短いです。
ただサンジのことが好きな気持ちが溢れるだけのとある1日。







日が沈む直前、昼間のコバルトブルーから
ゴールデンイエローに染まる大海原を吹き抜ける潮風を受けながら、
女部屋の前の手すりに腰掛ける。


この場所から、くるくると軽やかに動き回るたびに
揺れる金色の主をそっと見つめることが
いつからか日課になっていた。


「んナミすぁ〜ん♡夕食ができたよ〜♡」


サンジの目がハート型に飛び出すのも、
鼻の穴を広げて鼻の下をめいっぱい伸ばすのも
言葉の限りを尽くして女性を褒め称えるのも
数えきれないほど見てきた。
今も目の前のナミに目一杯愛想を振り撒いている。
散々ナミに纏わりついたかと思うと
次の瞬間にはロビンの姿を探し始めていた。


ぶわっと、一瞬強い風が吹いた。
私の髪が大きく靡く。
視界を遮る自分の髪をまとめる時間すら
惜しいと思うほど
サンジを見つめる事に没頭してしまう自分が
滑稽だと思う。


あの、男ときたらチンピラのように睨みを効かせる
目つきの悪い三白眼の奥に
湛えるそこはかとない優しさも
くるんと面白く巻いた眉毛も
すこし厚い唇も、細くて骨張った長い指も
低くて甘い優しい声も
ぜんぶぜんぶ、私のものになればいいのに。


「NAMEちゃんも、ご飯できたよ〜♡」


サンジが、芝生甲板からこちらを見上げている。
上から見ると、サンジの綺麗な頭の形が見えるから、
私はこの定位置が好き。


「ありがと」


そう言って、私は芝生甲板へと繋がる階段を降りる。
私よりもずいぶん背が高いサンジ。
近くで話すと、自然と見上げる形になって
身長差を実感してしまう。
背も高いし、細身に見えるけど近くで見ると体格も良い。
かっこよすぎるだろ…サンジ…と
毎回心で悪態をつく羽目になる。


お礼を言ってにっこりと笑うと
私にもしっかりとハートを飛ばして
サンジは嬉しそうに踊って飛び跳ねながら
ロビンがいると聞いたアクアリウムの方へと向かった。


相変わらずだな…と思いながら、
まるで子供のように無邪気に
(心は下心にまみれてるけど)
はしゃぐ後ろ姿を見送った。


そういえば、こうやってまばたきするのも勿体ないほどに
サンジのことを見つめるのに
夢中になったのはいつからだろう。


手繰り寄せた記憶の糸は、
とても曖昧で頼りないものだった。


サンジは戦いや敵に出会した時、
私が命の危険を感じた時に
いつも誂えたかのようなタイミングで
私の前に現れる。
そして、なんでもないような顔をして私を助けてくれた。
それは何度でも起こった。


サンジはとてつもなく、呆れるほどに優しい。
だから色んな人を助ける。
人助け稼業ではないなどと言いながらも
結局、誰よりも人を見捨ることが出来ないのは
他でもないサンジだった。


