「敵襲だ〜〜!!」
ゆったりとした空気を一瞬で引き裂く叫び声で
心地よい微睡から引き摺り起こされた。
クルーの懸賞金が上がるにつれ、
賞金目当ての敵に襲われる回数が増えるのは当然の事で。
こうやって、のんびりと過ごす時間を邪魔されるのも珍しい事ではない。
「おっしゃー!!来いっ!!」
我らが船長は当然のことながら恐れなど微塵もなく
むしろ楽しむように敵を迎え撃つ。
ルフィをはじめ、うちの船には高額賞金首が多数いて
総合賞金額がかなり高いから
数で勝負してくる賞金稼ぎが多い。
といっても、私の仲間達は、強い。
相手がいくら数を揃えてきても私達は負けはしない。
今日の賞金稼ぎたちもかなりの数を揃えて攻めてきた。
名の知れた賞金稼ぎもちらほらいたけれど
うちのクルーは揃いも揃って強者だから
心配するレベルではなかった。
でも、今日はとにかく数がすごく多くて
いつもはコソコソと影に隠れて見守っている私達にも
そろそろ出番がやってきそうだった。
「ねえ…そろそろ出て行った方がいい?」
「そうねえ…もう少しで終わるだろうけど
ちょっとあっちの空の雲行きが怪しいから
さっさと終わらせて、船動かしたいのよね」
ナミが、2時の方向を見つめながら行った。
ナミがそう言うなら、確実に天候が崩れる。
一刻も早く、終わらせるべきだ。
「ってことでNAME、行ってきなさい」
「え!?私!?」
「あったりまえでしょ!私は天候見ておきたいし。
それにこの前は私が出てったんだから次はアンタの番よ」
この前はジャンケンでナミが負けたんじゃん…!
と思ったけど、天候を見るのがナミの仕事で
つまり、そうなるとここは私が出るのが当然の流れ。
私はため息をつきながらも
スカートの腰ベルトの裏に隠した武器を確認する。
「わかった。じゃあ行ってくる…」
「ファイト!NAME!」
私の武器は接近戦に向いているものが多い。
あんまり、こういう乱戦は得意じゃないんだよなぁ。
隠れてたダイニングのドアからこっそり甲板へと出る。
なんだかんだでかなり数は減ってきてるから
終わるのはもう時間の問題だけど
ナミが急げというから
時間短縮に少しでも貢献できるようにと走る。
10人くらい船から突き落としたかなというところで
今までの雑魚達よりも少し骨のありそうな男と対峙した。
「もう、あんた達の負けだよ。
潔く諦めたら?」
「うるせェ!主力の首がだめなら
お前の首だけでももらう。
脅しの材料くらいには使えるだろうからな」
男はそう言って素早く私に殴りかかる。
ただ私は、暗器をいくつも仕込んでいる。
丸腰で迎え撃つふりをして
武器を突き立てるのは容易かった。
自分より体の大きい男でも、
勝てる戦い方はきちんとある。
「女だからって、油断してたでしょ?」
男を気絶させたところで、突然船がぐらっと傾いた。
遠心力で足元がふらつく。
どうやら、急旋回をしたようだった。
周りを見ると、ほとんど敵は倒れていて
手の空いたウソップやチョッパーやブルックが
ナミの指示で船を動かしていた。
「あ、ナミ!終わったよ!」
「おつかれ!こっちも、そろそろいいわよ。
これだけ方向変えたから…NAME!!!」
ナミが驚いた様子で私の名前を呼んだ。
一体なんなんだろう?と思った次の瞬間
焦げ臭い匂いがして、背後がどんどん熱くなっていく。
さっき気絶させたはずの男が目を覚まして
倒れたまま苦し紛れに、私の髪に火をつけたのだった。
「あっつ!!??!ぎゃー!!」
「NAME!!!」
混乱した私は走り回って
自分の髪の毛を叩いて叫んでいた。
つけられた火は、大きく燃えていたわけではないものの
ちりちりと少しずつ燃え広がっていた。
「ちょっともうっ…シャワーテンポ!!」
完全に油断していた私は、これしきのことで
冷静な判断をすることも出来ずに大騒ぎしていて
急いで駆け寄ってくれたナミのシャワーテンポで
ようやく完全に鎮火することができた。
「ナミ〜!!!ありが…」
「悪魔風脚•首肉シュート!!!!!」
「!?!」
涙目になりながらナミにお礼を言おうとした私の声は
突然、目の前を走った炎と衝撃でかき消された。
サンジがどこからか凄まじい速度でやってきて
私に火をつけた男を蹴り飛ばしていた。
「テメェ……骨も残さねェから覚悟しとけ…」
修羅のような空気を纏ったサンジが
もう既に、ボロボロになっている男を更に
何度も何度も蹴り付けていた。
視線だけで並大抵の人間なら泡を吹いて
倒れそうな程の恐ろしさで。
「サンジ!!私は大したことないから!!」
このままじゃ勢い余って船まで壊されてしまいそうだと
判断した私はサンジの元へ駆け寄った。
「サンジ、大丈夫だから!
