「サンジ、ソース私にもちょうだい」
私がカリカリに焼けた目玉焼きに
辛口ソースをかける様子を眺めながら
サンジは全身全霊で喜びを表していた。
よくもまあこんなにわかりやすく
嬉しさを表現できるものだ。
「みんな好みがバラバラなのに
おれたちだけおんなじだなんて嬉しいなァ〜」
朝ごはんにかなりの高頻度で登場する目玉焼き。
私たちクルーはそれぞれに好みがある。
サンジはそれを当然のことのように覚えていて
何も言わなくてもそれぞれに好みのそれを出してくれる。
私は両面焼き派で、辛いソースをかけて食べるのが好き。
それは、偶然にもサンジと同じだった。
私たち2人だけが使う辛口ソースの瓶を見るたびに
2人の関係が形取られてそこにあるようで
心が満たされるのを感じた。
「確かにサンジくんとNAMEって
好みが似てるわよね。
やっぱり、恋人同士だと似てくるわけ?」
丁寧にナイフとフォークで切り分けた
目玉焼きを口に運びながらナミがいう。
半熟の黄身とオレンジソースが綺麗な色で混ざり合って
まさにナミにぴったりの目玉焼きだった。
「ううん、これはサンジと出会う前から。
本当に偶然なの」
ね、とサンジの方を向いて視線を投げかけると
「うん、運命だよね」と
それはそれは真っ直ぐな瞳で答えるものだから
私は、嬉しさで小躍りする
心の中のもう1人の私を隠すように
「大袈裟」と一言だけ言って、パンを齧った。
好きな食べ物は海鮮の辛口パスタ。
私もサンジも、辛いものが好き。
飲み物はコーヒーよりも紅茶派で
今食べている目玉焼きの焼き方も、両面焼き派。
辛いソースをかけて食べるのが好き。
他にも、いくつか選択肢があるときに
選ぶものが同じになることが多い。
好きな人との共通点は、やっぱり嬉しいものだ。
心よりももっと深い部分で
つながり合ってる気がするから。
みんなで話してるときに
相槌を打つタイミングが被ったり
ついつい同じような仕草で髪を触ってしまったり
恋人になってからどんどん
そういったものが増えていってる気がして
それを指摘されるたびに
嬉しさと恥ずかしさが入り混じった
独特の感情が湧き上がる。
それを幸せと呼ぶのかもしれないと、最近気づいた。
サンジと私の共通点を見つけるたびに
柔らかい何かに包まれているような
安心感に似た気持ちを覚える。
でも心が燃え上がるような
お腹の奥で熱を持った何かが
ぐるぐると動き回る
そんな感情が生まれるのは
サンジと私の違いを目の当たりにしたときだった。
「ねえ、サンジ…誰か来るかも」
「いや。……誰もいねェ。大丈夫だよ」
サンジに触れられている背中と頬が熱い。
誰かに見つかるかもしれないという思いから
軽く力を入れた私の両手が触れているサンジの胸板は
シャツの上からもわかるくらい
硬くて、分厚くて、やっぱり熱かった。
ほとんどのクルーがおそらく寝静まったであろう夜に
コンロ上の間接照明の明かりだけに
照らされたダイニングが作り出す
濃紺とオレンジのグラデーションはいつからか、
サンジと2人だけの時間の記憶の付箋のようになっていた。
「…今、見聞色使ったでしょ」
そう指摘されてへらっと笑うサンジに
覇気の無駄遣いだ、と小言をいえば
ますます嬉しそうに笑った。
「NAMEちゃん」
サンジが優しい、でもみんなといるときよりも
少し低くて甘ったるい声で
私の名前を呼ぶ。
重なった唇はあったかくて、柔らかくて、
でも表面が少しだけかたい。
サンジの唇や顔が動くたびに擦れる
髭の感触が、好きだった。
それにもっと触れていたくて、私は唇を離すと同時に
サンジの頬にそっと手を置き親指で顎を撫でる。
「NAMEちゃん、それ好きだね」
「うん、好き」
もう片方の手もサンジの頬に当てて
こっちでは唇の上の髭を撫でる。
「ねえ、顎髭と口髭、手触りが違うの知ってた?
