「……ルフィ。
ホントに待つ気?」
サンジが去ってから、
ずっと同じところに寝そべったままの
ルフィに向かって、ナミが言う。
ルフィはもう既に満身創痍。
このまま、本当に来るかどうかも
来るとしてもいつ来るかもわからないサンジを待つなんて
無謀にも程がある。
ルフィは餓死したとしても、
サンジのご飯しか食べないと言った。
このままじゃ、本当に死んじゃうよ。
「ねえ、NAME、あんたからも何か言って…
NAME?大丈夫?」
ナミは、じっと座って何も話さない私を心配している。
「…大丈夫。ありがと。
…ねえ、ルフィ」
「何だ」
「サンジはさ、やっぱり、あれ本気じゃないよね」
サンジがルフィを蹴り続けたあの時
私は一瞬、諦めかけた。
でも、その消えかけた心の火を
再び灯したのは、ルフィの放った
サンジを信じ抜いて、諦めない言葉だった。
いつだって、ルフィは私達の道標だ。
「当たり前だ」
「NAME…
でももし本気じゃないとしても
あんな酷いこと言われて、何とも思わないの!?」
「ショックだよ。めちゃくちゃショック。
あの瞬間は何も考えられなかったけど
ちょっと冷静になった今、考えたらやっぱり
サンジがあんな事言うなんて、
よっぽど追い詰められる
何かがあるんじゃないかって思えて。」
「NAME…」
ナミもきっとそれはわかってるんだろう。
でもだからと言って、あの状態のサンジが
このまま待つだけで、戻ってくるなんて
思えないのは、私も同じだ。
「…私、やっぱりサンジと直接話したい」
「その結果がアレじゃない!」
「でも、さっきは家族の人たちがいたでしょ。
そうじゃなくて…サンジと2人で話して
サンジの本当の気持ちを知りたい」
それができたら苦労しない、
ナミもきっとそう言いたいんだろう。
「私…お城に忍び込んできていい!?」
「ハァ!??!」
ナミが呆れたように私を見る。
「今日は結納って言ってたでしょ。
きっとその後なら、
さすがに1人になる時間もあると思う。
私1人なら…忍び込めるかもしれない」
このままじゃ
やっぱり納得できない。
「NAME!!」
今まで黙ってたルフィが私の名前を呼ぶ。
私は、振り向いてルフィを見た。
「行ってこい!」
「…うん!」
ルフィは地面に寝そべって
首だけこちらを向けて私に言った。
その目も声も力強かった。
「ちょっと…捕まんないでよ!?
どいつもこいつも勝手なんだから…!」
ナミは、止めても無駄だと悟ったようで
諦めたようにため息をついた。
私はナミに思いっきりハグをした。
「わかった。ありがとう!行ってくる!」
そう言って、私は城へと向かった。
無謀なことはわかってる。
でも、このままで諦められるわけがない。
私って意外と執着心強いんだなぁと、
こんな時なのに、初めて知る自分に苦笑いした。
超典型的なやり方だけど
その辺で適当な人を追い剥ぎして
従事者のふりをしてホールケーキ城に忍び込んだ。
ベーシックが1番強い。
城の中に入ったはいいものの
当然、サンジがどこにいるか検討もつかなかった。
そもそも、どこに何があるかすらもわからない。
でもそこはさすがホールケーキ城、
そこいらに呑気に喋るお菓子やクリームがいた。
聞き耳を立てながら
仕事をしているふりをして散策をする。
すると、わざとらしく聞こえる内緒話で
プリンの話題が出てきた。
私はそっと近づき、聞き耳をたて、最も簡単に
彼女の部屋の場所を特定する事ができた。
ただ、この雰囲気からして
恐らく…いや確実に、罠だろう。
そう思ったけれど乗らない手はなかった。
罠でも何でも、今は藁にも縋りたいところだったから。
屋根裏に忍び込み、
恐らくプリンの部屋があるであろう場所の上に到着した。
床板をずらし、そっと部屋の中を覗き込むと
大きい(大きすぎるくらいの)ぬいぐるみや
