「ちょっとNAME!!!
あんたいつまで寝てんのよ!!!」

「!!!」


ナミの大声が私を眠りの世界から引き摺り出した。
私は、どうやらとてもぐっすりと眠っていたようで
さっきまでナミ達と話していたはずなのに
瞬きした瞬間朝が来たような、
妙な感覚だった。
けれど、ぐっすり眠っていたおかげか
寝起きは悪くなかった。


「ほら、早く準備しないと
あなたの彼氏が朝食を作ってお待ちかねよ」

「ロビン…!それ、やめて…恥ずかしいから…」


サンジと恋人になって以来
たまにこうやって冷やかされる。
私はあまりこういう事に慣れてないので
すぐ萎縮してしまうけど
それが逆効果なことも、理解はしている。


「なーに恥ずかしがってんのよ今更。
私達先に行っとくわよ」

「はい…」


手厳しい言葉に返す言葉もなくて
私はベッドから起き上がり、洗面台へと行く。

時間、いつもよりかかりすぎちゃったなと思って
部屋を出て、ダイニングへと急いだ。


ダイニングに到着すると、
みんな既に食事を始めていた。


「ごめん!遅くなっちゃった…!」


かなり出遅れてしまったので
先に食べていてくれて安心した。


「NAMEちゃん」


椅子に座ろうとテーブルに近付いたとき、
キッチンから顔を覗かせたサンジに
名前を呼ばれた。


呼ばれるがまま振り向くと
サンジは大忙しで
朝食(のおかわり)を準備していた。


サンジは私の方へ素早く歩み寄り
コーヒーをテーブルに置いた。


「おはよう、NAMEちゃん」

「おはよう」


サンジの笑顔はいつでも甘くて優しいけど
今日は、なんだかいつも以上に甘く感じた。
ふと視線を感じて振り向くと
ナミが、頬杖をつきながら
ニヤニヤと笑っていた。


「あっついわね〜」

「ナミ…やめてよ…」

「NAMEおせーぞ!
お前の分なくなるぞ!」


すぐ向かいからルフィの声が飛ぶ。
相変わらず朝から驚異的な食欲で
テーブルの上の食事を
片っ端から食べようとしている。



サンジと恋人同士になった翌朝、
船長にはきちんと言うべきだろうと思って
真っ先にルフィの元へ向かった。

どう説明したらいいんだろうと迷っていると
「お前らのことならサンジから聞いたぞ」
と、事もなげに言った。

意外な反応に驚いてしまい私も
「あ、そうなんだ」としか言えなかった。
ルフィはそういう事に無頓着というか
無縁なところにいるイメージがあったから
本当に理解しているのだろうかと思って
すぐ近くにいたサンジの方を見ると
大丈夫だよとでも言うように
頷いたのを覚えてる。



「おいクソゴム!!おかわりあるから
人の分食うなっつってんだろ!!
NAMEちゃんのぶんはちゃんとあるからね♡」


そう言って、サンジはテーブルに
ホットサンドとサラダとスムージーを運んできた。
相変わらず言うまでもなく最高の味だった。



賑やかな朝食も終わって甲板に出ると
気持ちの良い風と太陽。
ナミに聞いたら、
今日は1日この天気が続くだろうと言う事だったから、
大きくて部屋の中ではなかなか干せない
シーツをまとめて洗う事にした。

みんなの分のシーツを集めて
洗って干すのはなかなかの重労働だったけど
今日は気分もいいし足取りもいつもより軽い。


ひと通り終わって
甲板にシーツを干し終わると
サンジがおやつを持ってキッチンから
出てきた所だった。


「NAMEちゃん、お疲れ様」

「あ、サンジ」

「これ、1人でやったの?大変だったろ」

「ううん、そうでもないよ。
私だけやることなくて暇だったし。
今夜はきっと気持ちよく眠れるよ〜」

「そんな気の利くNAMEちゃんが好きだァ〜!!♡♡」

「はいはい」


なんて軽く交わしながらも
本当は嬉しくて仕方なかったし
私と2人っきりの時の
甘いサンジとの違いも面白くて
ついつい上機嫌で笑っていたら
背後から呆れたような声が聞こえてきた。


「なにやってんのよバカップル」

「あ、ナミ!」

「ナミさん!」


海図を描き終えたらしいナミが甲板に出てきた。


「はぁ〜肩凝った」

「ナミさんお疲れ様、
ちょうどおやつが来たところだから持ってくるね」


NAMEちゃんもナミさんと一緒に待っててね、
と言ってサンジは素早くキッチンへと走っていった。


サンジを待ってる間に
甲板にパラソル付きチェアを出して
座ってナミと話していると
素早いけれど落ち着いた、
相変わらずの洗練された動きでサンジが
おやつを持ってきてくれた。