これって長さの問題なのかなあ?」
「さあ…どうかな」
サンジは少し困ったように笑って、曖昧な返事をした。
何をされても笑って、
私にされるがままになっているサンジ。
「ひえ!!」
調子に乗っていつまでも
顔を撫でまくっている私の手のひらに
突然生暖かくてぬるっとしたものが触れた。
咄嗟の出来事に色気も何もない声を出してしまった私は
少し眉を顰めて、サンジの顔を見た。
「髭ばっかり見てないでおれのことも見てほしいな。
それに…」
いつの間にか腰に回されていたサンジの両腕に、
ぎゅっと力が込められた。
「そろそろおれも触りたくなっちゃったんだけど」
おどけた口調のサンジの目が色を持っているのがわかった
優しいだけじゃない、サンジの目
私はそのまま何も言わずに
サンジに口付けて無言の返事をした。
相変わらず濃紺と淡いオレンジに染まるダイニングに
私とサンジの息遣いと、触れ合う音だけが響いている。
サンジはいつも丁寧に、ゆっくりと時間をかける。
私の体の上をサンジの唇が這うときに
その唇を先導するかのように肌に触れる髭の感触がある。
キスをするときよりも
全身の感覚が研ぎ澄まされているから
さっき顔に触れていたものとは
別の感触と熱を持っていて
まるで生き物みたいだなと思った。
ダイニングに置いてあるソファの幅は狭い。
私たち2人が横に並んで寝ることなんて到底できなくて
どっちかが上にいるか、座っているかしかできない。
こういうことをするために作られたものじゃないから
当然なんだけど。
「サンジ、重くない?」
「全然。軽すぎるくらいだよ。」
「それは言い過ぎ」
いつだって少し大袈裟に軽口を言うサンジは
こう言うことになると殊更顕著だった。
でもそういうサンジの話し方も好きだから
サンジの上に寝ている私は笑いながら
そのまま、サンジの胸に頬を擦り寄せた。
「本当なのにな」
そう言いながらサンジは私の髪を撫でた。
「NAMEちゃんの髪は柔らかいな。
毎日同じ潮風に当たってるのに」
「ふふ。サンジは見た目より意外と髪の毛硬いもんね」
「そうなんだよなァ〜…」
ちょっと悲しそうなサンジの声が
頭上から聞こえた。
「髪の毛サラサラになりたいの?」
「そりゃそうさ。
NAMEちゃんも、そっちの方が好きだろ?」
「う〜ん…どうかな。私結構今の感じ、好きだけど」
「…じゃあ今のままでいいや」
結構深刻そうな声をしていたくせに
あっさりと手のひらを返したサンジがおかしくて
ついつい声を出して笑ってしまった。
笑いながら私は、絡めていた足を動かす。
お互いの足が擦れて、
サンジの硬い体毛が肌を刺激する
独特の感触が走る。
力を抜いていたサンジの体が、
少し力が入ったように固くなった。
それからまた力を抜くように大きく息をしたサンジは
また私の頭を大きく撫でた。
「…これも好きなの?」
「え?」
「いつもやってる」
そう言って、サンジが私の足をするりと撫でた。
無意識だったの?と言って
サンジは少し呆れたように笑った。
たしかに、無意識だったかもしれない。
言われてみればたしかに、
私は自分の足とサンジの足を擦り合わせて
感じる独特の感触や感覚がとても好きだった。
指摘をされると突然恥ずかしくなって
私はサンジから顔を逸らした。
そのまま再びサンジの胸に片耳を当てて、
サンジの心臓の音を聞く。
「私はサンジとお揃いの部分も大好きだけど
違う部分もなんかドキドキするから好き」
さっきよりも、心臓の音が少し早くなった気がする。
サンジも、ドキドキしてるのかな。
「サンジは…私のどういうところにドキドキする?」
サンジの心臓から耳を離して
今度はサンジの目を真っ直ぐに見て、私は尋ねた。
「おれはいつもドキドキしてるよ。
NAMEちゃんのやる事全てがおれをドキドキさせる」
「もう、そういうんじゃないってば…」
大真面目な顔でそう返してきたサンジにため息をついて
私が項垂れるから、
本当なのに…と、サンジはまた呟いた。
私は、いじけたいのはこっちだ、
と訴えるように少し睨んだ。
多分、怖くもなんともないだろうけど。
サンジが嘘なんてついてないのもわかってるし
こういう返事が来ることもわかってた。
それが嫌だとかそう言うんじゃないけど