ごめん!私が油断してたのが悪いの!」
「NAMEちゃん」
私はサンジの気を落ち着かせようと
焦って早口で捲し立てる。
ゆっくりとこちらを振り向いたサンジは
妙に落ち着いた様子の声色で
一周回って恐ろしくて、私は背筋に冷たい汗をかいた。
「さ、サンジ、」
「NAMEちゃん…!!!」
「へっ!?」
突然大声を上げて、目を丸く剥いてぎょっとした顔で
私の名前を呼ぶから、
私はびっくりして間抜けな声をあげた。
サンジの足元では、先程の男が血塗れで
見るに耐えない姿で横たわっていた。
「こ、こここここ、これ…」
サンジはワナワナと震えながら私に手を伸ばす。
そしてサンジが手を伸ばした先には、
ちりちりと黒焦げになった、私の髪の毛があった。
「あ、これは」
焦げたといっても私の髪の毛は元々長くて
頭皮に全然影響はなかったし
髪の毛から背中に燃え移ることもなかった。
とはいえ、確かに15センチくらいは
燃えてしまっていたので
もうロングヘアーは卒業しないといけない
くらいには思ったけれど
これくらいで済んでよかったと思う。
そう伝えようとすると目の前のサンジは
この世の終わりのような顔をしていた。
「さ、サンジ…?」
「NAMEちゃんの…綺麗な髪の毛が……」
サンジの周りの空気がざわざわと変わって
また体から炎を出しそうだったので
私は焦ってサンジの両肩を掴んだ。
「サンジ…!」
それで落ち着いてくれるかわからなかったけど
力いっぱいサンジの肩を押さえて、じっと目を見つめた。
サンジの体から迸る怒りの炎が少しずつ落ち着いてきて
私も安心して、そっと力を抜いた。
「落ち着いた…?よかった。
もう、そんなに怒らなくても…」
私が安心して少し笑っていると
サンジは突然私の左手首をぎゅっと掴んで歩き出した。
「NAMEちゃん、来て」
どこに行くかも、何をするかも言わずに
甲板を出て行こうとするサンジに焦って
私は周りを見渡した。
「で、でも片付け…」
みんなが、戦闘の後の片付けをしていたから
手伝わなきゃいけない。
いつもならそれを放っぽり出して
どこかに行っちゃうサンジではないのに。
「あー、いいわよ、行ってきて」
私がきょろきょろしていると
目が合ったナミが、私とサンジを交互に見て
何かを察したようにひらひらと手を振った。
「ごめん、ナミさん。ありがとう」
私は、2人が何のことを言ってるのか
わからなくて首を傾げた。
ナミもサンジも、勝手に2人で意思疎通してるみたいで
少し、心がもやっとした。
サンジが私の腕をひっぱって
ダイニングへと向かう階段を登る。
歩いている間、サンジは何も言ってくれなくて、
目に映る後ろ姿は
怒ってるようにも悲しんでるようにも見えた。
ダイニングに到着するとサンジは
ダイニングテーブルの椅子を
テーブルから少し離れた場所に置いた。
「ここに座って?」
「うん…」
サンジは、珍しく少し話しかけにくいオーラを纏っていて
私は、まだ頭にはてなが浮かんだままだったけど
サンジに言われるがまま何も言わずに、椅子に座った。
私が椅子に座ったのを確認すると
少し待ってて、と言ってサンジは
冷蔵庫から取り出したアイスティーを
グラスに注いで持ってきた。
一瞬で用意したのに、
ちゃんと薄く切ったレモンが浮かんでいた。
「すぐ戻るから、飲んで待っててくれる?」
「…わかった」
わけがわからないまま返事をすると
サンジは、ダイニングから急いで出て行った。
ひとり、ダイニングに残された私は、
今の状況がまだ飲み込めないまま
とりあえずサンジが用意してくれた
レモンティーを啜った。
ただ冷蔵庫から冷えたアイスティーを出して
注いだだけで
何でこんなに美味しいんだろう。
アイスティーは香り高くて、
乗せられたレモンも瑞々しかった。
走ってきたのか少し息を切らして、
すぐにサンジは戻ってきた。
「ごめんね、待たせて」
「ううん、全然待ってないよ。
アイスティー、美味しかった!」
そう言うと、よかった、と言ってサンジが笑った。
その笑顔はいつものサンジで、少し心が落ち着いた。
「ねえ、これから何するの?