「お待たせしましたレディ達。
本日のおやつは桃のパイ、ジェラートのせです♡
紅茶は柑橘を入れたさっぱりフルーツティーだよ」

「美味しそう!」


思わず声を漏らすと、
サンジはとても嬉しそうに笑って
どうぞ、と手渡してくれた。
それから、ナミにも。


「ありがとうサンジくん」


ナミがにっこりと笑うと
サンジもまたにっこりと笑って
お皿を渡していた。
それじゃあ、と言ってサンジは
キッチンへと戻っていった。


私はなんだか違和感を感じたけれど
ナミに尋ねても「そう?」
と言われるだけだった。
どこがと聞かれると分からないんだけど
なんとなく。

そう思いながらおやつを口に入れると
桃の甘酸っぱいジューシーな果肉と
サクサクのパイ、そしてジェラートが織りなす
最高のハーモニーに感動して
さっきまでの根拠のない違和感など
すっかりどこかへ飛んでいってしまった。


その後も途中から一緒になったロビンも交えて
女子トークで盛り上がって、
乾いた大量の洗濯物を畳んでいたら
あっという間に1日が過ぎてしまった。
とてつもなく平和な1日だった。


その日の夜ご飯の時、
おやつの時間に感じた違和感をまた感じた。

何かはわからないけど、何かがいつもと違う。
不思議に思いじっとサンジを目で追って観察していた。
(何度も目が合って、その度にへらへらっと
サンジは笑っていた)


そして、ようやくその違和感に気づいた。
サンジの、ナミとロビンに対する態度がいつもと違う。

綺麗だとか美しいだとか、好きだとか。
そう言った甘い言葉を、全く吐いていないのだ。
もちろん、冷たく接するなんてことは全くない。
優しくてにこやかに接しているけれど
でも、いつもみたいに
過剰なまでのラブアピールがない。
というか、言おうとした瞬間ハッとして
我慢をしているように見えた。
どこか、具合でも悪いのだろうか。
私はなんだか心配になってきた。


「ねえ…今日さ、サンジの様子おかしくない…?」


私は寝る前、女部屋でナミとロビンに尋ねた。


「え?昼も言ってたわよね」


ナミは気付いてないようだったけれど
ロビンは思うところがあるようだった。


「いつもより、大人しい様子ではあったわね」

「ふーん、言われてみれば確かにそうかも。
まぁでも明日になったらまたいつも通りでしょ。」

「そうね」


ナミとロビンにそう言われると
考えすぎなのかもしれないという気になってきた。


「そうだよね」


そう思って、特に深く考える事もなく
その日は眠りについた。

だけど、それは思った以上に
深刻な状況へと発展していった。



サンジのラブコックっぷりがセーブされて
数日が経った。
この数日間、サンジが目をハートにしたり
くるくる回ったり
くねくね体を揺らしたり
好きだのなんだのを叫ばなくなった。

ただ大人しくなっただけなら
それこそ静かになってよかった、
で終わるんだけど
恐らくサンジは相当な我慢をしているようで
顔が痩けて目の下はクマだらけ
目つきが朦朧としてきている。
女にデレデレしないだけで
こんなにも辛そうになるものなのか、
とも思ったけど
他でもない、サンジならありえる話だとも思った。