ふわふわのソファや家具など
いかにも可愛らしい、お姫様の部屋。
本当に、そこにはプリンがいた。
そして、その隣にはサンジ。
2人は、深刻な様子で話をしていた。
サンジはボコボコに殴られて腫れ上がった顔をしていた。
ルフィは全く攻撃をしていなかったのに。
一体、サンジをあそこまでボコボコにできるやつなんて
どこのどいつなんだろう。
サンジは、プリンに自分と家族の話をしはじめた。
それから、私達仲間と、東の海にいるサンジの育ての親の
命を守るために結婚を決意せざるを得なかった事も。
その話をするサンジの様子は、
私が知っている、サンジだった。
サンジを苦しめる、ジェルマの奴らは
絶対に許せないし腑が煮え繰り返ったけど
それでもそれ以上に、
さっき私達の前に居たあのサンジは
私達を守るために、遠ざけるために
嘘をついていたという事実に心から安心した。
私のこと、嫌いになったわけじゃなかったんだ。
13年前まで地獄にいて、また帰ってきただけだ、
おれの冒険は終わりだ、とサンジは言った。
そんな地獄から引き摺り出してあげるから
私達と一緒にまた冒険をしよう
まだ、夢は叶ってないんだから
終わりだなんて、言わせないよ
そう伝えるために、今すぐここを飛び降りて
サンジを説得しようと構えた。
でもその瞬間、プリンが涙を流し、
サンジに縋り付いた。
私は驚いて、体をすぐに動かすことができなかった。
「わ…!!私は……!!
ザンジざん…!!
私との結婚は…!!!
地獄にはさせませんよ!!」
本能的に、サンジをとられる、と思った。
突然、雷が鳴りはじめた。
稲妻が走り、雷鳴が鳴り響く中
サンジは、プリンを抱きしめて言った。
「君は……"救い"だ
ーーもし…おれでよければ」
世界の終わりのようだと思った。
金縛りにあったかのように体が動かなくなって
耳を塞ぐ事もできずに
ただ、その言葉を聞くしかなかった。
私には、まるで死刑宣告のように絶望的な言葉だった。
「明日…
結婚しよう」
その瞬間、何者かに後ろから頭を殴られた。
遠ざかる意識の中、頭に浮かんだのは
やっぱりあの時見た、月とサンジの言葉だった。
薄い雲がかかって、マシュマロみたいに輪郭がふわふわと
今にも溶けていきそうな月。
昼間はカンカン照りだったけど
明日は雨になる、ナミがそう言ってたから
昼間に急いで洗濯物をまとめて洗って干した。
その海域は比較的安定してたから夜の航行はせず、
錨を下ろして停泊することになって
私が、不寝番の日だった。
サンジが夕食の時、夜食を持っていくって言ったけど
まとまった睡眠がとれない事も多いから
眠れる時に寝て、と言って、私は断った。
でも、サンジは見張り台にやってきて
夜食は作ってないよって言ってコーヒーだけ持ってきた。
そんなの屁理屈だ、って私は言ったけど
本当は嬉しかった。
サンジが持ってきたカップは、2つあった。
私達は、恋人である前に仲間だから
節度を持った付き合いをする、そうお互いに決めた。
10人のクルーが一緒に過ごすこの船で
なかなか2人っきりの時間を過ごすことができなかった。
貴重な2人だけの時間。
想いを交わし合った恋人達がようやく2人っきりになれて
することなんて、大体決まっている。
初めて愛し合った後に月を見ながら、夢を語り合った。
夢を語るサンジの目は、初めて見たわけでもないのに
今まで見たどの目よりも、
綺麗で、澄んでいるように見えた。
夢が、一つ増えたんだ。
サンジはそう言った。
NAMEちゃんと、ずっと一緒にいることだよ。
そんな、ありきたりな言葉が
そこはかとなく嬉しかった。
ずっと、とか永遠に、とか
そんな無責任な言葉、好きじゃなかったはずなのに。
サンジが言うと、絶対そうなるって確信できた。
初めて、そう思えた。
ねえサンジ、あの時言った言葉も、嘘だったの?