片付けもせずにきちゃったけど…」
私が聞くと、サンジは抱えてきたカゴの中から
大きいタオルを出して、私の肩にかけて
それからハサミを取り出した。
「あ」
ハサミを見て察した私が思わず声を出すと
サンジはこくりと頷いた。
「NAMEちゃんの髪、おれに整えさせてくれない?」
少し首を傾げるサンジの顔は
笑っているけど少し悲しそうだった。
サンジは、まだ燃えてしまった私の髪を
惜しんでくれているのだろうか。
なんだか、自分のせいでこんなことになっておきながら
呑気にしている自分を恥ずかしく思った。
「私が気を抜いてたせいで、
サンジに迷惑かけちゃった…ごめんね」
そう言うと、サンジは首を横に振った。
「これは、おれがしたいからしてるだけだよ。」
サンジはいつもそうやって、
私に気負いさせないような言い方をする。
私はそのたびに、胸がぎゅっと苦しくなるのに。
「いいかな?」
「もちろん」
そう言うと、サンジは「ありがとう」と言った。
ありがとうは、私の台詞なのに。
サンジが私の髪を、櫛で鋤く。
でも、燃えてしまって
毛先がちりちりになってしまっている私の髪には
すんなりと櫛が通らなくて
まずは、毛先を切ってしまうしかなかった。
「ばっさりいっちゃっていいからね」
「うん…」
サンジは、ハサミを持ったまま動かなかった。
私の髪を触りながら、何かを考え込んでるようだった。
「サンジって、
そんなにロングヘアーが好きだったっけ?」
「え?」
私が尋ねると、サンジは目をまんまると見開いて
当惑しているような顔をした。
「めちゃくちゃ名残惜しそうにしてるから」
「あー…いや、ロングヘアーが好きっていうか…」
「うん?」
サンジは、少し目を泳がせて言い淀む。
私は首を傾げて、サンジの言葉を待った。
「NAMEちゃんの一部が
理不尽に傷つけられたことが許せねェ」
「え!?」
サンジは大真面目な顔で、
怒りを滲ませながらそんな事を言った。
けど、ちょっと大袈裟すぎて、びっくりしてしまった。
「え?いや…気持ちは嬉しい…?けどそんな大袈裟な…」
「大袈裟なんかじゃないさ。
それに、ナミさんがすぐに消してくれなかったら
取り返しのつかない傷がついてたかもしれない。」
「でもほら、実際たいしたことにならなかったから!」
「それに俺が近くにいながらこんなことになるなんて…」
「あ!それは無し!」
「え?」
サンジがすごく悔しそうな怒ったような顔をして
自分のせいで、などと言い出すから
私はサンジの言葉に被せてそれを静止した。
「そういうのは無しだよ。
戦いで負った自分の傷は、自分の責任。
戦うってそういうことでしょ?
今回は、私の詰めが甘かったのが原因なの。
だからそういうことは言ったらだめ。」
「…わかった」
ここだけは譲れない、と
私がサンジの目を強く見つめて言うと
サンジは分かったと言いながらも
すこし拗ねたような顔をしていて
全然納得いっていない様子だった。
サンジの、こうやって悪くもないのに
自分に責任を課すところは
そのたびに、私をいつも複雑な気持ちにさせる。
守ろうとしてくれる気持ちは本当にすごく嬉しいけど
私が弱いせいで、負担をかけていると罪悪感を覚える。
…でも、そんな優しすぎるくらい優しいサンジだから
私は、好きになったんだけど。
「サンジ、ほら!私の髪、切ってくれるんでしょ?
