「NAMEちゃん。
君のことが好きなんだ。
おれの彼女になってくれないか。」

1回目は、たまたま船番を2人で任された
夏島の茹だるような暑さの中。

2回目は、食事の後、誰もいなくなったダイニングで
コーヒーの温め直しを待ってる間に。

3回目は、立ち寄った島で食事をした後、
サニー号に帰る帰り道で。

そしてまた、目の前の男は性懲りも無く
私の手をゆっくりと握り、
そして今までの3回と同じように
真っ直ぐに私の瞳を見つめながら
これまた今までの3回と同じ言葉を吐いた。

「…だから、もういいって」

私は笑いながらそう答えた。
一見したら、愛の告白のワンシーン。
こんなおどけた態度で躱わすなんて
相手に失礼だと怒られても仕方がないようだけど
相手がサンジときたら、それも当然だと思う。


「おれは本気で言ってるんだけどな」

サンジは悲しげに苦笑いを漏らしつつ、
ため息混じりにくるくるの眉毛を
くたっと下げてそう言った。


窓の外を見やるとあたりは
白いベールがかかったように
ふんわり淡い白色に染まり
桟にはさらさらの雪が丸みのある形で積もっていた。

「雪だ。」

そう言って窓ガラスに近づいて外を覗いた。
窓の周りの空気はひんやりと冷えていた。

「次の島は冬島か…
食料があればいいけど」

なんて事ないような素振りで、
サンジは私の隣に立ってそう言った。
愛の告白をした後だとは思えない素振りで。

やっぱり、この男の告白なんて、
全くもって信用できない。

サンジはありとあらゆる女性に対して
深い愛情を持ち愛想を振りまき
愛の言葉を口にする。
私以外の女性に告白をする姿なんて
数え切れないほど見てきてる。
だから、いちいちその言葉を間に受ける事自体が
馬鹿馬鹿しいのだ。

窓の外が騒がしくなってきた。
どうやら、ルフィたちが雪合戦を始めたようだった。
その声はどんどんヒートアップしている。

「そろそろナミに怒られるんじゃないの」

「…だね」

そう言った瞬間、
想像通りのナミの怒鳴り声が聞こえてきて
私たちはやっぱり、と言って、目を合わせて笑った。


.

「ひゃ〜!!さっっむい!!」

暖かかったダイニングのドアを開け外に出たら
冷え切った空気のかたまりが
服の繊維の隙間という隙間から
入り込んできて、私の肌を刺す。
自分の両腕で自分自身を抱きしめるように抱えて摩った。

サンジは抜け目なく
「おれが温めてあげるよ!」などと言って
私に抱きつく素振りを見せたので
はいはい、と軽く往なしてサンジの横をすり抜ける。

「サンジも風邪引いちゃうから、
早く上着持ってきなよ。」

そう言って振り向いた時に見たサンジは
わざとらしいくらいに悲しそうな顔をして背中を丸め
私の名前を頼りなげに呼んでいて
いつも女に冷たくされた時の反応のそれだった。


.

クローゼットの奥から1番暖かそうな上着を探し当てて羽織った。
室内では十分に体を温めてはくれたけど
この極寒の地を歩き回るにはどう考えても、
全くもって心許なかった。

「もしかしてNAME、上着ってそれしか持ってないの?」

驚いた声でそう言ったナミは
ふわふわの毛皮で出来た
これ以上なく暖かそうなコートを羽織っていた。
毛足がさほど長くないファーで覆われていて
首元にボリュームはあるけれど全体のシルエットは
すっきりとしていてナミの小さい顔でも
違和感なく着こなしていた。
(まあ、ナミはどんな服でも着こなせる
最高に抜群なスタイルだけど)

「それじゃあ、この土地を長時間散策するのは
難しいわね。NAME、低体温症で凍死しちゃうわ」

ロビンは綺麗な形の眉を顰めながら
縁起でもないことをさらりと言った。
そんなロビンは、スリムなラインの
一見薄手のコートを着ていたけれど
それはとても上質なウール素材で、
内側には薄いダウンの層が仕込まれていて
首や袖にはしっかりと密集したファーが
ついていてしっかりと防寒の役割を
果たしてくれそうだった。
深い深いネイビーブルーがとても良く似合っていた。

