リクエスト作品
ふと目を覚ますとあたりはまだ真っ暗で
ナミもロビンも、まだ夢の中だった。
布団に入って2人の寝息が聞こえ始めてからも
なかなか寝付くことができずにいて
ようやく浅い眠りについてから
多分まだ2時間経ったか経たないかくらいだった。
数日前に出た島は夏島だった。
今もまだその気候に影響を受けたままの気温で
キャミソール一枚で寝ても、じっとりと汗をかいていた。
…シャワーでも浴びようかな。
島を出てから、もやもやと頭を巡る考えと
浅い眠りと気温のために体内に篭った熱と
じっとりと体を湿らせる汗のせいで
このままじゃ眠れそうにない。
この時間だと、いつもは最後に寝るゾロも
そろそろ寝る頃。
多分今は誰も起きていない、貴重な時間。
ナミとロビンを起こさないように
そっとベッドから出る。
下着と着替えを持って、
音を立てないように女部屋から出た。
いつもなら全く気にならないはずの
ドアの音がやけに大きく聞こえて
挙動不審になって、きょろきょろとあたりを見渡した。
誰も出ていなくて、波の音だけしか聞こえない
真っ暗な甲板に立っていると
なんだか、私一人ぼっちでここにいるみたいで
メランコリックな気持ちに拍車がかかる気がした。
憂鬱な気分を振り払うように頭を軽く振って
少し早足で大浴場に向かった。
電気の消えたキッチンも見張りのいないみかんの木も
いつもと違う場所みたいに見えた。
急いで服を脱ぎ捨てて
シャワーを頭から思いっきり被ると
少しは、頭がすっきりした。
「はあ……」
思わず、ため息が出た。
こんなに眠れないことは滅多になくて
一人ぼっちでこんな風に時間を過ごすのは
この船に乗ってから1度もなかった。
あんまり思い悩むタチではないけれど
今回はなぜだか
もやもやとした気持ちが晴れなかった。
湯船側にある窓を見ると
まだ外は暗かった。
ガチャ
「!!」
湯船に浸かろうと、バスチェアから立ち上がったその時、
更衣室のドアが開く音がして心臓がどきりと跳ねた。
こんな時間に、一体誰だろう。
私は今完全に無防備で、武器も何も持ってきていない。
唯一持って入っていたタオルを体に巻いて、
もし、敵だったら…と背筋を凍らせて息を潜めた。
「NAMEちゃん…?」
「さ、サンジ!?」
ドアの外から聞こえた声の主を知って
私は一気に安堵したけど、
まだ、心臓はドキドキいっていた。
「びっくりした…敵かと思った」
「驚かせてごめん」
サンジの声は、少し笑っているような穏やかな声だった。
「どうしたの?こんな時間に…」
「なんか眠れなくて、水でも飲もうとキッチンに行ったら
人の気配が残ってた気がして。
そしたら、上で物音が聞こえたから様子を見にきたんだ」
ライターの蓋を開ける、キン、という音が聞こえた。
「NAMEちゃんこそ、こんな時間にどうしたの?
寝る前にもお風呂入ってたよね?」
「…寝汗かいちゃって」
「…そっか。
それなら誘ってくれたらよかったのにィ〜♡」
サンジは少しトーンをあげておちゃらけた声を出す。
姿は見えないけど、
鼻の下を伸ばしてでれでれしている顔が浮かんだ。
いつもなら、もう!と一喝するところだけど
今はそんなサンジの冗談も切なくなるくらい
不安な気持ちだった。
「…サンジも入る?」
私たちは恋人同士で
裸を見るのも当然初めてなんかじゃない。
一緒にお風呂に入る機会なんてないものの、
何度か上陸した島で一緒に泊まった時にも
一緒にお風呂に入りたがるサンジとは反対に
私はいつも嫌がった。
だって、恥ずかしいから。
でも今は、恥ずかしい気持ちよりも
サンジに隣にいて欲しいという思いが勝った。
「……NAMEちゃん、何かあった?」
きっと予想外であっただろう私の返事に
一瞬だけ息をのんだように一呼吸おいて、
少し低いトーンで宥めるように私に尋ねた。
何かを察したかのように。
その声が、あまりに優しくて
鼻の奥がツン、と痛くなった。
なんだか涙が出そうだった。
「眠れなかったの」
私の声は、少し、震えていたかもしれない。
サンジがふう、と煙を吐く音が聞こえた。
「…一緒に入ってもいい?」
「うん。」
脱衣所からごそごそと音が聞こえてきた。