かわいくしてね!」
私はくるりとサンジに背を向けて、軽く髪を振って
早くしてよと促した。
「…そうだね」
サンジが気を取り直したように笑って
私の髪の毛を束にしてゆっくり持ち上げる。
「切るね」
「はーい!お願いします!」
私はわざとらしく元気な声を出してサンジを笑わせた。
私の髪が燃やされて、
髪を切る羽目になった私が慰められるはずなのに
何故か私がサンジを元気付けようとしている
今の状態がおかしくて
なんだかむずがゆい気持ちになった。
胸の中がほわほわと温かい気持ちになる。
しゃきん、とよく切れるハサミの心地よい音が響いて
サンジの手から滑り落ちた髪の毛が
首筋にぱらぱらと当たった。
久しぶりの感覚に、何だか少し浮き足だった。
「わー!頭、軽い!」
「まだ、途中だから動かないでね」
「はあい」
サンジの手が動く触れる感触が
髪の毛を通して伝わってきて
すぐ後ろにいるサンジの体温まで感じる気がして
ドキドキして、ふわふわと浮かれた気分になってくる。
私にはもう、髪を燃やされて悔しいとか悲しいとか
そういった気持ちは、1ミリも残っていなかった。
「サンジの手ってすごいね」
「どうしたの突然」
サンジが少し笑いながら尋ねる。
サンジの声も軽やかで、
機嫌が良いように聞こえて何だか嬉しい。
「だって、料理もさ、美味しいだけじゃなくて
見た目も綺麗だし、見てるだけでもわくわくするし
髪の毛だって、みんなのいつも切ってるけど
すごい上手だもん。
なんか魔法みたいだなって」
我ながら子供っぽい感想だなと思ったけど
でも本当にそう思った。
「そりゃァ…あー…、ありがとう」
珍しく小さな声で返ってきた返事に
変なこと言っちゃったかなと不安になったけど、
すぐに思い出した。
サンジのこの反応は、照れてる時の癖だった。
いつからかそれに気づいて
実は褒められ慣れてないサンジを
私はとても愛しく思った。
でも、髪を切ってる途中だから振り向くことができない。
サンジの顔が見れなくてもどかしかった。
「おれは、NAMEちゃんの方こそ
魔法使いみたいだと思うよ」
「えー?!どこが?
魔女のおばあちゃん的なやつ…!?
性悪っぽいってこと!?」
私がショック!とばかりに声を上げると
サンジは声を出して笑った。
何で笑ってるのかはわからなかったけど
サンジが楽しそうに笑ってたからいいや、と思った。
我ながら、単純だ。
「おれがいつも、
NAMEちゃんに恋の魔法にかけられてるってことさ」
櫛を持つ手とハサミを持つ手、
両方で私の頭を優しく撫でて
すこし顔を近づけてサンジが言った。
いつもより耳に近い場所で、甘い声で言うものだから
私はぐん、と自分の体温が上がるのを感じた。
「ま、また!そういう事ばっかり言う!」
こんな軽口はいつもの事。
それでも私の心はいつも、
めげずに何度だって喜んで浮かれる。
「本当なんだけどなァ」
信じてないな、と言いながら笑うサンジは
私が信じていようといまいとお構いなしのように見えて
いつも悔しい気持ちになるけど。
それでもやっぱり、こういう軽口だって嬉しい。
サンジは上機嫌な空気を醸し出しながら
ハサミを進めていく。
さく、さくと細かく髪を切る音がダイニングに響く。
外からは、片付けも終わったのか
ぎゃーぎゃーと元気よく
騒いだり笑ったりする声に混じって
何をしでかしたのか、
ナミに怒鳴られる声も小さく聞こえてきた。
「アイツらまたナミさんを怒らせやがって…」
「ふふ、なにしたんだろ」
ぱさぱさ、とサンジが私の髪に手を入れて
横に振って切り屑を落とす。
サンジのあたたかくて大きな手が当たる感触が
気持ち良い。
「前髪も、少し整えようか」
「うん。お願いします」
そう言うと、サンジが椅子をもう一脚持ってきて
私の向かいに置いた。
椅子に座ると、膝が当たるくらいに距離が近かった。
膝が当たらないようにサンジが足を開いて、
また少し近づく。
