「久しぶりだなァNAME。
シャボンディ諸島では会わなかったな」
「…逃げてたのよ。バレたくなかったから」
ここは、ホールケーキアイランドの北西
カポネ・G・ベッジ率いるファイアタンク海賊団アジト。
目の前にいるベッジは笑いながら葉巻を蒸している。
私が西の海にいてまだ運び屋をやっていた頃
当然、5大マフィアのボスだった彼とも関わりがあった。
マローノの首も狙い続けていて
私に手を組まないかと言ってきた事もあった。
色んなファミリーのボスの首ばかり狙い
その後のファミリーのバラバラになっていく
様を楽しむイカれた男。
でも、それだけの男じゃない事を私は知っていた。
「ジンベエがお前を連れてきた時ァ驚いたよ。
お前の裏切りは西の海でも有名だったが
まさかマローノを裏切って麦わらの一味とはなァ…
聞いたがお前、今は"黒足"の女なんだろ?
面白ェ事になってんじゃねェか!!」
「そっちがビッグマムの傘下に
入ってることの方がびっくりしたわよ。
結婚して、子供まで出来てるなんて。
でも、海賊になっても相変わらずみたいね。
…ウチの船長の首だけは、絶対に取らせないけど。」
「そりゃァ"麦わら"の出方次第だ。
まァ、ゆっくりしていけ。」
ジンベエがルフィに作戦を伝えに行く間
私はベッジ率いるファイアタンク海賊団の
アジトで待つ事になった。
ルフィが反対したらどうするのかと言ったら
その時の為にもここにいてくれと言われた。
さすがジンベエ、頼りになりすぎる。
ルフィは、ちゃんとサンジを連れてきてくれるだろうか。
…きっと、大丈夫だよね。
用意された控室に案内され、
ドアを開けようとした瞬間
入り口付近から、突然騒がしい声が聞こえてきた。
何事だろうと、声のする方を
壁に隠れてこっそりと伺った。
「おい落ち着け!!」
「お前さん、交渉決裂させる気か!?」
ファイアタンクのやつらの声に紛れて、
ジンベエの声が聞こえて、
さらに一歩、声の方へ近づいた。
「うるせェ!!大事な人が人質になってんだ!!
黙ってられるか!!!」
鼓動が激しく脈打った。
聞こえてきたのは
サンジの声だったからだ。
大事な人…?
心臓がギュッと締め付けられるようだった。
プリンの、事なのだろうか。
やっぱり、プリンの正体を聞いたとはいえ
諦めがつかないのかもしれない。
そう思った。
でも、人質って一体どういう事だろう?
私がここに来ている間に、何があったんだろう。
頭の中でいろんな思考を駆け巡らせていると
身を隠すことから意識が逸れて、
ふらっと足を踏み出してしまい
隠れていた柱から、
つい身を乗り出してしまった。
ハッと我に帰り、見つかる。
そう思って隠れようとした瞬間、
「NAMEちゃん…!?」
名前を呼ばれ、声のする方へ弾かれるように顔を向けた。
私の名前を呼んだのは、他でもない、サンジだった。
私はどんな顔をしてサンジを見たらいいか分からず
その場に立ち竦む事しか出来なかった。
すると、ずんずんとものすごい勢いと形相で、
サンジがこちらへ走ってきた。
「NAMEちゃん!?大丈夫かい!?