考えてみたら、私がこの船のクルーになった季節は夏で
それからそう短くはない時間を過ごしはしたし
色んな島には行ったけれど
こんなに分厚い雪が積もる寒い地域は
今回が初めてだった。

凍死するは大袈裟にしても、
普通に寒くて過ごせたもんじゃないので
島に入ったらまずは暖かいコートを
買いに行くことにした。
ナミとロビンに選んで欲しいとお願いしたら
2人とも快く引き受けてくれた。

ナミから借りた別のコートとその中にニットを着込んで
ロビンから借りたマフラーで
首と頭をぐるぐる巻きにした姿で
甲板に出た私を見て鼻で笑ったゾロは、
サンジに思いっきり蹴り掛かられていた。

それに応戦して喧嘩(もとい、じゃれ合い)
が始まったけど
私たちはそれをほったらかして足早に船を降りた。

島の安全は、いつもの如く真っ先に飛び出したルフィと、
それに連れられたウソップ
そして久々の冬島に喜びが抑えられない様子の
チョッパーからの連絡で確認はできていた。

私は、考えてみたら初めての
女水入らずの島の散策にワクワクして
今にも小走りしたい気持ちになっていた。



.

海岸沿いの針葉樹林の舗装された小道を抜けると
年季の入った薄くて淡い
オレンジ色の煉瓦造りの大きな門が見えた。
そこで入場料を払って、
一度払うと島を出るまでは有効なパスがもらえる
というシステムだった。
思ってた以上に繁栄した島で、
私たちがただの観光客であろうと海賊であろうと
関係ない、といった様子だった。
(そもそも、わざわざ危険な海を渡って
観光する人なんてそうそういないけれど)

入場料、と言われた瞬間咄嗟に
ナミの顔色を伺ったけれど
とにかく面倒を避けたいナミはため息をつきながら
入場料を払うことを許してくれた。
当然のように、値切ることは忘れなかったけれど。

ナミと門番のはらはらするやりとりの後
大きな門をくぐると
そこには白の世界が広がっていた。

「すごい…!!真っ白!!」

「わー!!綺麗っ!!それに建物も、可愛い〜っ!」

「壮観ね」

さまざまな濃淡の白色に塗られた三角屋根の建物と
先ほどの森を創り上げていたのと同じ針葉樹が
ランダムに並んでいてそのどれもが、
真っ白の雪化粧。
さらさらでふわふわの雪のせいで
すべてが丸みを帯びて重なっている。
辺り一面の雪たちがやんわりと降り注ぐ
太陽の光を反射してふわりと辺りを
さらに明るく照らしていた。
足をすすめると雪の上にくっきりと足跡がつくけれど
しんしんと降り続ける雪がすぐにその足跡を隠した。

景色に見惚れて最初のうちは
体温が上がっていたものの
突き刺すような氷点下は当然そのまんまで
私の体がぶるっと震えた。

「まずは急いでNAMEの上着を見に行きましょう」

その姿を見てロビンはそっと私の背中に手を伸ばし、
ゆっくりと摩りながら、本来の目的へと促した。

「そうね!買って買って買いまくるわよ〜!!!」

ナミもその言葉に背中を押されるように
張り切って歩き出した。

こんなに寒い街だから
当然コートは売ってあるとは思ってはいたけれど
思った以上にたくさんの商店があり
思った以上にたくさんのコートが並んでいた。

私はどんどんめんどくさくなっていって
もう適当でいいよ、となったけれど
そんな事、ナミが許してくれるはずもなく
ナミが選んでは重ねていくコートの数々を
片っ端から試着していった。

もう何着きたかわからなくなるくらいの
試着をしてようやく決まったのは
羊みたいにもこもことした生地で出来ている
白に近いベージュのコート。
フードまで全部もこもこ素材で出来ているのに
程よい身頃は、余裕があるのに
着膨れることなく着ることが出来た。
これなら動きやすそうだし、
しっかり暖かくて、そして絶妙に可愛い。
同じ素材の耳当て付き帽子とブーツも買って
これで思いっきりこの真っ白な街を
散策することが出来そうだ。