「ねえ…いよいよヤバい感じになってきてない?
やっぱ…絶対あれって…」


そう言ってナミは私を見る。


「私…?」

「それしか考えられないでしょ。」


ナミはけらけらと笑っていたけど
サンジの憔悴しきった様子に
私はどうしても不安を拭えなかった。


「でも私、特に何も言ってないんだけど…」


その時背後に視線を感じた。
勢いをつけて振り向くと、
びくっとして気まずそうな顔をしたウソップがいた。


「ウソップ……何か知ってるんでしょ…?」 


何故かこういう時の嘘をつくのは
下手くそなウソップは
明らかに視線が落ち着きがない。

完全に自覚があり、ただ罪悪感があるのか
逃げようとはしないウソップを捕まえ
肩に手を回し動けないようにして問い詰めた。


「知ってる事全部吐きなさい」

「イヤ、関係ねェかもしれねェし…
おれの勘違いかも」

「いいから。」


サンジはこのままだと本当に危ない可能性がある。
なんと言っても、人魚を目の当たりにしただけで
鼻血を吹き出し出血多量で命の危機に直面した男だ。

私はサンジの命を守りたい一心で
ウソップに眼光鋭く問い質した。


「…この前よォ…
まァ普通にサンジと会話しててよ…
いつも通りアイツが…NAMEの事もだが
ナミとかロビンの事を褒めちぎってたモンだから
おれが言ったんだよ」

「何を」

「NAMEがよく許してるなって。
普通嫌だろ?
自分の男が他の女にデレデレして
エロいこと考えてるの」

「エロいこと言ってたんだ…?」

「アッ!イヤ…」

「まぁいいよ、慣れてるから」

「だからお前のそういうのが、
すげェなって話をしてたんだよ。
そしたらサンジが急に心配しはじめてさ…
お前が我慢してるのかもって」

「ていうかサンジくん今まで
その事考えなかったのね」

「細かいとこに気付くようでいて
肝心な所は鈍いのね」

「だからまァ普通に考えたら嫌だろって。
でもNAMEの事だから、そういうの嫌でも
サンジには言わないだろうなって
俺が言っちまったんだよ」

「それでサンジは私に確認もしないで
勝手に思い込んで
勝手に我慢してるって事…?」


それが本当なら、サンジは大バカだ。
頭が良さそうに見えて、
そういう所はほんとにバカ。
私は大きくため息をついた。


「ウソップ、教えてくれてありがとう。
私、サンジと話してくるね」

「お前、実際のところはどうなんだ?
我慢してるなら、この際…」

「そんな事気にするようだったら
最初からサンジの事なんて好きになってないよ」

「NAME…」

「それにサンジは、肝心な所は心得てるから。」


じゃあ、サンジが倒れる前に行ってくる。
そう言って、私はダイニングへ向かった。


サンジはキッチンで、おやつの準備をしていた。
どんなに目が落ち窪んでも
頬が痩けても不穏なオーラを醸し出しても
料理には一切手を抜かないその手元では
また私たちを幸せにする一品が
今にも出来上がりそうだった。


「サンジ」


私が声をかけるとサンジの顔がゆっくりとこちらを向き
ぱあっと音がしそうなほど、
表情が明るくなりキラキラと輝いた。


「NAMEちゃん!」


お星様とハートを撒き散らしながら私の所へ
やってくるサンジは本当に可愛くて
唯一触れられる女性が私だけの今も
確かに悪くはない、と一瞬思ってしまったけれど
近くで見るとよりくっきりと浮き出ている目の下のクマに
ちくりと心が痛んで、気を取り直した。


「ねえサンジ。話があるんだけど」

「話?なんだい?」


サンジはこてん、と首を傾げた。
手は、私の両腕に添えられている。


「サンジ、我慢してるんでしょ」

「えっ…なんで分かったの」

「そんなの見たらすぐにわかるよ」

「そ、そうか…おれが今NAMEちゃんにエロい事を…」

「違うわ!!!!!」


突然鼻の下を伸ばしてトンチンカンなことを
言い出すサンジの頭をうっかり
思いっきり叩いてしまった。

NAMEちゃんの愛のムチは効くなァなんて
へらへらと笑うサンジに
申し訳ないと思う気持ちと呆れるような気持ちと
愛おしいと思う気持ちが入り混じって
溢れて止まらなかった。


私は思いっきり叩いてしまった
サンジの頭をゆっくりと撫でた。
サンジの頭を撫でるには、
思いっきり手を伸ばす必要があって
側から見ると、あまり絵になる姿とは言えないけれど。


「ごめんね、ちょっとあまりにも返事がアホすぎて。
…でもね、サンジ、これは真面目な話なの」

「…うん」

「ウソップから聞いたよ。
サンジ、私のために
女の子にデレデレするのやめたんでしょ」

「…あンのクソ鼻野郎…」


サンジは恨めしそうに
ダイニングのドアを睨みつけた。
今、悪寒に震えるウソップが見えた気がした。


「私が無理やり問い詰めたの。
サンジの様子が最近おかしいから」


サンジは、何も言い返せないというような顔で
口を真一文字に結んで気まずそうに斜め下を向いた。
私は、ため息をついた。


「なんで私に何も言わなかったの?
聞けばよかったじゃない、
そういうのが嫌なのかどうか」

「…嫌でも、
NAMEちゃんはそんな事ないよって言うだろ」


確かに、それはそうかもしれないと思った。
サンジもそうだけど、私も
自分の気持ちを抑えがちなところがある。


「…サンジの気持ちは嬉しいよ。
それに、確かに自分の彼氏が
他の女にデレデレしてるところを見て
平気な彼女なんていないのが普通だけど…」


やっぱり、とでも今にも言いそうなサンジの顔を
真っ直ぐと見つめて言った。


「でも私もサンジも、普通じゃないでしょ」


サンジはきょとん、と効果音が出そうな顔で
目をまん丸に開いていた。
こんな時でも可愛い、と思ってしまう私も大概重症だ。


「今まで散々女という女に鼻の下伸ばして
甘い言葉に騙されて痛い目見続けて。
終いには人魚の胸に抱かれて鼻血吹き出して
出血多量で死にそうになる姿見ておいて
それでも好きになってるんだよ。
普通じゃないよ」