怪我はしてない!?アイツらに何かされなかったか!?」
サンジは私の両肩を強く掴み、
嶮しい顔で私の顔を覗き込んで捲し立てた。
「えっ?!だ、大丈夫、だけど…え?」
「え?」
サンジは青筋を立てて目を丸く見開いて
冷や汗をかいていた。
それでも私は、久しぶりに目の前で見たサンジに
愛おしさを感じていた。
ふと、サンジの背後から視線を感じたので
顔を少しずらして見ると、
ジンベエの背後からナミが顔を出し
悪戯な笑みを浮かべていた。
そしてジンベエは、
少し呆れたような顔で苦笑いをしていた。
私は、その様子で大体の経緯を察して、ため息をついた。
私のため息と表情につられ、
自分の背後を確認したサンジも
恐らくナミとジンベエの様子で
事態を把握したようだった。
「ナミさん…勘弁してくれ…」
そう言ってこちらを振り向いたサンジは、
私の顔を見るや否や、強く掴んでいた私の肩から手を離し
一瞬で引き攣った顔になり、後ろに飛び退いた。
「す、すまねェ…」
サンジは、あからさまに気まずい顔をしていた。
目線をあちこちに動かして、私とは決して合わさずに
さっきまで私に触れていた手を所在無さげに動かして
明らかに狼狽していた。
私はそんなサンジの様子を目の前にして
そして、さっきの玄関でのサンジの発言を思い出して
胸の中にあたたかい感情が
じんわりと広がり染み渡るのを感じた。
「サンジ…」
私はサンジに一歩近づいて、手を伸ばした。
私の右手がサンジの左腕に触れると
サンジはびくっと震えて固まった。
まだ、私と目を合わせようとしてくれない
サンジの腕を掴んで
先程案内された控室へ向かおうと、踵を返した。
「ちょ、ちょっとNAMEちゃん…!?」
サンジの焦るような声が背後から聞こえたけど無視をして
私はサンジの腕を引いて、控室へ入った。
ガチャン
ドアの閉まる音がやけに響いて聞こえた。
私は後ろ手にサンジの腕を掴んだまま、深呼吸をした。
サンジはずっと、私に腕を掴まれていて、
振り解く事はしなかった。
ゆっくりと、掴んでいた手を離し後ろを振り向いた。
目の前にいるサンジは俯いていたけれど
ちゃんと、サンジだった。
本物の。私が知っている、サンジ。
サンジはまだ、眉を顰めて目を伏せて唇を歪ませて
気まずい顔をしていた。
私の目を見る事ができず、俯いたまま
それから、頭をがしがしと掻いていた。
「サンジ…」
いざサンジを目の前にすると
何を言ったらいいのかわからなくて
私はゆっくりとサンジに近づいて
サンジの両腕に触れた。
サンジの体がまたぴくっと揺れた。
私はサンジの背中に手を回して
そのままぎゅっと抱きしめた。
サンジの手はまっすぐ下に下りたままで
私の背中を抱きしめ返してはくれなかった。
「NAMEちゃん……おれは……
君を、抱きしめる資格がねェ」
私は何も言わずに、サンジに抱きついたまま首を振った。
サンジの胸に顔が擦れて
そのたびにサンジのにおいがした。
「本当にごめん。
謝っても謝りきれねェ…
謝って許される話じゃねェのもわかってる。
だからもう、おれは…
君の彼氏で、いられねェ…」
サンジの声が震えていた。
消え入りそうな声だった。
だから、私はまた首を振って言った。
「嫌」
「えっ?」
「別れるなんて絶対嫌。」
「で、でもNAMEちゃん…」
「大切な人って…私の事?」
「…っ、」
さっき、玄関で叫んでた事。
怒り狂って、必死な顔をしてた事。
私の思い違いでない事を必死で祈った。
色んな感情が溢れ出て
私も声が震えていた。
涙も、止まらなかった。
私はサンジから体を離して
サンジの顔を真正面から見た。
やっぱり、やっぱりサンジの事が好きだ。
諦めるなんて、別れるなんて
やっぱり絶対できない。
「資格があるとかないとか
…そんなこと知らない!
サンジがどうしたいのかが聞きたい。
私は…
サンジが私のことを好きなのかどうかを聞きたい!」
サンジは、目を見開いた。
眉間に皺を作りながら私を見ていた。
食いしばった唇と肩が震えていた。
「私は、…好きだよ。
サンジがもし、私の事をもう好きじゃなくても。
私はサンジの事が好き。
サンジじゃないと無理だよ。」
その瞬間、サンジの目が潤んで
ついに涙が溢れ出てきた。
両手で顔を擦りながら、サンジは泣いた。
「ねえ、サンジ…
サンジは私の事、もう好きじゃなくなった?
本当のことを教えて…!」
「おれは…、おれも…
NAMEちゃんのことが好きだ…!!