「ナミ、ありがとう!
ロビンも、最後まで付き合ってくれてありがとね」

そう告げると、2人とも、楽しかったと笑ってくれた。
目的のコートを買った私と
いつの間にか自分達の分の洋服を
両手に抱えたナミとロビンは
ランチを取るために
服屋に行く途中に見かけたレストランへと向かった。

私たちは、サーモンを使った
あつあつのミルクスープや、
ハーブをふんだんに使ったミートパイや、
じゃがいものグラタンなど
体の芯からぽかぽかに温まる料理に
舌鼓を打った。

そして、マグカップに入ったスパイスの効いた
ホットワインを飲んでホッとしたとき
にやにやと笑いながら、ナミは私に詰め寄った。 

「で?サンジくんとはどうなのよ?」

「は?」

全く想像もしていなかった突然の発言に、
私は一瞬何を言われているか理解できなかった。
そして聞かれている内容を理解したところで
何のことを言われているかもわからなかった。
サンジと?何が?一体どうしたっていうのだろう。

「ごめん、何の話?」

私がそう言うと、ナミは「まじで?」と言って、
大きなため息をついて
ソファ席の背もたれに寄りかかった。

「本当に、心当たりはないの?」

ロビンがマグカップのふちを
親指で拭いながらそう尋ねた。
リップを拭うその仕草が自然で、
エレガントで綺麗だな、などと
場違いなことを思いながら私は
ナミとロビンを交互に見やった。

「もしかして今朝、
サンジが私の事を好きだとか言ってた事?」

「そう!それよー!!」

ナミは何故か嬉しそうに
ソファから半分立ち上がるようにして
再度私に顔を寄せた。

「でも、そんなのナミとロビンだって
いつも言われてるでしょ。
日常茶飯事じゃない」

ていうか、なんで知ってんのよ。

そう付け加えて言うと、
ナミはまずい、という顔をして頭を掻いた。
それから、まぁ、なんで知ってるかは
置いといて…と言って、話を切り出した。

「あんた、本当に気づいてないの?」

この流れから察するに、
サンジは本当に私のことが好きだとでも
言いたいのだろうか。
そんなのあまりにも馬鹿げてる。
自分からそれを口に出すのも憚るほどだったから、
私は再び「何の事よ?」と聞いた。 

ロビンの表情をちらりと見ると
苦笑いするように、
眉毛を下げて微笑みを湛えたままだった。

「何もかも把握してて申し訳ないけど、
あんたが最初にサンジくんから好きだって
ちゃんと言われたのはいつか覚えてる?」

「…ほんとに何でそんな事把握してるわけ?」

いいから、と何故か机をばんっと叩かれて
私が怒られてるような状態になった。
あまりに理不尽だ、と思ったけど
ナミは人に有無を言わさない力がある。
絶対覇王色の覇気だと思う。

「…2個前の夏島の時だけど。」

私は不満な気持ちを隠す事ない声で答えた。

「そうよ。
その時からサンジくん、
私やロビンに好きだとか愛してるとか
告白じみた言葉、言わなくなったの気づいてた?」

どき、と、いつもより少し早めに心臓が脈を打った。

「…なに、それ」

ナミが何を言いたいのかわからない。
いや、私の頭が、わかろうとしてないのかもしれない。

「NAMEは本当に、
サンジのこと全然意識してなかったのね」

ロビンの言葉にナミは頭を抱えて、
残酷な事言ってあげないでよと呟いた。

「だって、あのサンジだよ。
間に受けるわけないじゃん。
いっつもいっつも女ときたらでれでれして、
今まで何回も同じような言葉いろんな女に
吐いてる姿目の前で見てるし、
いくら2人っきりの場所で、
大真面目な顔で言われたからって………」

言葉にして、はっとした。
もしかしたら、サンジはサンジなりに、
真面目に伝えようと
場所やタイミングを選んでくれてたのかもしれない。
瞬間的にそう思った。
それを察したのか、
ナミもロビンも何も言わずに頷いた。

「でも、だからって……
私は、サンジの事を仲間としか思った事ないし、
万が一本気で私に気持ちを伝えてたとしても
急にそんなこと言われても……困る」

これは本当に本音だった。
今まで意識したことなんかなかったけど
もしかしたら本当にサンジが
私の事を思ってくれているのかもしれないという
可能性を感じた今
真っ先に浮かんだ感情は「困る」だった。