私は笑ったけど、サンジは真面目な顔で
目が、すこしうるんでいるように見えるのは
気のせいかな。


「私は、そんなの最初から覚悟してる。
それに、こんな状態のサンジを見て、
平気でなんていられない」


サンジの目の下のクマに手を伸ばして
親指でゆっくりと撫でる。
消えろ、と想いを込めながら。
もちろんそんなので消えるわけがないんだけど。


「サンジが苦しんでたり
無理する姿なんて見たくないよ」

「NAMEちゃん…」

「私のためだと思うなら、
いつものサンジに戻って」

「でも…NAMEちゃんは嫌じゃないのかい?
俺は…俺だったら、NAMEちゃんが
他の男にデレデレしたりする姿は見たくねェし
その男を骨も残らねェくらい蹴り砕いて殺す」

「こ、怖いよ…」


サンジのその目は真剣で
嘘偽りがないのは一目瞭然で、
私は居もしない架空の男に同情をした。


「おれは、堂々とやきもちを妬く権利が欲しい」


平等でいたい、と大真面目にそんな事を言うので
私は思わず笑ってしまった。
サンジは、笑い事じゃねェと、少しいじけていた。


「分かった。分かった、じゃあ
ちょっとだけ制限つけよう。
それ以外は、元通りで。
そしたら堂々とやきもち妬いていいから」


私が他の男にデレデレするような日が
来ることはないけど、と内心思ったけど
それでは話が進まなそうだったので
心の奥に留めておく事にした。


「制限?」

「うん。デレデレしたり鼻の下伸ばしたり
ハート飛ばしたり…
とにかく、いつも通りのサンジでいていいよ。
でも…」


私はサンジの手を握って指と指を絡めた。


「好きになるのはだめ。スキンシップも。
あと…今のサンジみたいな顔、
見せるのもだめ」


今目の前にいる、眉毛を下げて不安そうな
情けない顔のサンジは、私だけが見れるサンジ。
ちょっと、泣きそうな顔も。


「…NAMEちゃんには…敵わねェな」


参った、とサンジは言って
指を絡めたままの両手を引っ張った。
その勢いで私の顔がサンジの胸に当たって
衝撃に咄嗟に目を閉じた途端
体が心地よい体温に包まれた。
サンジは私の背中に回した腕に力を込めて
私は、解かれた指が失った温もりを求めて
サンジの背中に手を回し、シャツをぎゅっと握りしめた。


最初は、確かに不安になるんじゃないかと思っていた。

いくら"そんな人"だからといって、
自分以外の女を追いかけ回してる姿を見続けるなんて。
でも、サンジは、私といる時は
私にしか見ない顔をたくさん見せてくれる。
サンジの私への想いを、いつも素直に伝えてくれる。
不安など全くない、と言ったら
それは確かに嘘になるけれど。

自分の不安や心配なんて後回しにするほどに
この目の前にいる愛しい人の笑顔と幸せを
心から願うほど、想いが強くなっているのが事実だった。


考えてみたら、本当に馬鹿馬鹿しい話だ。
恋人以外の女にデレデレするかしないかで
こんなに大騒ぎになるなんて。


なんだか可笑しくなってきて、
私は肩を震わせた。

抱きしめあって触れている体から
私の振動を感じたサンジは
「どうしたの?」と尋ねてきた。
私は「なんでもないよ」と答えた。

サンジがゆっくりと私の体を引き剥がし
私の目を見つめる。
サンジの目がこうなった時
この後に起こることを私は知っている。
それを受け入れようと目を閉じた瞬間


「サンジーーーーーー!!!!おやつーーー!!!!!」


「おいルフィ今は…!!!」


空腹に飢えた船長の大きな声と
私たちの状況を察していたであろう狙撃手の
船長を止めようとする必死の声が
ダイニングのドアを蹴破らんばかりの
勢いで突撃してきた。


「てめェら…!!」


サンジは邪魔をされた怒りのあまり
全身を真っ赤な炎で燃やし
渾身の蹴りを入れようと、
ルフィとウソップを追いかけて
ダイニングから飛び出していった。


私1人残されたダイニングに、
ナミとロビンが入ってくる。


「サンジくん…元に戻った…?みたいね?」

「うん、多分大丈夫だと思う」

「ああなるタイプだったのね、サンジって」


ナミは呆れながらも安心した様子で
ロビンは、面白いものを見るような顔で笑った。


「…これからも引き続き、愛情表現と
エロい視線が送られてくると思いますので
何とぞよろしくお願いします」


ぺこり、と頭を下げると
どんな恋人なのよとナミが言った。
私は本当にね、と言って、3人で笑った。


「んナミさァ〜〜〜ん!!!!
ロビンちゅわぁ〜〜〜〜ん!!!!
すぐおやつ準備するからね〜〜〜!!!!♡♡♡」


開け放たれたドアの向こうから
サンジの元気な声が聞こえてきて
私は胸を撫で下ろした。




END




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