ーー頭が痛い。
頭痛で意識がゆっくりと戻っていく
そして、ナミが私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「NAME!?!やっと起きた…!!」
目を開けると、両隣にルフィとナミ。
そして私達は3人揃って手を縛り上げられ
牢の中に入れられていた。
「おい!NAME!サンジはどうだった!!」
サンジの名前を出されて、私は何も言えずに俯いた。
私の顔を見て、ナミは何かを察してため息をついた。
ルフィはしつこく聞いてきて、ナミに怒鳴られていた。
その時、部屋にプリンが入ってきた。
「え…プリン!?」
プリンは私達を監視している男に、
話をしたいから檻の中に入れてくれと頼んでいた。
私は、さっき見てしまったシーンが蘇って
プリンのことをまっすぐ見ることができなかった。
プリンは何も悪くないのに
むしろ、サンジを救ってくれてありがとう
サンジのことをよろしくとでも
言うべきなのかもしれない
でも生憎、私はそこまで大人にはなれなかった。
「ルフィくん…ナミちゃん、NAMEちゃん…
兄や姉に…ひどいことされたんでしょ?
ごめんなさい…!!」
檻の中に入ってきたプリンは
私達を心配してくれている。
そんなプリンを見ると、心が痛んだ。
「約束の海岸へ行けなかった事も…
本当にごめんなさい…!」
プリンは、申し訳なさそうに謝り、
私達の前に跪いた。
「私……サンジさんに
プロポーズされたの」
「…!!」
プリンは嬉しそうに
少し照れくさそうに笑っていた。
プリンは、私があの場にいたことは勿論
私がサンジの恋人だった事も、恐らく知らない。
ナミが、私に視線を寄越しているのが
横目にもわかった。
私はナミの方を見る事も
プリンを見る事もできずに
唇をかみしめてただ俯いていた。
そのままプリンは話し続けた。
「彼は私を気づかってくれてるだけだよね…
私はみんなを苦しめてる…
ーーだから安心して
私…結婚しないわ」
「??」
どういう事…!??
頭にクエスチョンマークがいくつも浮かんだ。
そしてプリンは、私達に近づき、小さいけれど
はっきりと聴こえる声で、耳打ちをした。
「聞いて。
なぜ結婚しないかと言うとね…
ーまんまと私にホレたあのバカは…!
私が式の途中で…撃ち殺すからよ…!!
あんた達もどの道生かしちゃおかない」
そしてプリンは、私により近づいて
さっきよりも楽しそうな声で言った
「自分の彼氏が他の女にプロポーズする場面を
目撃した気分はどう?」
私は、弾かれたように顔を上げた。
プリンは、笑っていた。
怒りで頭が沸騰しそうだった。
今すぐぶん殴りたいくらいだったけれど
縛り上げられた腕がそれを許さなかった。
「おい!!待て!!プリン何言ってんだ!?」
ルフィが怒鳴る声が遠くに聞こえる。
私は、自分の身体中の血が沸騰したかのような
音が耳の奥にうるさく響いて
周りの音が小さく聞こえていた。
「…この縄をほどいて!!!
ブッ飛ばしてやる!!!!ふざけんな!!!!」
私は気づいたら大声で怒鳴り散らしていた。
口の悪さなんて気にしてる場合じゃなかった。
「さよなら
憐れなネズミ達…」
「待ちなさいよ!!!戻れ!!!」
プリンは私の罵声も全く気にならない様子で
私達の元を去っていった。
息も上手くできない程に、怒りが頂点に達して
身体中の震えが止まらなかった。
涙も、ぼろぼろと溢れてきた。
「…なんなのよ!!!」
私は唯一自由になる足をばたつかせて
もがいたけど当然、そんな事で
ここから出れるわけもなかった。
「あいつ最初からおれ達をハメる気だったんた!!
サンジに何の恨みがあるんだ!!!
フザけんな!!!!」
ルフィもプリンの話を聞いて怒り狂い
今ここで逃げ出すしかないと暴れはじめた。
ここで死ぬよりもマシだと
腕をちぎって逃げ出そうとしている。
私も腕をちぎるしかないのかと
半分覚悟しかけたその時
「"五千枚瓦"……"正拳"!!!!」
監視の男が一瞬で吹き飛ぶ。
そこに現れたのは、ジンベエだった。
「おお!ルフィ!ナミ!NAME!!
捕まったと聞いてな…
無事でよかった、話は後じゃ!
まずーーそこ出るか?」
「「「出るーーーっ!!!」」」
私達は無事、両手を残したまま脱出する事が出来た。
戻る
Titolo