私の胸はドキドキと大きく脈を打ち始めて
息をするのも意識してしまうくらいの距離。
「目、瞑って?」
「あ、うん」
少し慌てて、私はぎゅっと目を瞑る。
見えなかったけど、サンジが少し笑った気がした。
まぶたの向こう側でサンジが動く気配がする。
「力抜いて」
いやに優しくサンジにそう言われて、
ぎゅっと目を瞑っていた力を抜いた。
櫛が、そっと前髪に触れるだけでドキドキが強くなって
なんだかばかみたいだ、と思った。
ゆっくり、ハサミが髪を鋤く音が聞こえる。
頬とか鼻に切った髪が当たって少しむずむずした。
櫛もハサミも髪から離れて
サンジの手がそっと私の前髪を指で漉いた。
何もいわずに何度もその手が上下する。
もう、前髪は揃え終わったはずなのに。
そう思うと、いらない妄想が頭を駆け巡って
心臓が飛び出そうに騒いだ。
かなり長い間、そうされていたように感じたけど
もしかしたら数秒くらいだったのかもしれない。
多分、私は上手く息をしていなくて
気づいたら少し、息苦しかった。
「…終わったよ」
目を開けると、サンジの顔がすぐ近くにあって
サンジは、私の顔をじっと見つめたままだった。
「キスされるかと思った?」
サンジは、私が何を考えていたのか
お見通しだとでもいうように、
にやりと笑ってそう言った。
「…!!お、思ってない!!」
私は咄嗟に否定して、サンジの胸を押したけど
悔しいことに、サンジはびくともしなくて
余裕そうに、両手をあげて笑った。
ごめんごめん、と少しも悪くなさそうに謝ったサンジは
カゴの中から鏡を出した。
「どうかな?気に入ってもらえるといいけど」
意地悪をされて、サンジを睨みつけるように見ていた私は
サンジがちょうど良い高さに差し出してくれた
鏡を覗き込むと
一気にその気持ちも吹っ飛んだ。
わかっていたはずなのに少し寂しくなるくらいに
ばっさりと短くなった髪。
でも、肩より少し上の流さに綺麗に切り揃えられた髪は
私の好みにぴったりの髪型だった。
自分の髪に手を伸ばすと
自分の髪じゃないみたいな手触りで
不思議な気持ちになった。
「すごい。」
「我ながら、よく出来たと思うんだけど」
「うん!すごい!
サンジ、ありがとう!」
私は左右を向いて後頭部を触ってみたり
いろんな角度から見たりして
新しい髪型を楽しんだ。
頭も軽いし、イメチェンも出来たけど
私っぽさは残ったままだった。
「可愛いよ」
サンジの言葉に、視線を鏡からサンジへと動かす。
サンジはどんな顔をして
そんな事を言うんだろうと少し気になったから。
でも見た瞬間、見なきゃよかったと後悔した。
私を見るサンジの表情は
あまりにも優しくて、甘い顔をしていた。
そんな顔で見られたら、
勘違いしてしまいそうだったから。
「あ、ありがとう…」
サンジの手が、私の髪に伸びる。
サンジのその甘ったるく絡みつくような視線から
目が離せなかった。
「可愛いな、本当に…」
サンジが溢すようにそう口にすると
私は、頭がどうにかなってしまいそうで
いてもたってもいられなくなって、
椅子から勢いよく立ち上がった。
「わ、私みんなに見せてくる!!
本当にありがとうサンジ!!」
そう言って、私はダイニングを飛び出した。
背後でサンジがどんな顔をして私を見送っているのかも
気にする余裕なんてなかった。
サンジが可愛いだなんて言うのは日常茶飯事で
嬉しいとはいえ慣れているはずなのに
今日のサンジはどこかいつもと違うような気がして
ドキドキが止まらなかった。
なんだか頭がうまく回ってないようにぼーっとして
髪を切る間に、本当にサンジの手から、
魔法をかけられたみたいだ、と思った。
サンジが切ってくれた新しい髪型は
みんなにも好評だったけど
心臓にすごく悪いから次からはやっぱり、
今まで通りロビンに切ってもらおうと心に誓った。
end
戻る
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