私は湯船に入るかどうか迷ったけれどそのまま
さっきまで座っていたバスチェアに座り直した。
こんこん、と控えめなノックの音が聞こえた。
ノックをする必要もないのにわざわざそうしてくれる
サンジの律儀さに、胸がきゅっとなる。
「どうぞ」
「お邪魔します」
なんだか、おままごとでもしてるみたい、と
私は少し笑った。
ドアの方を向いて待ち構えるのもなんだか恥ずかしくて
体に巻いていたタオルをもう一度しっかり巻き直して
私はドアに背を向けた。
ゆっくりとドアを開ける音が浴室に響く。
首だけ動かして、後ろを振り向くと
腰にタオルを巻いたサンジは、
とても優しい顔をしていた。
「絶景だな」
そう言いながらも、こんな時にでれでれしたり
鼻の下を伸ばしたりしないなんてずるい。
そんな風に、2人っきりの時は空気を読むサンジが
すごくすごく、好きだった。
「NAMEちゃん」
浴室に反響するサンジの声は
いつもと少し違うように聞こえた。
「髪、洗う?」
「うん。汗かいたし…洗おうかな」
「よし。」
そう言って、サンジはもう一つのバスチェアを
私の後ろに持ってきて座った。
「えっ?サンジが洗うの?」
「もちろん。おれ、結構得意だよ」
「確かに、上手そうかも」
「だろ?」
そう言って、にやりと笑う顔が無邪気だった。
私はサンジに背中を向けて、「お願いします」と言った。
きゅ、とシャワーの蛇口をひねる音が響いて
優しい手が私の頭を少し後ろに倒す。
体勢がきつくないように、背中に膝を当てて
少し体重をかけられるようにしてくれる。
頭から、ゆっくりとお湯をかけられると
じわっと頭皮にお湯が沁みて
ゆっくりとサンジの指が髪の間に入る。
毎日自分でしていることなのに、全く違う感触だった。
気持ちが良くて、私はそっと目を閉じてその感触に集中した。
心まで一緒に、解れていくみたいだった。
「…何があったか、聞いてもいい?」
シャンプーを泡立てて
私の頭皮をやさしくマッサージしながら
サンジが尋ねた。
「ばかみたいだって言うかも」
「言わないよ」
サンジは絶対にそんなこと言わないってわかってるのに
そんなことないよと言って欲しくて
サンジに甘える自分が嫌だった。
サンジの声は、変わらず優しかった。
「…この前の島で…私、全然役に立たなかった。
怪我して、みんなに心配もかけちゃったし。
強くなりたくて、トレーニングもしてるけど
全然追いつけなくて…
自分の努力が足りないんだろうけど
なんか焦っちゃって」
サンジは何も言わずに、シャンプーを続ける。
その手つきがあまりに優しくて
色んなものがゆるんでしまいそう。
「サンジはいつも私を守ってくれるって言うけど
守られるだけじゃ嫌だって思うのに、
やっぱり力が足りなくて結局守られてばっかり。
好きな人に、迷惑ばっかりかけてるのも嫌で、
…私、なんでここにいるんだろうって…思って…」
私の鼻を啜る音が響いた。
言いながら、どんどん自分が情けなくなってきた。
本当に、ばかみたいだ。
サンジに呆れられたらどうしよう、
今度はそんな思いまでも浮かんできた。
「流すね」
サンジは優しく、
でも有無を言わさないような声でそう言った。
じゃぶじゃぶと、泡を流す音だけがしていた。
お湯が顔にまで垂れてきて
私の頬を伝う涙を隠してくれているみたいだった。
しっかりと洗い流すと、
次はトリートメントを髪になじませる。
何も言わずに慣れた手つきで事を進めていくサンジに
胸が締め付けられた。
サンジ、今、何考えてるの?
沈黙に耐えられなくなって口を開こうとしたけど
何を言ったらいいかわからなかった。
「NAMEちゃんは、」
サンジが私の名前を呼んだ瞬間、
身体がびくっと跳ねてしまって
サンジの言葉が止まった。
「ごめ…」
咄嗟に怯えたような態度になってしまった事を
謝ろうと口を開いた時、
サンジの腕が私の腰をぎゅっと抱きしめて引き寄せた。
どきん、と心臓が跳ねた。
背中越しに伝わるサンジの心臓も
いつもより速く脈を打っている気がした。
「NAMEちゃんは、アイツが…
ルフィが、強いかどうかで仲間を決めてると思う?」
「…思わない、けど」
「だろ?
