、急に恥ずかしくなった。
少しの間、芝生に座り込んで蹲って
そして、ダイニングに視線を送る。
電気はまだついていた。


早く明日になって
またサンジの顔を見たいと思って
少し早足で女子部屋に戻った。





おわり


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