サンジの事は大切。
大好きだ。ずっと一緒にいたいと思ってる。
でもそれは、仲間として。

サンジは強くて誰よりも優しいけど
特別な気持ちで見たことなんてなかったし
そんな仲間が私の事を特別な感情で想っている
なんて想像したこともなかった。


「困る…ね」

ナミの声で顔を上げると、
2人は困ったように、でも優しく笑っていた。

「まぁ、そこから先の感情はNAME自身の問題だから、
口出すつもりはないわ。
だめならだめで仕方ないもの」

そうね、とロビンも言った。
2人は本当にそう思っているようだった。

「ただ、まぁ…あんたにあまりにも
気持ちが伝わらないもんだから
サンジくんがへこんでたのよ。
まぁ、自業自得なんだけどね。
なんだか放って置けなくて、
世話焼いちゃったわ。」

「少しは、男として見てあげて
それからありかなしか判断してあげたら?」

ナミがサンジの事を想って言ってるのは伝わったし
ナミやロビンがそういうならきっと、
サンジは本当に私の事をそう言う気持ちで
想ってくれているんだろう。

「わかった」

私は本当の意味で理解して
納得していたわけではなかったけれど
それ以外の答えが見つからなかったのでそう答えて
自分の感情を隠すように、マグカップに口をつけた。
ホットワインは、もう冷たくなっていた。


.

そのまんま、サンジがいるかもしれない船に
帰る気にならなくて
私は少し散歩してから帰る、と2人に告げた。

2人は島で1人になるなんて危ないと
最初は許してくれなかったけど
ここから4軒先の小さなカフェの中にいて
暗くなるまでに帰るということを
条件に承諾してくれた。

私たちはレストランを出て
4軒先のカフェまで一緒に行って、別れた。
明るいうちに帰ってくるのよ!!!!と
何度も言って帰っていくナミの姿に
笑いながら手を振った。


「いらっしゃいませ」

木造のカフェの丸太でできた重い扉をあけると
おそらくこの店の主人であろう、
優しい笑顔の女性がカウンターキッチンの中にいて
明るくて柔らかな声で、出迎えてくれた。

「こんにちは」

私は軽く挨拶をして店内を見回した。

外より少しだけ薄暗い店内は
オレンジ色の照明で照らされていた。
壁にはいくつものパッチワークが飾られていて
店と同じく木で作られた椅子には
可愛らしい色とりどりの
小ぶりなクッションが置いてあった。
奥の壁側には暖炉があって、
その隣には薪が積み上げてあった。

私は入り口に比較的近い窓側の席に座った。

テーブルには、手作りのような
木彫りのメニューが置いてあった。
お酒があまり強くない私は
ホットワインでほんの少しだけだけど
頭がふんわりしていたので
コーヒーをブラックで頼んだ。

ほどなくして、
丸みのある青いマグカップに注がれた
コーヒーが運ばれてきた。
そしてその隣にそっと、
お揃いの青い小さなお皿が置かれた。
そこには淡い茶色のキューブが3つ乗っていた。

「これは…?」

「生キャラメルです。
サービスなので、よかったらどうぞ」

そう言って、主人の女性はぺこりと頭を下げた。

「ありがとうございます」

私はお礼を言って、素直にいただく事にした。

コーヒーを一口飲むと
鼻を抜ける芳醇な香りは
絶妙な重さと深みがあった。
心地よい苦味が口内をすーっと通り過ぎる。
いただいたキャラメルを口にすると
その香りとコーヒーのバランスが良くて
最高のペアリングだった。