アイツは自分が一緒に冒険したいかどうかで決めてる。
だから、NAMEちゃんの腕っぷしが強くても
そうじゃなくても、そんな事関係ねェんだ。
アイツに選ばれただけで、おれ達は全員、
ここにいる意味がある」
胸がかっと熱くなった。
何もかも、サンジの言う通りだった。
そんな大事なこと、見失ってたなんて恥ずかしい。
私は、ルフィに選ばれてここにいる事を
誇りに思わないといけないのに。
「それに…この事は黙っとくつもりだったんだけど」
「…なに?」
サンジが言いにくそうに切り出すから
私は不安になって、小さい声で聞き返した。
「おれがNAMEちゃんを守ろうとするのは
NAMEちゃんのためにしてる事だと思ってる?」
「…ちがうの?」
「おれは、そんなに優しいヤツじゃねェさ」
サンジは少し、自嘲するように笑った。
私を抱きしめる腕の力が強くなった。
体に巻いた濡れたタオルから
水分が押し出されるようにぎゅっと音が鳴った。
「NAMEちゃんが笑ってくれたり、
ありがとうって言ってくれると
おれはスゲェ嬉しくて、もっと言って欲しくなる。
おれは、NAMEちゃんにおれのことを
かっこいいとか、好きだとか常に思っていて欲しい。
だからおれはNAMEちゃんのことを
いつも助けるし、守るんだ。
結局、自分のためにやってんだ。
おれのエゴだよ。
…ダセェだろ?」
「サンジ…」
「だから、NAMEちゃんが
自分のためにとか自分のせいでとか
自分を責める必要は微塵もない」
おれのワガママだから。
そう言ってサンジは私の腰を抱く力を緩めた。
「これからもおれに、
NAMEちゃんを守らせてくれねェかな?」
目の奥がぐっと熱くなった。
優しくないなんて、嘘だよ。
それが優しさじゃないなら、優しさなんかいらない。
そう思うくらいに胸がいっぱいになった。
それを伝えたかったけど、
うまく言葉にならなかった。
私は、こぼれてくる涙はそのままで
ただただ必死で頷いた。
心にもやもやと蟠っていたものが吹き飛んで
かわりに何かがはじけて
温かいものが心に染み渡るような感覚だった。
嬉しいとか、愛おしいとか、好きだとか、
甘酸っぱいような喜び、そういったものが。
「よかった。
…髪、流すね」
そう言って、蛇口を捻ろうとしたサンジの手を
私は握りしめた。
「…サンジ……ありがとう…」
私は後ろを振り返って、サンジの顔を見る。
どうしても今、サンジの顔を、見たかった。
サンジの顔は、真剣で、でも優しかった。
サンジの顔を見たら、今度は触れたくなった。
私はサンジの腕を掴んで、自分の体ごと向きを変えて
サンジと向き合った。
振り向いた時は顔だけだったのに
身体の距離まですごく近くなって、ドキドキした。
私はサンジの頬に触れて、
それから指を滑らせてサンジの顎髭を触った。
指で軽く擦ると、くすぐったいのか
サンジが身じろぎして私に触れた。
私の濡れた前髪を摘んで、
大きな手のひらで頭に撫でつけた。
私はサンジの顎から首筋に手を動かして
サンジの顔をぐっと自分に引き寄せて
ゆっくりと目を閉じてサンジにキスをした。
唇を離して目を開けるとサンジと目があって
もっとキスしたい、そう思ってまた近づこうとすると
サンジが力強く私の肩を掴んだ。
「…、NAMEちゃん、これ以上はちょっと…」
焦ったような顔をしたサンジは
あんまり時間ないし、そろそろ起きて来るヤツもいるし
などと珍しく歯切れが悪くて、
そんな姿が可愛くて愛おしくて、私は笑った。
「そうだね。髪、流してもらわなきゃ」
そう言ってサンジに背中を向けると
サンジは力無い声で返事をして
またそれが可笑しくて私は笑った。
きゅ、と蛇口をひねる音がまた響いて
温かいシャワーが髪を濡らす。
頭全体や、耳の後ろや頸を触るサンジの手が
大きくて、優しくて、頼もしかった。
サンジはまた慣れた手つきで髪を絞って、
ゴムでまとめてくれた。
「はい。おしまい」
「…ありがとう」
私はまた後ろを振り向いて、
「どういたしまして」とにっこり笑うサンジの手を握る。
「サンジ…湯船は…?入る時間ある?」
「…ある」
そう答えるサンジの顔は妙に真面目な顔で
ちょっと迫力があって面白かった。
キスする時間はないくせに、と
少し思ったけど言わなかった。
手を繋いで、湯船まで歩いて、一緒に入る。
毎日入っているお風呂なのに、別の場所みたいに感じた。
「ねえ、サンジ。」
「なに?」
私とサンジは隣り合わせに座って
手を繋いだままでいた。
「そういえば、なんでお風呂に入ってるのが
私だってわかったの?