…っ本当は、…やり直してェし
今ここですぐに抱きしめてェと思ってる…」
私は心が愛おしさでいっぱいになった
もう絶対に、手放したくなくて
またサンジを抱きしめた
私の顔はサンジに負けず劣らず、涙でぐちゃぐちゃで
さっきシャワーも浴びてメイクも直して
綺麗にしばっかりなのに台無しだ
「だったら、私の気持ちとか、資格とか
そんなくだらないこと言ってないで…
やり直そうって言って抱きしめてよ…!」
「…っ!」
サンジの息を飲む音が聞こえて
ゆっくり、私の背中に腕が周ってきた。
いつもより遠慮がちに、少しだけ力が入って
私の頭の上にこつん、とサンジが顎を乗せる
私はこの、自分の頭の上に
サンジの顎が乗る感覚が大好きだった
サンジに抱きしめられているんだ、と実感する感覚。
「NAMEちゃん…
おれは………」
サンジは躊躇いながら
言葉を確かめるようにゆっくり
でもはっきりと言った。
「これからも、君の隣にいたい。
君が好きだ…!!
…おれと、やり直してくれねェか…!!」
サンジがいなくなってから
心の真ん中がぎゅっと固くなってるみたいに苦しかった
それが今、やっと解けて、
血が巡り始めたような気がした。
サンジが好き。大好き。
その想いがどんどん溢れて止まらなかった。
「当たり前だよ…
私もずっと、サンジの隣にいたい」
私の背中にまわったサンジの腕の力が強くなる。
私もできる限りサンジにくっついていたくて力を込める。
ふたりでぎゅうぎゅうと抱きしめ合っていた。
「サンジ…!ちょっともう…くるしい!」
いよいよ苦しくなってサンジの背中をどんどんと叩く
「ご、ごめん」
焦って手を離したサンジと目があって、
思わずふたりで吹き出した。
2人で笑い合えることがこんなに幸せだなんて。
どんなことでも、当たり前なんてないんだよね。
「NAMEちゃん。
本当に、すまねェと思ってる。
今更言い訳するのも情けねェ話だけど…」
「もういいよ。わかってるから。
あ〜…でもちなみに私、
サンジがプリンにプロポーズする所も
見ちゃったんだよね〜…」
「えっ!??!」
サンジの顔が真っ青になる。
「すっっっっっごい傷ついたけど…」
そう言ってサンジをわざとらしく睨みつけると
顔面蒼白のままワナワナと震え出して
いよいよ可哀想になってきた。
「もう、大丈夫だよ。
あの状況であんなこと言われたら、当然。
もし私でもああしてたと思う。
ただのヤキモチだから」
そう言って笑った。
ショックだったのは本当だけど
しょうがないと思ってるのも本当。
サンジがさっき、泣きじゃくりながら
私を好きだと言ってくれた姿がすべてだから、
もう大丈夫。
「NAMEちゃん…」
サンジが私の手を取って、
確かめるように、優しく撫でる。
「うん?」
「キスしたい」
「え!?!」
サンジのデリカシーのなさすぎる発言に
驚いて声が出たけどその顔は真剣だった。
「ごめん…でも…
NAMEちゃんの事が愛おしすぎて…」
真面目な顔で言うから、途端に恥ずかしくなって
私の顔は赤くなる。
「…そんなの…いちいち言わなくていいよ」
サンジが握りしめている手元に視線を動かす。
私の手を握っていたその両手が
ゆっくり私の手を離れ、今度は私の頬を撫でる。
それにつられるように視線を上げると
サンジと目が合う。
私をじっと見つめるサンジの目が
どんどん熱を持ちはじめた。
サンジの唇と私の唇が
ようやく触れた時、
また私は涙を流した。
サンジはそれに気付いて
また私を強く抱きしめた。
「ナミさんに、NAMEちゃんが
人質になってるって聞いて血の気が引いた。
元マフィアだから…もしかしたらって思って…
おれを連れ戻しにここに来たせいでNAMEちゃんまで
捕まっちまうなんて、って…」
私がきっと、過去関わっていたマフィアの元へ
引き渡されると思ったんだろう。
ナミのやつ、タチ悪い嘘ついて、と思ったけれど
内心、ナミに感謝した。
協力してくれた、ジンベエにも。
「サンジ、私の事守ってくれるんでしょ?
近くにいて守ってくれなきゃ、ダメだよ」
そう言うと、サンジは何も言わず、
私を更に強く抱きしめた。
「さっさとお茶会、ぶっ壊そう。
それで、一緒にサニー号に戻ろう」
私はそう言って、サンジに負けじと抱きしめ返した。
もう二度と、離れないように。
END
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