私は窓の外を見た。

さっき、ナミとロビンと別れた時には止んでいた雪が
また降り出していた。

この島の雪はふわふわしていて軽い。
空気が乾燥しているからだとナミが言っていた。


サンジ。

毎日見慣れた顔が浮かんだ。

髪に靡く金色の髪と、形の綺麗な後頭部。
くるんと面白く巻いた個性的な眉毛に
丸い三白眼の目。

料理の腕は超一流で、
戦闘員としてもルフィ、ゾロに続いて
主力を担う強さを誇る。
実は人情に溢れてて、
口は悪いけど優しくて、仲間思い。

そして、類まれなる女好き。


…最後があまりにも大問題すぎて
今の今まで男として
全く意識もしてこなかったし
気づきもしなかった。

まぁ、顔もよく見たら綺麗な顔してるし
優しいし頼りになるし、スタイルもいいしなぁ…
なんて、薄っぺらい考えが
頭をよぎったと同時に、
ばかみたいだ、と思った。

私たちは海賊なのだ。
恋愛ごっこなんてしてる場合じゃない。
今でこそ、こうやってゆっくりする時間が
あるけどそんなことは稀で。
基本的には命のやりとりを
毎日毎日繰り広げている。
目指しているものが、それだけ大きいんだから。
そんなものにうつつを抜かしている場合ではないし
もし、私とサンジがそういうことになったとして…
うまくいかなかった時はどうするというのだ。

もう、ナミとロビンが余計なこと言うから。と、私はため息をついた。
何にも知らないまま、
また毎日を過ごせたのに、と。

でもあんまり長く考え込むのが得意ではない私は
結果、
「まあいいや。次言われたらその時考えよう。
もうサンジも気持ち変わってるかもしれないし」
というところに落ち着いた。


窓の外を見ると、
さっきまで真っ白だったはずの景色は
もう青に染まっていて
次の瞬間には暗闇に落ちてしまいそうな気配が
漂っていた。

やばい、ナミに怒られる。
急いで残りのコーヒーを飲み干し
キャラメルを口に放り込んでお会計を済ませた。

「コーヒーもキャラメルもとっても
美味しかったです。
ご馳走様でした」

そう言ってドアに手をかけて振り向くと
主人の女性はとても嬉しそうに笑って
「ありがとうございます」と大切そうに言った。



「っう〜…さっむ…」

重い扉を引いて外出ると
さっき以上に冷気が体に突き刺さった。
私は買ったばかりのコートのボタンを
1番上まで止めて、
耳当てつきの帽子の上からさらにフードをかぶった。

そして街を見渡すと、一瞬で暗闇はやってきていた。
昼間は真っ白だった建物の軒先には
小さなイルミネーションのような
電球がたくさんついて、淡いオレンジ色に光っていた。
降っていた雪はゆっくりと舞い降りていった。

その景色に一瞬見惚れて立ち止まっていると
後ろから聞き慣れた声が聞こえた。

「NAMEちゃん!」

顔を見なくてもその声の主が
誰かわかった私の心臓は
再びどきんと脈を打って手に力が入った。

ゆっくり振り向くと、
心配そうな顔をしたサンジが
どすどすと大袈裟な音を立ててこちらに走ってきた。

「サンジ。」

「NAMEちゃん!
よかった…心配したよ、
暗くなったら帰ってくるって聞いてたのに、
なかなか帰ってこないから…」

暗くなったのはいまさっきなのに、
と屁理屈が浮かんだけれど、
本当に不安そうに顔を顰めるサンジを
目の前にして自然と「ごめんね」と言葉が漏れた。

サンジの着てる黒いコートには
粉雪が積もっていた。

「新しいコート。」

なんの脈略もなく放たれたその言葉に
頭が追いつかず、「へ?」と
間抜けな声を出してしまった。
サンジのコートに積もった
雪を見ていたからだろうかと思いを巡らしたけど
しばらくして、
私のコートのことを言ってるのだと理解した。

「ナミとロビンが選んでくれたの。
帽子とブーツも買った。」

そう言うとサンジは顔を溶かすように笑顔になって

「よく似合ってるよ。かわいいね」

と言った。
今まで何度もサンジに言われてきた言葉のはずなのに
昼の会話のせいでなんだか
むず痒いような照れくさいような気持ちになって

「ありがと」

と小さい声で返事をした。
なんだか気まずくなった私は
気を取り直すように「帰ろう!」と言って、
サンジの腕を掴んで、門の方へと歩き出した。
迎えにきてくれてありがとうとか、
言えばよかったかな、なんて事を考えながら。

門を抜けて、最初に通った
針葉樹林の方向へと進むと
急に視界がふんわりと明るくなった。
この時間にはもう人気はなくて
真っ白の雪が昼間よりも深くなだらかに、
一面を覆い尽くしていた。
そしてその雪が月の光を反射して淡く青く、
空気を照らしていた。
淡い光のサーチライトがゆっくりと動いていた。
それはとても神秘的な景色だった。