声も出してなかったのに…」
「あァ〜……それは、
脱衣カゴに入ってる下着見て…」
「!?」
私は繋いでいた手を振り払って、
サンジから距離をとった。
サンジはへらへらと笑っていた。
「な、なんでそれで私だってわかるの!?
変態!?」
「おれはNAMEちゃんが
おれと寝る時につけてた下着は全部覚えてる」
サンジは私のとった距離を無視して
私の手をぎゅっと握りしめて
めちゃくちゃ真面目な顔で言った。
すっごくかっこいい顔してるのに
言ってることがしょうもなくて
私は力が抜けてしまった。
「もう…何それ」
サンジは相変わらず笑っていて
そのまま私が振り払ったはずの手をまた握って
元通りにした。
なんだかんだ言って、私だって喜んでいた。
私は、サンジには敵わないな、と思って
その手をさらに握り返した。
「…サンジ。」
「うん?」
「色々…ありがとう。
悩んでること、全部どっかいっちゃった。
それに…サンジの秘密、嬉しかった」
少し照れくさくて、ちょっと冗談めかして言った。
誤魔化すようにサンジと繋いでいない方の手で
髪をいじると、ちゃぷん、と
湯船のお湯が跳ねる音がする。
「あァ、あれは。
…本当はかっこ悪いから言うつもりなかったんだけど
ついつい言っちまった」
サンジは頭をぽりぽりとかきながら
気まずそうな顔をしていた。
さっきのどうしようもない話では自信満々なのに
こういう話はかっこ悪いって思うなんて。
ちぐはぐで、それもサンジらしいと思った。
「全然かっこ悪くなんかない。
やっぱり、サンジのこと好きだなあって思ったよ」
サンジの手を握る力を強くして、私は言った。
サンジの顔を見るのは恥ずかしくて、前を向いたまま。
「…すげェうれしい」
絞り出したようなサンジの声が聞こえて
サンジの方を見ると、その瞬間、
私の肩にサンジの頭が乗った。
顔を横に向けると、
私の頬にサンジの髪の毛が当たってくすぐったい。
サンジの顔を見たかったけど、
表情は見ることができなかった。
窓に目をやるとどんどん空が白んできた。
夜が明ける。
「…そろそろ朝メシの準備しねェとな」
そう言って、私の肩から顔を上げて
サンジは立ち上がった。
振り向いた時に見えた笑顔は、
ニカッと明るくおどけたように笑う
いつものサンジだった。
「じゃあ私も…」
「あッ、イヤ…
NAMEちゃんはおれが着替えてから出てきてくれる?」
「えっ?なんで?
…一緒に出ていくとこ見られたくないの?」
「イヤ…そうじゃなくて…その…
脱衣所で…全部見てもいいならいいけど…」
サンジの顔がどんどん溶けていって
でれでれとだらしない顔に変わっていく。
私はやっとサンジの言っている意味を理解して
すぐに体を丸めて湯船の中に沈んだ。
「だ、だめ!!!早くあがって!」
そう言って、片手だけお湯から出して
しっしっと追い払うように振る。
サンジは笑いながら「あとでね」と言って浴室を出る。
脱衣所から鼻歌が聞こえてきて、
私はまた湯船の中で笑って
窓の方へと目を向けた。
私の心はもうすっかり晴れ渡っていて
差し込む朝日がやけに眩しく感じた。
「悩み事があって、クルーが寝たあと
お風呂に入ってた夢主に気づいて一緒にお風呂入って
髪の毛とか洗ってくれたり
悩みも聞いてくれる優しいサンジくん!」
という素敵なリクエストありがとうございます…!
ご希望に添えたかはわかりませんが
素敵なシチュエーションすぎて…!!
私は楽しかったです!ありがとうございます!
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