でももうちょっと、
具体的な言葉が欲しくなる気持ちもわかって欲しい。
不満げな私の様子に気づいたサンジは
眉毛を少し下げながら笑って私の頭をゆっくり撫でた。
「お姫様はどうやら不服のようですね?」
私の頭を触れていた手をずらして
今度は両手で私の頬を包んだ。
私のご機嫌を撮ろうとするときの
サンジの顔はすぐにわかる。
首を少しだけ横に倒して、
上目遣いで私の顔を覗き込む。
私はこのサンジがとっても好きで、
いとも簡単に上機嫌になる。
まあハナから、本気で不機嫌になってさえないけれど。
「不服とかじゃないけど…」
私の頬を包み込んでいるサンジの手に私の手を重ねた。
大きさの全く違う手。
硬さも、厚みも、温度も全く違う。
少し外側に力を入れると、
サンジの手は簡単に私の頬から離れた。
それから私はサンジの唇にまた、自分の唇を重ねた。
軽く掴んでいたサンジの両手をそのまま動かして
サンジの顔の隣、サンジが横たわっているソファの上に
縫い付けるように押さえて組み敷いた。
「これはこれで興奮するね」
再び唇を重ねようと鼻先を近づけた私の目を見て
ふにゃりと蕩けたような顔で
サンジがそんなことを言うもんだから
私はたまらない気持ちになって、
誤魔化すように「ばか」と呟いた。
それから私は、唇から顎へ、
顎から首筋を通ってゆっくりと下へと、
サンジの体の上をなぞるように唇を這わせていく。
サンジのひとつひとつの反応が
私をどんどん昂らせていった。
私だけが知ってる顔、私だけが知ってる声。
それを作っているのが、私だと言う事実。
「サンジ…大好き」
たまらず私が言葉を漏らした瞬間に、
サンジがこの日1番の反応を見せた。
「ちょっ…と待って、もうダメだ」
私も相当興奮してきてて、頭がぼうっとしていた。
サンジの言葉を理解しようと気を取られた瞬間
あっという間に形勢は逆転した。
さっきまで私の下にいたサンジが
今は私の上に乗っていて
でも、全身をきつく抱きしめられているから
私の視界にうつるのは、
暗闇にぼんやり映る木製の天井。
頬に当たるサンジの髪が
少しちくちくしてくすぐったかった。
「サンジ?」
名前を呼ぶと、私を抱きしめる力がまた強くなった。
よくわからなくなって
私はサンジの頭をゆっくりと撫でた。
サンジの頭を撫でているうちに
もうすでに溢れていると思っていたはずの
愛おしいという気持ちがさらに湧き上がってきた。
だからサンジもいつも私の頭を撫でるのだろうか。
本当のことはわからないけど
そうだったらいいなと思った。
「NAMEちゃん」
名前を呼ばれたので頭を撫でる手を止めると
サンジは私の首筋に埋めていた顔をあげた。
「…、」
その顔は、なんとも言い表し難いものだった。
優しくって、甘くって、とろけるようで。
でも、熱くて、強くて、…野生的な色気が溢れていた。
私は全身がぞくぞくと震えるように痺れて
目が離せなくなった。
「NAMEちゃん」
絞り出すような声でもう1度
サンジが私の名前を呼んだ。
私は返事をするように口を開いたけれど
多分声はまともに出ていなかった。
「好きだ」
頭がくらくらした。
胸は張り裂けそうに苦しいし、
息もしにくいくらいに
身体中が機能のコントロールを失ってるみたいだ。
もう、気の利いた言葉なんて何も要らなかった。
さっきまで言葉を求めていた自分が
本当にばかみたいだと思った。
離れないで、この熱を感じられたらそれでいい。
サンジと私の、似ている部分も違う部分も
全部混ざり合ってくっついてひとつになる
この瞬間が何よりも、
愛おしくてたまらなくて
ずっとこうしていたいとただそれだけ、強く思った。
結局ただいちゃいちゃしてるだけでした…
もうすっごい前なんですけどリクエストいただいた
サンジくんの体毛関係…をテーマに書いてみたものです…
多分全然ご希望に添えてないと思いますが…
私も、サンジくんがあんな感じなのにすね毛が濃いのとか
髭があるのとかめちゃくちゃ好きなので…
すけべなことに見聞色使わせてすみません…
ここまで読んでくださってありがとうございます!
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