原作沿い、WCI編です。
この世にずっと続くものなんて
存在しないって思って生きてきた。
でもあの月の夜に初めて、永遠を願ったんだよ。
目の前に広がる大海原みたいに
私達もずっと、どこまでも続きますようにって
そう、願ったのに。
「……帰れ
下級海賊共」
見たこともない程冷たい目で
私たちを見下ろすサンジは
私の知ってるサンジとはまるで別人だった。
私は何が起こってるのか理解できなくて
言葉が何も出て来なかった。
目の前にいるのは、
もしかしたら偽物かもしれない。
そう思いたいくらいに。
私達はホールケーキアイランドに到着する前に
まずショコラタウンに寄った。
そこで、サンジの婚約者だと言う女の子に出逢った。
名前はプリン。
それはそれは可愛らしくて、優しくて、料理上手。
謙虚で素直で、しっかり者で。
非の打ち所がない女の子だった。
それから私はずっと、胸騒ぎが止まらない。
そのプリンにサンジに引き合わせてやると言われ
ようやく辿り着いたホールケーキアイランドで
ビッグマム海賊団の幹部と戦う羽目になった。
ルフィは一晩中戦い続けて
ようやく抜け出せて
結納前のサンジの前に
なんとか辿り着くことができた。
そして、約2週間ぶりに会うことのできたサンジが
今、目の前でルフィを蹴飛ばし、
虫ケラでも見るような目で
私達を見下している。
「おれの名は
ヴィンスモーク・サンジ。
ジェルマ王国の王子だ!!
隠してた事は悪かったよ…!!
言えばお前らがみじめでね。」
サンジは、ちらっと私に視線を寄越した。
私はサンジに何か言おうと口を開いたけれど
すぐにルフィの方へと視線を戻した。
一瞬だったけど私を見た、その目には
何も映っていないようだった。
「ここにいりゃ金も兵士も召使いも使いたい放題…!
またあのくだらねェお前達の船に戻るのと
ここで「四皇」ビッグマムの美しい娘を妻に貰い
暮らすのとどっちが幸せなんて
比べるまでもねェよな!!」
頭が、どんどん冷えていく。
手足に力が入らない。
まるで、手足を縛られて、2度と這い上がれない
井戸の底に突き落とされたみたいだ。
「帰れ…名前なんだっけな」
ルフィを見てサンジは言った。
それはそれは、冷たい声だった。
「…!ふざけんな!!
何言ってんだ!?納得できるか!」
好き勝手に話していたサンジの言葉を
黙って聞いていたルフィがようやく声を上げた。
ここに来る途中に会った、サンジの弟が、
追い払うの手伝ってやるよと言ったけれど
サンジは「おれが追い払う」と言った。
「お前が海賊王になれるかどうかも…
疑わしいってのが本音だよ
乗るなら勝ち馬を選ぶのが人情だ」
私の知ってるサンジなら
絶対に口にしない言葉ばかりだった。
だってサンジは、誰よりも仲間を大切にする人だった。
仲間の夢を笑うやつを絶対に許さない人だった。
私はまだ、目の前で起こっていることを
受け入れることができずに
ただただその場で固まっていた。
「おい、そこの女」
突然呼ばれて、
私はゆっくり視線を上げる。
サンジは、私を見ていた。
「てめェもバカな女だな。
おれがお前みたいな女、
本当に好きになるとでも思ったのか?
めでてェ女だ。」
サンジは蔑むような冷淡な目で私を見ていた。
そして私を罵倒する声は紛れもなく、サンジの声だ。
でも、いつも私の名前を優しく呼ぶ声とは全く違った。
それでも目の前にいる男は、
明らかに本物のサンジだった。
認めたくないけれど、
それを実感せざるを得なくなってしまった。
「オイオイそいつがサンジの女かよ?
俺が相手してやろうか?」
サンジの後ろから、
サンジの兄弟たちの下卑た声が聞こえてきた。
みんな、サンジとそっくりな顔をしているのに
恐ろしく、温度を感じない顔をしていた。
そいつらに、品定めでもするような視線を送られて
私は、背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。
「やめとけ。
…暇つぶしにもならねェよ、こんな女」
サンジの後ろで、兄弟達がギャーギャーと笑っている。
楽しそうに、野次を飛ばし続けている。
脳震盪をおこしたのか思うくらい
頭がクラクラして、眩暈がした。
吐きそうだった。
「冗談やめてよサンジ君!!
何言ってんの!!?さっきから!!!」
ナミが声を上げると
サンジはゾッとするほど強く、冷たく
ナミを睨みつけた。
サンジがナミに対してこんな態度を取るなんて
絶対にありえない。
「…急な事で現実を受け入れて難ェだろ
"体現"してやるよ。
構えろ!!」
そう言ってサンジは
ルフィの顔を思いっきり蹴り飛ばした。
ルフィはサンジと戦う気はないと言って
構えなかったし、防御もしなかった。
ルフィの顔面は燃え、歯も折れて飛んでいった。
サンジは何度も何度もルフィを蹴りつける。
骨や肉が鉄で叩かれるような音がそこらじゅうに響く。
サンジの攻撃は全て本気だった。
こんな戦い、見たくなかった。
ナミがやめてとどんなに叫んでも
サンジはやめないし、ルフィもやめさせなかった。
サンジの粗砕がルフィの頭に直撃し
ルフィがついに倒れた。
私はその場に座り込んで動く事ができなかった。
周りに裏切りと言われる事を重ねて
今まで生き抜いてきたくせに
自分がいざこちら側に立った時に
こんなにも何もできない人間になるなんて
思ってもみなかった。
こんなにも心から信じて、好きになって
全て曝け出せた人は今までいなかったから。
これは、今までしてきたことの罰だ、と
自分を責めて理由をつけて諦めて手を引こうとする
悪い癖が顔を出した。
その時、私の横をナミが通り過ぎる。
サンジの方へと歩いていったナミは、
サンジの頬へ思いっきり平手打ちをした。
思い切りのよい音がそこらじゅうに響いた。
「さよなら
ごめんね、余計な事して…」
ナミの言葉を聞いて何かが切れたかのように
私の涙腺も壊れた。
今までピンと張り詰めて涙さえ出なかった感情の糸は
一度切れるともう止まらなくて
悲しくて、悲しくて、何も考えられなかった。
「NAME!あんたも何か言いなさいよ!
何で黙ってんの!?」
ナミが私に詰め寄る。
私は、ぼろぼろと涙を流しながら
首を横に振ることしか出来なかった。
サンジはそのまま何も言わず、猫車へと戻った。
「待てサンジィーーーッ!!!」
ルフィは傷だらけの体で必死に起き上がって叫んだ。
「…何が下級海賊だ…!
言いたくもねェ言葉並べやがって!!
ウソつくんじゃねェよ!!
こんなもんでおれを追い払えると思ってんのか!?
フザけんな!!!
おれの事蹴るだけ蹴っても!
痛ェのはお前だろ!!!!」
私はその場に蹲って泣いた。
何も言えずにただ泣くだけの自分が
情けなくて悔しかった。
私はどこまでも、無力だった。
「旅はまだ途中だぞ!!!
おれはここで待ってるからな!!!
お前が戻って来ねェなら
おれはここで餓死してやる!!
お前はおれの船のコックだから!!
おれはお前の作ったメシしか食わねェ!!!
必ず戻って来い!!サンジ、
お前がいねェと…!!!
おれは海賊王になれねェ!!!!」
泣きじゃくる私達と
叫ぶルフィを置いて
サンジはそのまま去っていった。
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