とてもありがちで単純だなと自分でも呆れるけれど
結局、そういう姿を何度も何度も目の前で見せられて
抜け出せないくらい深いところへ
落ちてしまったのだろう。


今日もとびきりに美味しい晩御飯を終えて
各々に好き勝手にくつろぐ時間。
私は、キッチン横のバルコニーの手すりに
寄りかかっていた。


この場所は、芝生甲板ではしゃぐみんなの声を聞きながら
キッチンの灯りを堂々と見つめることができる、
お気に入りの場所。


今日は、もうすぐ新しい島も近づいていて
それを待てないルフィが
船首に付きっきりになっているから
芝生甲板は、いつもより静か。
それに、気候も安定している。


凪いでいる夜の海を眺めながら、
私は飽きもせずにまたサンジの顔を思い浮かべていた。


「NAMEちゃん」


突然、背後から聞こえた声に
息が止まりそうになった。
その声は、紛れもなくサンジの声で。


サンジが私の名前を呼ぶだけで
自分でも驚くほどに心が浮き足立つ。

サンジの目が私を捉えるだけで
私は、虹がかかったみたいに
心がきらきらと色を持つ。


「…びっくりした」

「ごめんね」


こてん、と首を傾げる姿がかわいい。
それだけで、私の心臓はばかみたいに元気に脈を打つ。


「ううん、私がぼけっとしてたから」

「物思いに耽るNAMEちゃんも素敵だーッ♡♡」

「はいはい」

相変わらず器用に謎の動きをしながら近づいてくるサンジに
笑いを噛み殺しながら、軽くあしらう。
…ふりをする。
内心は私だって踊りたいくらい喜んでいる。


「考え事?」

「ううん。ただぼーっとしてただけ」

「そっか。
NAMEちゃん、たまにこうやって1人で海を眺めてるだろ。
何考えてるのかなって、いつも気になってたんだ」


そう言って、サンジは私の隣に立って
同じように手すりに体重をかけて凭れかかる。

サンジが首を傾げて、私の瞳を覗き込むように見つめる。

ふわっと潮風が吹いて、サンジの髪をきらきらと揺らした。
風にのって鼻腔を掠めるサンジのにおいが、
私の心をぎゅっと締め付けた。


「…サンジはさ」

「うん?」

「いつもそう言う事、誰よりも先に気付くよね」

「そりゃ、おれはNAMEちゃんの事
いつも見てるから♡」

「真面目な話なんだけど…」

「おれも真面目なんだけどな」


ははは、と軽く声を上げて笑いながら
サンジは夜の空を見上げる。


空に浮かぶ星に嫉妬しそうになる。
私の事を、本当に瞳の中に入れてくれたことが
一体どれだけあるのだろうか。

私が今ここで、サンジに抱きついて好きだと言ってキスをしたら
サンジはどうするのだろう。


そこまで考えて、ばかばかしくなってやめた。
私からわざわざ関係を壊しにいくなんて、
できるわけがなかった。
これからの冒険を
私と、私を救ってくれた人たちの夢を
私のわがままな感情で壊すことなんてしたくない。

私も首を傾けて、サンジの見つめる夜空を見上げた。

見上げた空には太陽の面影などどこにもなく
闇に包まれているのに
高くて、深くて、どこまでも続いているのが
はっきりと見て取れるほど澄んでいた。


「夜空って色んな色が混ざってるよね。不思議。
紫とか緑とか…ピンクも見える。
あの1番大きい星の金色は、サンジっぽい」


何も考えずに口をついた言葉が
夜空に吸い込まれていくように
響いて聞こえた気がした。
まるで子供のようなことを言った気がして
すこし恥ずかしくなって
サンジの方へと視線を動かすと、目が合った。

完全に気を抜いていた体が
金縛りにあったかのように強張って
サンジの瞳から目を逸らせなかった。

止まってしまった頭を精一杯動かそうと
脳内が大騒ぎをする最中に
視界の端に、動く肌色が見えて
それでもサンジの瞳から目を逸らせない私が
それをサンジの手だと認識したのは
その肌色が私の髪に触れた時だった。


上下にゆっくりと動く手の感触が髪の毛越しに伝わる。
私は、現実味のないこの状況に
まばたき一つせずにただただ立ちすくんでいた。


何かを言おうとしたのか
閉じたままのサンジの口が開きかけた時
サンジの背後、芝生甲板から
サンジを呼ぶウソップの声が聞こえた。


「…クソ、あいつ」


不快感を隠そうともしない表情で
思いっきり舌打ちをして
サンジは私から視線と手を、ようやく離した。

大袈裟にため息をついて
サンジは気まずそうに頭を掻いて
私へとまた視線を戻す。


「ごめんね。
えーっと…また、ゆっくり話そう」

「…うん」


じゃあ、と言って、
騒がしく呼び立てるウソップたちに
悪態をつきながらも彼らの方へと走っていく
サンジの後ろ姿を見送って
ひと呼吸、ついた途端に
体が働く事を思い出したかのように急速に動き始めて
心臓がばくばくと脈を打った。


「なに、あれ…」


サンジの先程の行動が頭の中をぐるぐると駆け巡る。
私はその場に蹲って、膝を抱えてまた夜空を見上げた。
相変わらずきらきらと瞬く金色を今度は軽く睨みつけた。








やまとかおちとかなくてすみません!


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