「きれい」

自然と口から溢れた。

「ほんとだ…」

後ろからサンジの漏れるような声が聞こえて、
共感を共有しようと、振り向いた。
私が腕を掴んだままのサンジの距離は
思ったよりも近くて
私よりも随分背が高いことを実感した。

目の前の景色を眺めていたサンジは
ふと、顔を動かし私の顔を見つめ返した。

薄明かりの中、「ね、」なんて言って
軽く笑っていたら、
サーチライトがサンジを照らした。

思ってたよりも、しっかりと見えたサンジの顔は、
寒さのせいで鼻の先が赤く染まっていた。
そして、「きれいだね」と言って、
私に笑いかけた。


途端、風がぶわっと吹いた。
強い風を受けて、雪たちが舞い上がり、
そしてひらひらと踊るようにゆっくりと落ちてきた。
またサーチライトの光が当たって、
キラキラと光っていた。


私の鼓動は今日1番の脈を打った。
それから、がたんごとんと電車が動き出すように、鼓動が存在感を示し始めた。
私はその音が聞こえてしまうかもしれない、
そう思って心臓の動きを押さえつけるように
手を動かしたけれど
もちろん、掴んだのは買ったばかりの
もこもこのコートの生地だった。

「どうしたの?」

そう言って、サンジは私の顔をさらに覗き込む。
さらに鼓動は激しさを増して
ばくばくと胸を突き始めた。
そして私の頬や耳が熱くなったのを感じたのと同時に
タイミング悪く、サーチライトが
今度は私の顔を照らした。
私は咄嗟に下を向いて顔を隠したけれど。
 
「え?」

サンジが、それを見逃すはずもなかった。

「NAMEちゃん。」

サンジはさっきまで自分の腕を掴んでいたはずの
私の腕を今度は優しく握り返して、
自分の方を向かせようとした。

「なんでもない。」

「…ごめん、見逃せないよ」

強く言い張った私に有無を言わさないように、
サンジは私の腕を引いて、
体を半回転させもう片方の腕も掴んだ。
腕を掴む力はとても優しかったけれど
サンジにしては珍しく強引な行動だった。


私は、自分自身に今何が起こってるのか
よくわからなくてなんだか泣きそうになった。
心臓のばくばくだって止まらないし
鼻の先を真っ赤に染めて笑うサンジの顔が、
頭にこびりついて離れない。

「だめ」

また、私は必死に顔を逸らしながら
言全然効果なんてないとわかりきった
否定の言葉を口にした。

「このままだと、期待しちゃうよ。
勘違いなら、勘違いだと言って欲しい」

サンジの声は切羽詰まっているようだった。
こんなサンジの声は聞いた事がなくて
私の頭の中には
昼間、ナミとロビンとした会話とか、
2個前の夏島の船の上でのサンジの言葉だとか、
誰もいなくなったダイニングとか
いつかのサニー号への帰り道のサンジの真面目な顔だとか、
私が軽く躱した後の悲しそうな顔だとか
色んなものがぐるぐる回っていた。

夕方散々頭を巡らせていた
仲間だから、とか海賊なのに、とか
もしうまくいかなかったら、とか
そんなことはどうでもよくなってしまっていた。

私は私の両腕を掴むサンジの腕を振り払った。
「えっ」と素っ頓狂な声を無視して
そのまま思いっきり、サンジに抱きついた。
サンジの背中は思ってたよりも広くて
私の腕の中には全然入りきらなくて
ああ、男の人なんだな、と実感した。


少し間が空いて、
私の背中にぎゅっと力強い圧力がかかって
コート越しでもわかるぬくもりが体を包み込んだ。
そして、頭の上から、やったー!!!!!
という子供っぽくて可愛いサンジの声が聞こえて、
私は、サンジの胸の中に籠もった声を響かせながら
肩を震わせて笑った。





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寒いところで鼻を赤くしてるサンジくんがとにかく大好きなんです。それだけの想いで書きました。

言葉足らずすぎていろいろ補足しまくりたい内容ですみません。
あとサンジくんとの絡み少なくてすみません!










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